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『星へと哀いを』
⚠地雷注意
⚠橙桃
⚠しねた 病気ねた
久しぶりの投稿で腕落ちてます。
青空に向かって手を伸ばす。
膨大な空の中では短い俺の手で。
輝く涙が線を引く。
布団で隠れた足に一粒二粒と。
夜空に向かって会いを乞う。
綺麗なだけの黄色い星へ。
都会からどれだけ道を繋いでも着かない
こぢんまりとした小さな町。
100年も前は都会よりも栄えた繁華街。
かつての人のたまり場は今では情報が遅れて入ってくるくらいの田舎町。
まるで賑わっていない小さな駅から伸びる、低い位置にある電線を辿り、見えてきたこの街唯一の大病院。
近くでは全く車の通らない車道と、反対側は沢山の民家。所謂住宅街に挟まれた病院。
その、白く染まった病院の一番奥の忘れ去られたような一つの病室。
その中で俺は身寄りのない、ボールで遊ぶ小さな子供とその親を呆然と眺める。
飛び跳ねるような笑顔が、俺の網膜へと熱く語る。だが、俺の脳は反応しなく、
また別の方を見る。
子供も大人も、学校や仕事を忘れる土曜日。今日も俺は変わらず、この白いばかりの人生を歩んでいく。
俺の名前は、桃。
ざっと10年はこの病院の外からはでたことのない20代。治せない病気。
治療法のない病気。それらは全て無視され、治すことのできる病気に最善を尽くす。だから、俺の人生は雨雲で包まれている。
ウェルナー症候群。思春期を超えた20代頃に見られる病。急速に老化が進んでいるように、筋肉などが硬くなり老けているように見える病気だ。
そして、治療法がわかっていない病気。
傷の治りなんかも遅くなるから、一様のためと、入院をしているのだ。
そんな俺は、人との関わりを持つことを嫌い、担当医であろうと会話を好まない
だから、よく俺の担当医は俺の病室から姿を消し、もう一度入ってこようとしない。関係を持って、情が湧くのが怖いから。そのせいで死を待つ時間が嫌になるから。
そんな中、また一人の医者が、忘れ去られた扉を開ける。狂った時計がカチカチと鳴る。表示されているのは1時37分。長い間設定をしてこなかったから、たぶん壊れた。いくらなんでも、1時なんておかしい。入ってきた医者は、俺と同じ20代、翡翠色に輝く瞳は本当に宝石のようで、艷やかに撓るオレンジの髪は、
全てを反射して光る。全てを映すような潤った唇は、何もかもを癒す何かを感じた。誰が何と言おうが、彼は美しかった
彼の名前はそのまんま橙だった。
『起きとったの!桃ちゃんは偉いなぁ』
『子供扱いすんな、…』
ダル絡みが嫌いな俺も、何故か彼には何かを話したくなってしまう。
全てを見透かすように俺を見てくれる橙は、医者と患者ではなく、友達 を感じる何かで通じ合っていた。
『桃ちゃんのきれいな瑠璃色の目、
絶対曇らせんからな。約束。指切りや』
彼の放った言葉に俺も強く同意するものがあった。彼の艷やかな髪の毛を、
彼の潤う唇を俺は枯らしたくなかった。
そして、枯れないと心のなかで少し思っていた。きっと、空の上の偉い神様も、
それを思って臨んでる。
その神様が、意地悪じゃなかったら。
彼の異変が見えたのは、指切りしてそう遠くない日だった。彼の異変はすぐに分かった。何時もは、絡み一つもない髪は
ボサボサで、夜空に浮かぶ星さえ反射してしまいそうな艷やかさは、どこかに消えてしまっていた。
それでも彼は変わらず、話をした。
元気そうな彼を見て何処かで安心した自分がいた。実際、安心できる部分なんて一つもなかったのに。
またある日の彼は、唇がカサカサだった。普段は、青空も写してしまう潤いは何もなくなったかのように元気をなくし
疲れ切っているみたいだった。そんな唇を彼は、熱心にリップクリームで塗り飾っていた。
それからどんどん彼の異変は酷くなっていった。髪は勿論、煌めきを無くし、
櫛を通す度に、パラパラと綺麗な髪が落ちていく。
唇は更に、瑞々しさを無くしていき、
リップクリームの塗りすぎて青紫に変色していた。そして変わらず乾いていた。
その、唇に指さすと、
『あぁ、此れ、?桃ちゃんの目みたいでいいやんな、笑』
疲れ切った声を漏らし、又リップクリームを手に取る。潤いは戻らないと分かっているはずなのに。
彼に会ってから、徐々に晴れになり快晴へと変わった俺の心は、再び曇り空に戻りそうだ。
それから1週間後。
彼が俺の病室の扉をガラッと開けることはなくなった。急な出来事だ。
急に入ってきた医者は、彼と似ている
黄色い髪と、彼と似ている瑞々しい唇で
『橙先生は亡くなりました。
今日から僕が貴方の担当医です。』
なんて言うもんだから、
何も言えず、何も返せず、カラメルで染まった〝新しい担当医〟の瞳を、
呆然と見つめた。瞬きができない。
彼に褒められた瑠璃色の目は、どんどん痛くなって、乾いていく。
『誰のせいでもありません。
数週間前から、心臓病の診察結果が出ていました。』
乾いた瞳に、涙が潤すことはなく、
反射的に頭は重力で下に下がる。布団で隠れた、俺の太もも。
ようやく、隣にいる新しい担当医に言えた言葉は『わかりました』だけだった。
口では言ったが、脳では全く理解していない。わからない。わかるはずがない。
橙は死んだ。俺に伝えず、心臓病で。
言われなかった。伝えられなかった。
はじめて、この病院に来てはじめて
涙が線を引いて、無慈悲に消えていった
青空に向かって手を伸ばす。
膨大な空の中では短い俺の手で。
輝く涙が線を引く。
布団で隠れた足に一粒二粒と。
君へと向かって愛を告げる。
星へと変わってしまった君に向けて。
愛していたのは俺だけだった。
医者と患者ではなく友達として。
彼氏と彼女ではなく友達として。
哀願を向けた彼を思い出し、愛を思い、
会いを乞う。
星へと〝あい〟を