テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「昨日街に出かけたら、子供たちが皆ディアヴィル様の人形を買ってもらっていて、『僕も大きくなったらディアヴィル様みたいになりたい!』って笑って言っていたんです」
「…………」
ディアヴィル様はわずかに視線を逸らし、鼻で笑うような仕草を見せた。
「あんなものは人間共が勝手に作った偶像だ。奴らは恐怖を誤魔化すために魔王像を創り上げる。俺自身とは無縁の虚像だ」
突き放すような言葉。けれど、私は首を横に振った。
「ですが、虚像じゃなくて本物のディアヴィル様はとても優しくて……私にとっては最高の旦那様ですよ」
「お前は俺を買い被りすぎじゃないか?」
ディアヴィル様はソファの背にもたれかかり、天井を仰ぎ見た。
その横顔は、どこか遠い場所を見ているようだった。
「この世ではな、恐怖こそ統治の武器。弱者に情けを見せれば支配は崩れる。それが俺の流儀だ。誰からも恐れられる強さだけが、この魔界を束ねる」
「私に情けをかけてくださったディアヴィル様が、そんなこと仰るんですか?」
私の問いに、彼は間髪入れずに答えた。
「情け? かけた覚えは無いな」
「かけたじゃありませんか。条件付きとはいえ……居場所を無くした私に衣食住を与えるだけでなく、この魔界の楽しさまで教えてくれて、今日だってあんなに優しく守ってくださいました」
少し強気にそう言うと、ディアヴィル様はゆっくりと姿勢を正し、私を射抜くような鋭い瞳で見つめてきた。
「お前を弱者と認識したことはない。俺の言う弱者ってのは、己の欲のために身内を平気で切り捨てるような、お前を捨てたような醜い人間どものことだ」
その言葉に、胸の奥がチクリと痛むのと同時に、熱いものがこみ上げる。
「ディアヴィル様にとって、私は弱者ではありませんでしたか?」
「弱くなんかあるものか」
ディアヴィル様は立ち上がり、私のすぐ目の前まで歩み寄った。
そして、大きな両手で私の両頬を包み込み
壊れ物を扱うような手つきで、ゆっくりと言い聞かせるようにこう言った。
「お前のその芯の強さと優しさ、そして何事にも曇りのない純真さは……すべてが俺の目に焼き付いて離れなかった。出会ったときからな」
「え……?」
熱い掌の感覚が、頬から全身へと伝わっていく。
「正直、最初はただの興味だった。お前のあの、死を覚悟した強い瞳にな。しかし一緒に過ごすうちに、お前の内に秘めた光が……眩しく見えた。お前がいてくれると、俺の世界が色づく。……不思議なものだな」
「ディアヴィル様……」
私にだけ向けられる、熱を帯びた、けれどどこまでも真摯な言葉。
聖女として利用されるだけで、名前さえまともに呼ばれなかった私が
魔王という強大な存在の「世界」を変えたのだという。
彼の言葉、気持ちを真正面から受け止めて
今までに感じたことのない幸福感と熱い感情が、私の胸をいっぱいに満たしていった。
窓の外では、魔界の夜が始まろうとしている。
けれど今の私には、彼の隣こそが、どんな場所よりも明るく温かな光に満ちた居場所だった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!