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大規模な縞状鉄鉱床の発見から数日。埋蔵量は予想以上の規模であることが確認されて、ドワーフ達を狂喜乱舞させた。
「買う必要がないとするなら、今まで以上に武器開発と生産を推し進められるぞ!」
「それは良いことです。採掘のための人員は最優先で回します。鉄の生産が可能となれば、大きな強みとなります」
「任せとけ、嬢ちゃん。幸い里の奴等に声をかけたら、興味を持った奴が多くてな。人を増やせるぞ」
「それは何より。厚待遇で迎えると約束しましょう。それに、差別も黄昏にはありませんから」
館の執務室にて意気込むドルマンは興奮しつつシャーリィに報告。シャーリィとしても鉄を自前で確保できるとなれば、投資に躊躇はなかった。
「鉱床は全て帝国の管理下となりますが、ここはシェルドハーフェン。発見者であるレイミお嬢様に所有権がございます」
セレスティンの補足を受けて、レイミが口を開いた。
「お姉さまに所有権を譲渡します」
「お義姉様は良いのですか?」
「リースさんにも連絡しましたが、興味を示されませんでした。曰く、鉱山業に興味がないのだとか」
鉄鉱石のままだと価格も低く、製鉄することが重要となるが、資源の大半は帝国が管理しているため大々的に商売を行うことは出来ない。
つまり、自前の鉱床でも無ければ割に合わない。
「では、所有権はレイミが持っていてください」
「宜しいのですか?部外者の私が関与することになりますが」
「妹の好意で使わせて貰ってる。それだけですよ。うちにレイミを疑う人はいません。ねぇ?ベル」
「だな。妹さんは何度もうちのために身体を張ったんだ。今更疑う奴は居ねぇさ」
実際にはシャーリィ個人の為なのだが、暁構成員から好意的に見られているレイミ。
「ありがとうございます」
一方シャーリィ暗殺を目論むジェームズは、手の者数人を黄昏に潜り込ませて状況を探っていた。
数日後、そのうち一人が上手く館の調理室へ潜り込めたと報告があった。
領主の館の人員は常に募集され、シャーリィ専属の調理師、配膳係は特に審査もなく採用されているためである。
「バラバラの花だ。コイツを煎じて仕込めば終わりだ」
「任せとけ、旦那」
「あっさり潜り込めたな。毒殺を警戒してないのか?」
猛毒の花を持たせながら、ジェームズはアッサリと潜入できたことに首をかしげた。
シャーリィが口にするものを作る者達が特に調査もされずに採用される余りにも無防備な制度に疑問を持った。
潜り込んだ配下は一週間ほど様子を見て行動に移した。研修が終わり初めてシャーリィに夕食を出すことになったからである。
彼自身も罠である可能性を警戒していたが、特に怪しまれること無くシャーリィの夕食を調理。更に配膳まで任されたのである。
「先任は体調を崩されてな。君の腕が良くて助かった」
「滅相もない。まさか一週間で機会をいただけるとは。がんばります!」
調理の責任者からの激励を受けて暗殺者は元気に応じて見せた。
「流石に毒味くらいはあるだろうな。配膳を任されたのはありがたい」
毒味を警戒して毒は直前に仕込むことに決めた彼は、夕食を台車に乗せて執務室へ向かう。
館の内部は衛兵が居たが特に怪しまれることもなく執務室へ辿り着く。
「お嬢様、夕食の支度が整いました。さあ、ここに」
「畏まりました」
セレスティンに先導されて執務室にあるテーブルに配膳していく。
「お嬢様」
「ん、分かりました」
セレスティンが再度呼び掛けるとシャーリィが席を立ち、テーブルへ向かう。
室内にはシャーリィ、セレスティン、そして暗殺者の三名のみしか居らず、暗殺者は緊張を隠すことに苦心した。
「おや、新人さんですか」
シャーリィが、暗殺者に気づいて声を掛け、代わりにセレスティンが答えた。
「左様でございます、お嬢様。先日採用され研修を担当したものからも、調理の腕前は一流であると」
「それは楽しみです」
毒味をすること無くシャーリィが食事に手をつけた。拍子抜けする程の警戒心の無さを見せられた暗殺者は、計画を実行に移すことを決めた。
本来ならば時間をかけて信頼を得るために動くのだが、ここまで無防備だと罠を疑う。
だが、千載一遇のチャンスであることもあり、彼は勇み足を踏む。
「うん、美味しい」
「それは何よりでございます」
二人の意識が自分から離れた一瞬を突いて、飲み物である果実のジュースにバラバラの花の粉末を混ぜる。
バラバラの花は無味無臭、仕込んでしまえば気付かれることもない。
退路を確保していないが、混乱に乗じて逃げることも可能だと判断したことも決断に拍車をかけた。
現にシャーリィは何の疑いもなくジュースを口にし、暗殺者は成功を確信した。後は部屋を離れるだけなのだが。
「御馳走様でした。美味しかったです」
数分後、何事もないかのようにシャーリィが食事を終えた。
既にバラバラの花の毒が身体を回っていてもおかしくない時間が経過。しかし、シャーリィに変化は見られない。
暗殺者は内心の驚愕を表に出さないように注意しつつ、一礼して部屋を出た。
遺されたセレスティンとシャーリィは和やかに口を開いた。
「毒殺を狙う人が多いですね」
「この警備態勢です。お嬢様の暗殺を狙うならば、毒殺が確実でしょう」
「そう言うものですか。どうしても私を始末したい人がたくさん居て困ります」
「お嬢様は名声を高めてございます。不埒者が現れてもおかしくはございません。しかしながら、お嬢様自ら囮となる事は今でも反対でございます」
「鼠取りをするには、特上のエサが必要なのです。それに、毒殺は無駄ですので。美味しかったですし」
勇者の力に目覚めたシャーリィは、そのまま勇者の持つスキルの一部を継承していた。
その内の一つが、“毒無効”である。
よほど強力な魔法を使われない限りあらゆる毒を無効化してしまう優れものであり、事実上シャーリィを毒殺することは不可能である。
シャーリィ自身もワイトキングに指摘されるまで気付けず、この事はセレスティンにのみ話している。
「はっ。して、あの痴れ者は如何致しますか?」
「彼は枝に過ぎません。このまま泳がせて、大本を探ります。マナミアさんにも連絡を」
「御意のままに」
三者連合との戦いで破壊工作の恐ろしさを痛感した暁は、ラメル率いる情報部を中心に防諜態勢を強化。
更にマナミア率いる工作部隊の一部を防諜要員として領主の館に配置。
潜り込む敵を片っ端から排除ないし監視している。
「私に毒が効かないとビックリしているはず。次はどんな手を使うか、楽しみです」
敢えて自分の食事関連を手薄にして鼠取りとしたシャーリィ。早速ネズミが引っ掛かり彼女はご満悦で毒入りのジュースを楽しむのであった。
ジェームズによる初手は知らず内に失敗となっていた。