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ハイキュー夢小説|及川徹『ずっと好きなのに、私じゃないんだね』
幼なじみ/片想い/失恋/切ない
及川さんが好きだった。
中学の頃から、ずっと。
バレーに夢中で、女の子に囲まれていて、ちょっと意地悪で、でも本当は誰よりも努力家な人。
一番近くで見てきたつもりだった。
だから、いつか。
いつか、及川さんの隣に立てる日が来たらいいなって。
そんなことを、ずっと夢見ていた。
「ねえ、ちょっと聞いてよ!」
放課後、いつものように及川さんが私の隣に座った。
「俺さ、彼女できたんだよね」
……え?
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「……え?」
「だから、彼女! かわいいんだよ、これがまた!」
スマホを取り出して、嬉しそうに写真を見せてくる。
そこに写っていたのは、知らない女の子。
及川さんの隣で、幸せそうに笑っている女の子。
「……そっか」
声が震えないようにするだけで、精一杯だった。
「えー、なにその反応! もっと驚いてよ!」
「びっくりしたよ」
「でしょ? いやー、俺もついに本命ができちゃったわけですよ!」
いつもの調子で笑う及川さん。
ねえ、及川さん。
私、ずっとあなたが好きだったんだよ。
あなたが女の子に告白されるたび、平気なふりをした。
あなたが誰かをかわいいって言うたび、冗談っぽく悪口を言ってごまかした。
あなたから恋愛相談をされるたび、胸が痛くても笑って答えた。
いつか、私の気持ちに気づいてくれるんじゃないかって。
ほんの少しだけ、期待してた。
「……よかったね」
やっとのことで、それだけ言った。
「でしょー? あ、今度紹介するね!」
「……うん」
「お前とも仲良くしてほしいし!」
その言葉に、心臓がぎゅっと縮んだ。
仲良くしてほしい。
そっか。
私はこれからも、及川さんの恋を応援する側なんだ。
ずっと好きな人の、彼女の話を聞く側。
「……及川さん」
「んー?」
「彼女さんのこと、大事にしてあげてね」
自分でも驚くくらい、優しい声が出た。
及川さんは一瞬きょとんとして、それからいつもの笑顔で笑った。
「もちろん! 俺、こう見えて一途だからね?」
……知ってるよ。
知ってるから、好きになったんだよ。
その日の帰り道。
及川さんと別れてから、私はひとりで泣いた。
声を出さないように、必死に唇を噛んだ。
だって、明日も会うから。
明日もいつも通りに笑わなきゃいけないから。
及川さんの前では、ずっと友達でいなきゃいけないから。
「……っ、及川さんの、ばか……」
好きだった。
大好きだった。
誰よりも近くにいたのに。
誰よりも長く、あなたを見てきたのに。
あなたが嬉しそうに笑う顔を見るだけで幸せだったはずなのに。
今は、その笑顔が苦しい。
「……ずっと好きだったのに」
ぽつりとこぼれた言葉は、誰にも届かなかった。
ずっと好きなのに、違う彼女さんができたんだね。
私じゃ、だめだったんだね。
翌日。
「おはよー!」
いつも通りの声。
いつも通りの笑顔。
いつも通り、私の隣にやってくる及川さん。
「ねえねえ、昨日彼女と電話したんだけどさー!」
……やめて。
聞きたくない。
でも、そんなこと言えるわけがなかった。
「へえ、何話したの?」
笑って聞く。
及川さんは嬉しそうに話し続ける。
彼女がかわいいこと。
声が好きなこと。
もっと一緒にいたいこと。
ひとつひとつの言葉が、私の中に積もっていく。
「……そっか。幸せそうだね」
「うん!」
即答だった。
その笑顔を見た瞬間、ああ、もう無理だ、と思った。
私の好きな人は、私じゃない人を好きなんだ。
それがこんなにも苦しいなんて、知らなかった。
「……私、ちょっと先生に呼ばれてるから」
嘘をついて、その場を離れた。
廊下の隅まで来て、ようやく息を吐く。
目が熱い。
泣きそう。
でも、泣いちゃだめ。
だって、及川さんは何も悪くない。
私が勝手に好きになって。
勝手に期待して。
勝手に失恋しただけなんだから。
「……っ、ばかだな、私」
そのとき。
「……ねえ」
後ろから、聞き慣れた声がした。
振り返ると、及川さんが立っていた。
「……なんで逃げんの?」
いつものふざけた顔じゃなかった。
「最近、なんか変じゃない?」
「……そんなことないよ」
「嘘。昨日からずっと変」
及川さんが一歩近づく。
「俺、なんかした?」
違う。
違うよ、及川さん。
あなたは何も悪くない。
悪くないからこそ、苦しいんだよ。
「……何もしてないよ」
「じゃあ、なんでそんな顔してんの?」
そんな顔。
どんな顔をしていたんだろう。
泣きそうな顔?
好きだって言えない顔?
あなたの彼女になれなかったことを、まだ受け入れられない顔?
「……及川さんには、関係ないよ」
そう言った瞬間、及川さんの表情が曇った。
「……は?」
「ごめん。戻るね」
横を通り過ぎようとした、そのとき。
「待ってよ」
腕を掴まれた。
「……俺たち、ずっと一緒だったじゃん」
その言葉に、涙がこぼれそうになった。
そうだよ。
ずっと一緒だった。
だから好きになったんだよ。
ずっと一緒だったから、離れられなくなったんだよ。
でも。
「……もう、今までみたいにはいられないよ」
小さく呟くと、及川さんが息を呑んだ。
「……なんで?」
答えられなかった。
だって、言ってしまったら。
きっと、今までの関係には戻れない。
でも、もう。
このまま隣で笑い続けるのも、限界だった。
「……及川さんが好きだから」
言ってしまった。
とうとう、言ってしまった。
「ずっと、好きだったから……っ」
涙が頬を伝う。
「でも、彼女さんできたんでしょ……? だから、もう、無理なの……」
及川さんは何も言わなかった。
私は慌てて涙を拭った。
「ごめんね。困らせるつもりじゃなかったの。忘れて。今の、忘れていいから……!」
逃げようとした。
今度こそ、ちゃんと逃げようとした。
なのに。
及川さんは、私の腕を掴んだままだった。
「……忘れられるわけ、ないじゃん」
震えるような声だった。
思わず顔を上げる。
及川さんは、ひどく困った顔をしていた。
それが、期待してはいけない表情だと分かっているのに。
それでも私は。
ほんの少しだけ、期待してしまった。
——ねえ、及川さん。
今だけでいいから、私のことを好きになってよ。
コメント
1件
ああ、もう、胸がぎゅっとなりました…… 「ずっと好きだったのに、私じゃないんだね」っていうタイトルが、読後にもう一度刺さる。 主人公の「彼女さんのこと大事にしてあげてね」って優しい声が出たところ、あそこが一番苦しかったです。泣きそうになりながらも笑顔を作ろうとする心情が丁寧で、及川さんの「忘れられるわけないじゃん」で一瞬期待しそうになるのも分かるなあ。 切なくて、でもだからこそ続きが気になります。ありがとうございました🌷