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『海狼の牙』によるクリューゲ一派の捕縛はエルダス・ファミリーにとって最悪の事態となった。詳細を知れば知るだけ組織として窮地に立たされている実態が浮き彫りとなったのである。
~カジノ『オータムリゾート』応接室~
「今回はうちの奴等が大変失礼した。今後は二度とこんなことが起きねぇようにする。こいつは詫びの気持ちだ。これで手打ちにしてくれねぇか?」
エルダスは頭を下げて金貨の詰まったケースを差し出す。それを椅子に座らず机に腰かけて見下ろすリースリット。
「ザマァねぇなぁ、エルダスさんよ。部下の躾が足りねぇなんて、あんたのファミリーの名前が泣くぜ?」
「ああ、俺の不出来が今回の件を招いた。反省してるさ」
「ふふんっ、いいよ。ちゃんと賠償してくれるならこれ以上言うつもりはねぇさ。けど、古強者のアンタが私みたいな小娘に頭を下げる。時代が変わったねぇ?ん?」
「……ああ、そうだな」
強く拳を握りしめ、エルダスは屈辱に耐えるしか無かった。
『オータムリゾート』を後にしたエルダスに、クリューゲ一派の仕出かした暴走が伝えられる。
「なんだと!?あのバカ、今度は『海狼の牙』にも手ぇ出したってのか!?おい、ふざけてんじゃねぇぞ!?」
「ですがボス!『海狼の牙』から事情説明を求める書簡が届いたんですよ!それもやけに綺麗な紙で!」
「紙なんざどうでもいい!まだ金はあるのか!?」
「金庫にある金貨を全部集めりゃなんとか!」
「ならすぐに集めろ!」
『オータムリゾート』、『海狼の牙』に対する賠償金の支払いは手打ちのためとは言えエルダス・ファミリーに凄まじい負担を与えることになる。具体的には金庫が空に成ったのだ。
翌日、『海狼の牙』本部でサリアと会談し莫大な賠償を払ったエルダス。これにより『海狼の牙』との手打ちも成ったが。
「こいつらはどうするの?そっちで引き取るなら渡すけど」
捕らえたクリューゲ達を見ながらエルダスに語り掛けるサリア。
「そんな奴等は知らねぇ!そっちで好きに処分してくれ!」
「ボス!?」
「余計なことばかりしやがって!お陰でうちは滅茶苦茶だよ!さっさとくたばりやがれ!」
この瞬間クリューゲ達の運命は決まったのである。
「どうします?ボス」
「うちだってこんな奴等要らないわよ。シャーリィに引き渡しましょう。これ以上面倒は嫌だわ」
メッツの問いにサリアは気だるそうに答え、クリューゲ一派は自分達が狙っていた『暁』に捕虜として引き渡される事となった。
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。エルダス・ファミリーと『海狼の牙』、『オータムリゾート』の手打ちが成立しました。エルダス・ファミリーは莫大な賠償で深刻な資金難に陥り、凋落は確実となりました。
私は更に追い討ちを掛けるべく行動を開始しています。その一環として、ベルを連れて『ターラン商会』本店に来ています。相変わらずドピンクで、何故か安心しますね。
「あらシャーリィ、脚の怪我は大丈夫なのかしら?」
マーサさんが直々に出迎えてくれます。
「まだ痛みは残っていますが、少しずつ歩く練習をしようかと思っているところです」
私としてはもう大丈夫と思うのですが、皆さんが反対するのでまだ車椅子を使っています。皆さんの過保護には参りますね。嬉しいですが。
「無理はしないで頂戴ね。それで、今日はどうしたの?」
「日頃からお世話に成っているマーサさんに贈り物がありまして。ベル」
ベルから受け取った羊皮紙の束をマーサさんに差し出します。
「あら、これは……」
中身を見てマーサさんも目を細めます。今渡したのはクリューゲが差配していた十六番街の商売や土地の権利書です。セレスティンが拝借してくれたんですよね。
「私にはまだ大々的に商売をする余裕がありませんが、マーサさんならそれを有効活用できるでしょう?」
「それはもちろんだけど、貰って良いのかしら?」
「贈り物ですよ」
「そう……良いわ、これは大きな借りにしておく。いつでも頼りなさい」
「はい、よろしくお願いします。マーサさん」
クリューゲはエルダス・ファミリーで軍資金の稼ぎ頭でもあったとか。それが丸々『ターラン商会』に流れる形になるので、エルダス・ファミリーは益々困窮していくでしょう。
……クリューゲだけで終わらないのかと?終わりませんね。彼らは敵です。敵を潰す時は徹底的にやる。それが私のやりなのです。エルダス・ファミリーには、消えていただきます。二度と私の前に現れないように。
「容赦ないな、お嬢」
帰り道、ベルがそう溜め息混じりに呟きます。
「エルダス・ファミリーがある以上またベルにちょっかいを出してくる可能性があるのです。なにより、彼らは私の大切なものに手を出した。つまり敵なんです。敵ならば容赦なく殲滅しないといけません」
これ真理ですよね?
「ふっ、お嬢に手を出したのが運の尽きって奴だな。十六番街を奪って縄張りにするか?」
「うーん」
悩みますね。縄張りの重要性は理解しているつもりですが、他の組織から奪った土地を管理するのは難しいことではないかと思うと二の足を踏みますね。
「まだ悩んでるか。ならいっそのこと、新しい区画でも自分で作ってみるか?」
冗談交じりにベルが笑いながら言いますが…それ良いかも。
「そうですね、造りましょうか?奪うのではなく、自分達の領地を」
「おいおい、冗談だって」
「いえ、既存の場所に拘らなくても良いんですよ。住む場所に困ってる人はたくさん居る筈。そしてうちには広大で豊かな土地があります。シェルドハーフェンに区画をひとつ足しても問題ないでしょう」
「……マジかよ」
「マジです」
うん、奪うのが難しいなら造れば良い。まさに逆転の発想ですね。うちの組織だけで戦闘員農園従業員合わせて二百人弱は居るんです。ちょっとした町を造るのは決して難しくはない。
十六番街まであるシェルドハーフェンに、十七番街が加わっても問題はない筈ですし、最初から造れば統治も容易い。お父様から仕込まれた内政術と、帝国の未来に記されている新しい統治概念を試す良い機会です。
「ドンパチも一段落しましたから、内政のお時間です!忙しくなりますよ、ベル」
「ヤル気満々だわ」
シャーリィの縄張りならぬ町建設が始まろうとしていた。