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「あぁぁっ! アック様っっ!! お帰りなさいです~!」
エルフの森域は失われ、ゲートトンネルそのものが消えていた道から来た道を戻ると、ルティたちが嬉しそうな顔で待っていた。
いつものことだが、またしてもルティが突撃して来る気配を感じてしまう。それを察してか、シーニャがおれの前に立ちふさがろうとしている。
そろそろ突進してくるか?
そう思っていたらすでに手を打っていたようだ。
「ふおぉぉぉぉぉぉ……ふぐえっ!?」
「落ち着きなさい、ルティ!」
「ミルシェさん、ひどいじゃないですか~! 首根っこを掴むなんて! わたしネコじゃないんですよ~?」
「ネコでも掴まないニャ! 本当ニャ!」
「……あら? どなた?」
「ほえ? ネコ族……どこかで?」
ルティの首根っこを掴むミルシェに安心して近づくと、そこにはネコ族の彼女が立っていた。再建の時には駆けつけるなどと言っていたが、一体どこから来たのやら。
「あ、アックニャ! 約束通り、再建のお手伝いに来たニャ~!」
「シャトンじゃないですか! どうやってここに?」
「ニャフフフ。釣りギルド期待の星のアックのことなら、どこにいても分かるニャ! 早速取り掛かるニャ」
「え? でも、水辺の正確な場所はまだ把握してませんが……」
「大丈夫ニャ。エルフの王に協力してもらえるから、心配ないニャ! じゃあまたニャ~」
驚いた。
まさか本当に釣りギルドのマスターであるシャトンが来るなんて。これにはさすがに彼女たちもきょとんとしている。
「おい、キサマ! まさかと思うが、ネコ族以外にも気を振りまいているんじゃないだろうな?」
「違うぞ、フィア。シャトンは釣りギルドのマスターだから、おれに会いに来たわけじゃないんだぞ」
「……ふん、無節操な男め。我は兄を探し、手伝いに行く。キサマはキサマのことをやれ!」
「一応聞くが、ニーヴェアはすでにここへ?」
「当然だろう? 王がキサマを認めたのだ」
シャトンからも聞こえてきた王とは、まさかニーヴェアのことなのか?
「フィアの兄は墓守でずっとエルフの森を守ってきたんだったか……?」
「だからこそ、我らエルフの王だ。そして誇れる我の兄でもあるぞ!」
なるほどな。
「だがエルフの森域は消え、我らが従えるのは国主ただ一人となった。だからキサマは堂々としていればいいだけだ! 我はもう行くぞ」
「分かった。頼むぞ、フィア」
「アックの言葉なら言われるまでも無い!」
森人の括りで契りを交わしたことが功を奏したようで、以前よりも意固地さが消えた気がする。
「――っと、放置して悪かったな、ルティ」
「い、いえいえいえ! と、とにかくびっくりしてまして~」
「アックさま。あなたは、ご自分の国を異種族の楽園になさるおつもりが?」
ルティは戸惑っているがミルシェは冷静に聞いてくるか。
「そういうつもりは……しかし貴族の例もあるからな。知らない人間を再建で入れるとなると……」
「それでしたら当面はエルフたちに任せていいと思いますわ。建物に関してはしばらく手を加えなくとも……、そのうちに職人が集まって来ますわよ」
「職人か……」
再建と言いつつ、具体的なことは何も考えていない。自然とサンフィアたちエルフと獣人たちを受け入れただけだ。
公国ではあるが、今さら立派な城なんかを建てるつもりは無い。だがミルシェの言うように、まずは居住区以外の所を任せてみるのもいいかもしれないな。
「……ん? どうした、シーニャ」
「エルフの森の先にはいつ行くのだ?」
「あぁ……そうか。それも気になるところだな」
「アックさま? エルフの所で何かありましたのかしら?」
おれはかいつまんで今までに起きたことをミルシェたちに話した。
「――ということなんだ。行くにしてもここを離れるとなると……」
「アック様、アック様! はいはいっっ! ご一緒したいですっ!!」
「うーん」
「……それでしたら、あたしが残りますわ」
「ミルシェが? し、しかし……」
そう何度もミルシェばかりに頼るのはどうなんだろうか。
「ここを守るだけならあたしが適任かと思いますわ。それに、エルフたちの動きも見ておきたいですし」
「そうか。ミルシェなら任せられるな! でも、交渉事があったら頼みたかったが……」
「ふふっ、交渉事ならルティで十分ですわよ? そうでしょう? ルティ」
「は、はいっっ!!」
あまり変わったように見えないが、ミルシェに任せたことでルティも成長したということだろうか。
――ということは、ルティ、フィーサとシーニャで出発することになるな。
「フィーサはまだ眠っているのか?」
「ええ。人化はしていませんので、眠ったままお連れしてよろしいのでは?」
「……分かった、そうしよう」
神剣となってからは消耗が激しくなっているはず。今は眠らせておく方が良さそうだ。
「アック、あのエルフは連れていかないのだ?」
「ん? サンフィアのことか?」
「ウニャ」
「そうだな……」
敵対していたのにシーニャがこんなことを言うようになるとは。ミルシェの代わりにエルフのサンフィアか。
「アック様! ひとまずお食事にしましょ~! こっち、こっちに来てくださいっ」