テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
さて、どうしたものか。
俺は冒険者ギルド内に設けられた食事スペースにて、同じテーブルを囲む2人の様子を窺った。
「…………」
一方はデレー。
上品な所作で質素な料理を食べつつ、異様な威圧感を発している。
「…………」
もう一方は、先ほど俺たちを助けてくれた青年。
こちらも料理を食べながら、目に見えそうなほどの忌避感を露わにしている。
「あの……これ、美味しいね!」
「そうですわね」
「そうだな」
2人の声が被る。
途端に両者の間で火花が散った。
「割り込んで来ないでくださいまし。フウツさんは私に話しかけたのですわ」
「それはこっちの台詞だ。フウツは俺の方を向いていた」
「ど、どっちにも! どっちにも聞いたんだ! ごめんねわかりにくくて!」
急いで俺が仲裁すれば、デレーと青年は渋々ながら食事に戻る。
が、一触即発の空気感は変わらない。
お礼がしたいからと、青年をここに連れて来たのは間違いだったかもしれない。
少なくとも、もうちょっと空気が軽くなるような、何か……良い感じの場所をよく探すべきだった。
俺は少し前の自分の選択を後悔する。
でも選んだ道はもう戻れない。
ここは何としてでも、俺が仲を取り持たなくちゃ!
「そうだ! 自己紹介がまだだったよね。俺、フウツって言うんだ」
青年に向かって、俺は笑顔で切り出す。
恐らくこれが一番当たり障りのない話題だ。
「……私はデレーと申しますわ。以後お見知りおきを」
やった、デレーも続いてくれた!
俺は心の中でガッツポーズをする。
「あなたは?」
「……ヒトギラだ」
よしよし。
この調子で、話題を広げていくぞ。
「ヒトギラは好きな食べ物とかある?」
「別に」
「そ……そっか!」
弾んだ雰囲気にはならないが、まだまだ大丈夫。
焦らず慌てず、慎重に親睦を深めていこう。
……と、俺が思ったのも束の間。
「つまらない男ですわね」
「は?」
「何か?」
和らぎかけていた空気が険悪に戻る。
マズい、次の話題を投入しなきゃ!
何か無いか、と頭の中をひっくり返して探す。
そうだ、ヒトギラが俺に「気持ち悪くない」って言った理由、あれについて聞いてみよう。
「そ、そういえばさ! 俺気になってたんだけど、君さっき――」
言いかけて、俺ははたと思い出す。
ヒトギラが零した「ろくでもない人生なんだ」という言葉、として俺の手を振り払おうとした時の様子。
あれらはどう考えても、訳ありだった。
うーん、やっぱり今は踏み込まないでおこう。
ぐいぐい行き過ぎるのも良くないからね。
よし、前言は撤回だ。
「いや、やっぱり何でもな」
「ところで、先ほどの支離滅裂な言動について説明してくださる? 気持ち悪くないとか何だとか」
踏み込んじゃった!!
俺は両手で顔を覆う。
ヒトギラはというと、当然機嫌を損ねてデレーを睨みつけた。
「お前に教える義理は無い。それに言動がおかしいのはお前の方だろう」
「…………」
「…………」
「えっ? あれっ、どうしたの?」
なんか黙っちゃったなと思えば、2人は揃って椅子から立ち上がる。
刹那、斧を掴むデレーと、杖を掴むヒトギラ。
直感。
これは駄目なやつだ。
「待っ」
俺が制止するより早く、デレーの斧とヒトギラの放った氷魔法が激突する。
そしてその余波でひっくり返る、椅子と俺。
「もう我慢の限界ですわ! これ以上私たちの邪魔をするなら死んでくださいまし!」
「死ぬのはお前だクソ女!」
「ちょっと二人とも!」
デレーとヒトギラは各々の武器で以て、乱闘を始めた。
俺が起き上がって声をかけるも効く耳持たずだ。
と、騒ぎを聞きつけて他の冒険者たちが見物にやって来る。
「なんだなんだ、喧嘩か?」
「いいぞやっちまえ!」
心底楽しげに盛り上がる野次馬もとい冒険者たち。
おかげで俺の声がかき消されてしまう。
「大体さっきは何だ、戦闘中だというのに突っかかって来て!」
「何を図々しい、あなたがフウツさんの名誉を傷付けるからいけないのですわ!」
「むしろお前の存在がフウツの顔に泥を塗ってるようなものだろう!」
「はい!? 何ですって!?」
斧がぶん回され、魔法が飛び、食器や机や壁が流れ弾でどんどん壊れていく。
また俺たちのいたテーブルに残された料理をかっさらっていく野次馬たちが居れば、その横で賭けを始めている野次馬たちも居る。
場は既に混沌そのものだ。
もうなりふり構っていられない。
俺は2人の間に割って入った。
「二人ともやめようよ! デレー怪我してるし、ヒトギラも魔法使いすぎだよ! あと色々壊しすぎ!」
「いいえフウツさん、これはあなたを守るための重大な決闘ですのよ」
「こいつはここで始末しておいた方がお前のためだ」
「じゃあ俺が二つに裂けるよ!!」
駄目だ、頭に血が昇ってるせいか止まる気配が無い。
と、そこへ。
「どうなってるんだ! 説明しろ!」
「ウワアすみませんすぐに仲直りさせますから!」
横から野太い怒声が飛んで来て、俺は反射的に頭を下げる。
が、その声はどうやら別の方向に向けられたもののようで。
「俺ら危うく死ぬとこだったんだぜ?!」
視線を移せば、声の主と思しき男性冒険者が、受付の方で仁王立ちをしているのが見えた。
というか男性だけじゃない。
大勢の冒険者が、受付に詰めかけ騒いでている。
「職員は何をやってるんです!?」
「す、すみません、どうか落ち着いて……」
「これが落ち着いていられるかよ!」
「ほんっと、魔物の数書き間違えるとかどういうこと!?」
魔物の数。
俺は聞こえて来た言葉にピクリと反応した。
怒る冒険者たち、ひたすら謝るギルド職員……もしかしたら。
「二人とも、あっち見に行ってみよう! ね!」
俺は向こうの騒ぎに気を取られて武器を下ろしていたデレーとヒトギラの手を掴み、ぐいぐいと受付の方に引っ張っていく。
とりあえず、近くの人に訊いてみよう。
「すみません。あの人たち、依頼内容と実際の魔物の数が食い違っていたんですか?」
「あ? そうだよ。どうせお前らもだろ?」
俺が話しかけた壮年の男性冒険者は、見るからに苛立たしげな様子で答える。
「ここにいるパーティーはみんなだよ。一匹って聞いたのに現場に言ったら群れがいたり、安全なはずの道中に魔物がわんさかいたり。クソ、冗談じゃねえよ」
よほど頭にきているのだろう、それだけ吐き捨てるように言うと、彼はドカドカと荒っぽい足音を立てながら余所に行ってしまった。
「ギルド側の不手際、にしては不自然ですわね」
「なら魔物の大量発生が起こってるのか」
「聞いたこと無いけど、たぶんそうだと思う」
受付前の人だかりから離れ、俺たちは考え込む。
「ともあれしばらくは慎重に行動しよう。原因探しは騎士団が動いてくれると思うから……」
ぽん、と。
誰かの手が俺の肩に置かれる。
振り向けばそこには、笑顔のギルド職員がいた。
「机五つ、椅子九つ、皿十余枚、天井と床と壁。あと迷惑料、占めて金貨六十枚。ある?」
完全に忘れてた。
俺は愛想笑いを絞り出す。
「無いです……」
「ヒトギラさん、貯蓄はありませんの」
「金二十と少し。お前こそ無いのか」
「金二銀十九銅八ですわね。全部はたいても足りませんわ」
どうやら打つ手は無いようだ。
職員は、長い長い溜め息の後、「君たち三人、しばらくタダ働きね」と俺たちに宣告した。
***
冒険者ギルドでの労働が始まってから数日後、俺たちは第五領地にある南方騎士団の拠点に来た。
無論、「タダ働き」の一環である。
なおこの訪問の目的は、ギルドから騎士団への、件の魔物騒ぎに関する書状を届けることだ。
「全く、失礼極まりませんわね。弁償代わりの労働とは言え、こんな遠方まで使いに向かわせるなんて!」
「ごめんね、俺が力不足なばっかりに」
「不足じゃなくて過剰だろあれは」
「え? 何言ってるのヒトギラ」
俺が聞き返せば、ヒトギラは眉間に皺を寄せる。
「水を山ほど汲んで来たり、擦り減るまで机を磨いたり、修理通り越して増築したり……いやお前、自覚無いのか?」
「あるある! 俺が全力出してもあの程度しかできないっていうのは、十分わかってるよ!」
「…………」
ヒトギラは盛大に溜め息を吐いた。
や、やっぱり怒ってるよね……。
俺のせいで職員に「もう雑用もやめ! 使い行ってこい!」って言われちゃったんだし。
「ささ、何はともあれ疾く参りましょう」
「そ、そうだね」
俺たちは騎士団の拠点内へと足を踏み入れる。
中では騎士たちが慌ただしく行き交っており、見るからに忙しそうだ。
そのうち、手ぶらで比較的ゆっくり歩いている若い騎士を見つけると、デレーがサッと近付いて声をかけた。
「もし、私たち冒険者ギルドの使いなのですけれど」
「ああ、よく来てくれた。カター団長だね? 執務室は二階に上がってすぐの通路の突き当りだ」
話は伝わっていたのだろう、彼はすぐに理解を示し早口気味にそう言う。
と、返答を聞く間もなく去って行った。
漏れなく彼も、忙しかったらしい。
教えてもらった通り、俺たちは階段を使って二階に上がり通路を進む。
突き当りまで行くと「団長室」と札のある扉があった。
「失礼します、冒険者ギルドの使いの者です」
ノックを2回、俺がそう言うと、中から「入ってくれ」という低い声が聞えて来る。
ちょっと……いや、かなり緊張するな……。
俺たちが扉を開け、部屋に入ると席に座って書類仕事をしている壮年の男性が居た。
彼が団長だろう。
思ってたよりは若めだ。
「冒険者ギルド第四領地支部です。魔物の大量発生の件について情報共有をと」
「南方騎士団団長、カターだ。遠路はるばるご苦労」
カターさんは俺の差し出した書状を受け取り、素早く目を通す。
「その格好、冒険者か?」
「はい」
「冒険者以外に見えますの?」
俺の言葉に被せるようにデレーが言い、場の空気にピシリとヒビが入る。
ま、マズい、これは……。
「わかりきったことを尋ねるなど、無用な会話はお控えくださいまし」
「ちょ、ちょっとデレー! 何言ってるの」
「用は簡潔かつ早急に済ませるのが吉ですわ。それに会話をしすぎると、彼がフウツさんに惚れてしまうかもしれません。危険ですわよ」
「本当に何言ってるの!?」
暴走スイッチが入っちゃってる!!
さすがにギルドの使いとして来てるのに、騎士団長さん相手にこれはヤバい。
「心配しなくても、そんなことにはならないよ! ね、ヒトギラ」
「心底どうでもいい」
「そっか!!」
頼みの綱が秒速で切られる。
どうする、俺。
冷や汗をかきまくっていると、カターさんは書状を机に置き、咳払いをひとつした。
「……あまり意味がわからないが。そう案ぜずとも引き留めるつもりは無い」
大人だ。
大人の対応だ。
ありがとうございますカターさん……。
「しかし、ギルドも相当人手不足のようだな」
「いえ、俺たちはちょっと事情が違うんですけど……。えっと、ギルド『も』、ってことは騎士団は人手が足りないんですね」
「事態は応援の到着を待ってはくれないからな。とにかく、書状は確かに受け取った。茶も出せず悪いが、少し待っていてくれ」
するとそこへ、バタバタという足音が聞えて来る。
「団長、報告です!」
慌てた様子で扉を開け、駆け込んで来たのは新人っぽい青年騎士。
彼はカターさんの前まで来て、姿勢を正しながらも狼狽した様子で言った。
「現地調査二班、第四領地南西カーク村付近の山中で、極めて大型の魔物を発見しました!」
その言葉に、俺は息を呑む。
カターさんもまた目を見開き、「詳細を」と短く促した。
「数は一、形状は熊型、身の丈は原種の二倍半はあろうかと思われます。かなり気性が荒いと見え、戦力を鑑みて交戦は控えました。現在、班員五名が監視に当たっています」
「わかった。すぐに見回り班を周辺住民の避難誘導に向かわせる」
2人の声色から、相当な緊迫感が漂って来る。
俺は半歩後ずさり、デレーとヒトギラに声をかけた。
「邪魔にならないよう、俺たちはギルドに戻ろっか」
「……いえ」
が、デレーは首を横に振る。
ばかりかカターさんの方へと数歩進み、距離を詰めた。
「少しよろしくって?」
「……なんだ」
彼女の態度を訝しみ、カターさんは眉間の皺を深くした。
俺とヒトギラも、顔を見合わせる。
するとデレーは、意気揚々と口を開いた。
「その魔物が大量発生の原因なのではございませんこと?」
魔物が原因……?
いったい何を言い出すのだろう。
俺は彼女の意図を測りかねるが、カターさんは「ふむ」と納得する素振りを見せた。
「強い個体が弱い個体を呼び寄せ、従えていると」
「ええ。魔物は同族の気配を察知しますわ。一体だからと放っておくと、群れをつくることも珍しくありません。今回の大量発生……あの個体の出現で、周りの魔物が集まって来ているのではなくって?」
「十分にあり得る話だな」
椅子から立ち上がり、カターさんは棚から書類の束を取り出す。
「最初に『魔物の数に異常がある』と報告があったのは三日前。これまでの報告は第四領地、第五領地で合わせて五十一件に上る。場所は東西南北を問わず、しかし僅かに範囲が狭まってきている」
次いで大きな地図を手に取り、机の上に広げた。
地図は第五領地と第四領地を描いたものになっており、そこには○、△、□、×の印が書き込まれている。
これが魔物大量発生の報告があった場所だろうか。
「そしてカーク村は概ねその中心……と。何にせよ、放ってはおけない」
「ええ、ええ、そうですわよね」
デレーは上機嫌ににこにこと笑う。
「その魔物の討伐、私たちが請け負って差し上げますわ!」