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ハイキュー夢小説|及川徹『ずっと好きなのに、私じゃないんだね』
第2話 —「知らない君の笑顔」
そして、夕方。
先生に頼まれていた資料を届けるため、私は男子バレー部の体育館へ向かっていた。
正直、及川さんに会いたくなかった。
昼間、あんなことを言ってしまったから。
『及川さんが好きだから』
思い出すだけで顔が熱くなるし、恥ずかしいし、何より、あのときの及川さんの困った顔が頭から離れなかった。
……絶対、困らせちゃったよね。
「はぁ……」
小さくため息をついて体育館の扉を開けると、ちょうど練習が終わったところだった。
「あれ? ○○じゃん」
聞き慣れた声に振り向く。
「まっつん!」
そこにいたのは、松川一静だった。
松川くんはタオルを首にかけながら、いつもの気だるげな顔で近づいてくる。
「何してんの、こんな時間に」
「先生に頼まれてた資料を持ってきたの。バレー部の顧問の先生に渡してほしいって」
「あー、なるほど。先生なら今、職員室じゃね?」
「えっ、そうなの?」
「うん。せっかく来たのにご苦労さん」
「ひどい! まっつんが受け取ってよ〜」
「俺、先生じゃないんだけど」
「そこをなんとか!」
「はいはい、貸してみ」
そう言って、松川くんは私の持っていた資料をひょいっと持ち上げた。
「あとで渡しとくわ」
「ほんと!? ありがとう!」
「おう」
あまりにもあっさり引き受けてくれたから、嬉しくなって笑ってしまった。
「まっつんって、ほんと優しいよね!」
「……今さら?」
「うん、今さら!」
「ひでぇな」
松川くんが小さく笑う。
その顔がおかしくて、私も笑った。
気づけば、私たちは体育館の入口近くで話し込んでいた。
最近の授業の話。
クラスの友達の話。
松川くんが練習中に花巻くんとふざけて、監督に怒られた話。
「それ、絶対まっつんが悪いじゃん!」
「いや、マッキーも同罪だろ」
「花巻くん、かわいそう!」
「なんでそっちの味方なの?」
「だって、まっつん顔が悪いことしてそうだもん!」
「顔で判断すんなよ」
「ふふっ、あははっ!」
久しぶりに、何も考えずに笑えた。
及川さんのことも。
昼間の告白も。
彼女ができたという話も。
ほんの少しだけ、頭の隅に追いやることができた。
「……お前、そんなふうに笑うんだな」
ふと、松川くんが呟いた。
「え?」
「いや。最近、なんか元気なかったじゃん」
どきっとした。
「……そうかな?」
「うん。今日も目ぇ赤かったし」
「っ、それは……!」
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百合愛
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慌てて顔をそらす。
松川くんはそれ以上、追及してこなかった。
ただ、少しだけ声を柔らかくして言った。
「無理して笑わなくてもいいんじゃね?」
……ずるい。
そんなこと言われたら、泣きたくなるじゃん。
「……まっつんってさ」
「ん?」
「たまに、すっごく優しいよね」
「たまにってなんだよ」
「ふふっ、ごめん」
また笑う。
今度は、さっきより自然に。
そして、そのときだった。
「……へえ」
背後から、聞き慣れた声がした。
一瞬で、身体が固まった。
「及川さん……?」
振り返ると、体育館の扉のところに及川さんが立っていた。
練習着のまま、片手にスポーツバッグを持って。
いつもの笑顔は、なかった。
及川さんの視線は、私から松川くんへ。
それから、松川くんが持っている資料へ。
最後に、もう一度、私の顔へ戻った。
「なに? ふたりでずいぶん楽しそうじゃん」
声はいつも通りだった。
でも。
……なんだろう。
少しだけ、怖かった。
「お、及川。お疲れ」
松川くんが普通に声をかける。
「お疲れ、松川」
及川さんは笑った。
いつもの、女の子たちを簡単に夢中にさせてしまうような笑顔。
「で? 何の話してたの?」
「え? 普通に学校の話だよ?」
私はなるべく自然に答えた。
「ふーん?」
及川さんが首を傾げる。
「○○って、松川と仲よかったっけ?」
……え?
思わず、言葉に詰まった。
「え、まあ……普通に?」
「へえー。俺、知らなかったなあ」
その言い方に、胸がちくりと痛んだ。
知らなくて当然だよ。
だって、及川さんは私のことなんて、友達としか思っていなかったんだから。
私がどんな人と話していても。
誰と笑っていても。
本当は、気にする理由なんてない。
「……及川さんには、関係ないでしょ?」
思わず口から出た言葉。
及川さんの笑顔が、ほんの一瞬だけ消えた。
昼間、私が言った言葉と同じだった。
『及川さんには、関係ないよ』
あのときは、私が傷ついていた。
今は……及川さんが、少しだけ傷ついたように見えた。
「……ふーん」
及川さんは目を細めて、私を見た。
「そっか。関係ないんだ?」
「……うん」
「……へえ」
沈黙。
隣で松川くんが、私と及川さんを交互に見ている。
そして、ぽつりと。
「……お前ら、なんかあった?」
「「別に!」」
見事に声が重なった。
松川くんは数秒、私たちを見つめて。
「……あっそ」
とだけ言った。
でも、その顔は明らかに何かを察しているようだった。
及川さんは私から視線を外し、松川くんの肩を軽く叩いた。
「松川、帰るよ」
「え、ああ。ちょっと待って」
松川くんが荷物を取りに行く。
その隙に、及川さんが私の横を通り過ぎようとした。
……もう、話すことなんてない。
そう思っていたのに。
すれ違う瞬間。
「……楽しそうだったね」
小さな声が、耳に届いた。
私は思わず顔を上げた。
及川さんは前を向いたまま。
「俺といるときより、楽しそうだった」
……え?
心臓が、大きく跳ねた。
「……及川さん?」
呼び止めたけれど、及川さんは振り返らなかった。
ただ、少しだけ足を止めて。
「……別に。なんでもない」
そう言って、歩き出した。
その背中を見つめながら、私は何も言えなかった。
だって。
そんなこと、言われたら。
期待してしまうじゃん。
彼女がいるのに。
私のことなんて好きじゃないはずなのに。
どうして、そんな寂しそうな声を出すの?
体育館を出たあと。
松川くんが、隣を歩く私をちらりと見た。
「……なあ」
「……なに?」
「お前、及川のこと好きなの?」
足が止まった。
「……っ」
松川くんは、ため息をつく。
「図星か」
「……なんで、わかったの?」
「わかるだろ、普通」
そう言ってから、松川くんは少しだけ真面目な顔をした。
「……あいつ、彼女できたんだろ?」
「……うん」
「そっか」
短い返事。
それから、松川くんは私の頭をぽん、と軽く叩いた。
「……つらかったら、いつでも話くらい聞くから」
優しい言葉に、また目の奥が熱くなった。
「……ありがとう、まっつん」
「あんま一人で抱え込むなよ」
「……うん」
私は小さく頷いた。
そのときはまだ、知らなかった。
少し離れた校門のところで。
及川さんが、こちらを振り返っていたことを。
そして。
私が松川くんに笑いかけた瞬間、及川さんがぎゅっと拳を握りしめたことを。
彼女がいるのは、及川さんなのに。
どうして、私以外の人と笑っているだけで、そんな顔をするの?
もしかしたら。
私だけが、ずっと片想いをしていたわけじゃないのかもしれない。
……なんて。
そんな期待をしてしまう自分が、いちばん嫌だった。
——つづく。 ♡
コメント
1件
ああもう、及川さんのあの「楽しそうだったね」がめっちゃ刺さった……! 彼女いるのに、なんでそんな寂しそうな声出すんだよ、ずるすぎる。松川くんの優しさもじんわり来たし、「図星か」の察しの良さに泣ける。及川さんが拳握りしめてたの、絶対やきもちだよね? まだまだこの恋、終わらなそうで続きが気になる……!🔥