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終始ご機嫌な父は、紅茶のおかわりを淹れに来た源治さんにも、
「じぃーじと、結ちゃんが呼んでくれまして」
と、わざわざ話して聞かせた。
「それはそれは、ようございましたね」
穏やかな笑顔で応じられたことで、父がますます晴れやかに頬を緩ませる。
「ええ、もう、こんなにもうれしいことはなくて」
くしゃくしゃと顔をほころばせるのを見ていると、私や貴仁さんまで口角が自然と上がってくるようだった。
──ひとしきりおしゃべりを楽しんで、
「……それじゃあ、そろそろ私は帰るから」
父が、おもむろに席を立つ。
「まだゆっくりしていけばいいのに」
「いや、いいんだ。あんまり長居をしても申し訳ないからな」
急に遠慮がちにもなる父へ、
「また、いつでも来てね」
そう声をかけると、
「ええ、お義父さんも家族なのですから、いつでもお待ちしていますので」
彼が言い添えて、父は「ありがとう……」と、口にして、感涙に目を潤ませた。
──外まで送って行くと、
「家族とは、いいものだな……」
父がふと物思わしげに呟いて、彼と共に笑顔で応えた。
「にぎやかそうな家族になって、本当によかった……」
それからそう続けて、父はひと息をつくと、「以前、久我から言われたことを、ちょっと思い出してな、」と、口を開いた。
「自分は仕事で忙しくしていて、母親を幼い頃に亡くした息子には、家族として寂しい想いばかりをさせていると……」
父の話に、彼が「えっ……」と、息を呑む。
「息子は寂しいだろうに、私に面倒をかけないよう思ってか、そういう素振りを見せないようにしていて、それがよけいにいじらしくてと、そう言っていた……」
とつとつと語られる言葉は、まるで目の前に貴仁さんのお父さまご自身がいて、そのまま伝えられているようで──。
「父が、そんなことを……」
貴仁さんが声を詰まらせ、片手を口元に当てる傍らで、私はかつて彼自身から聴いたエピソードが頭に浮かんでいた。
『──私が父の忙しさを受け入れて我慢しさえすれば、父が悪かったと思うようなこともなかったんじゃないかと……。だから私は、それからは決して寂しいなどとは思わないようにしていて……』
彼のお父さまも、隠していた彼の寂しさに気づいていたんだとわかると、切なくほろ苦く胸を打たれた……。
「では、またな」
手を振る父に、「うん、また」と、手を振って返す。
「どうぞまたいらしてください。私の父も喜ぶはずですから」
貴仁さんがそう口にすると、お父さんは再びじわりと目を潤ませた……。
──父が帰り、貴仁さんと共に子どもたちを抱っこして哺乳瓶でミルクをあげていると、食器を片付けていた源治さんが、ふと口を開いた。
「……お父さま、じいじと呼んでもらえて、よかったですよね」
「あっ、はい」と、顔を上げてふと思う。
(もしかして源治さん、うらやましく感じてたりもするのかな……)
彼も、そうなんとなく察しているようにも窺えて、
「ねぇ、せーい? ”源治さん”って、呼んでみて?」
私の方から、ミルクを飲み終えた結のほっぺたを指先でちょこっと突ついて、そう呼びかけてみた。