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呪いを解く方法が見つからないまま、時は静かに過ぎていった。
その間、メイは何かを探すかのように、一心不乱に剣術の練習に没頭していた。
夕刻、彼女は翔太と手合わせをしていた。翔太は部隊の中でも銃の腕も剣の技量もトップクラスであった。
練習を見ていたタケルは、「おまえら、いつまでやってるの?早くエリナちゃんのところに行こうぜ。」
しかし、その声はメイと翔太の耳には届かない。
メイは必死に翔太に食らいつき、攻撃を続けた。
「メイ、強くなったな。」と翔太が感心して言った。
「まだまだ!」メイは汗を拭いながら答えた。翔太はメイが遅くまで自主練をしていることを知っていた。
「そうか、じゃあ行くぞ!」「こい!」メイは力強く応えた。
タケルは寝そべりながら、「あーぁ」とつまらなそうにしていた。
練習が終わると、三人は紅葉庵に向かった。
赤提灯の暖かな光が、格子戸から漏れる。紅葉庵特有の、醤油と出汁、
そしてほのかな酒の匂いが、通りまで漂っていた。店内は賑わっていて、
笑い声とグラスの触れ合う音が心地よいざわめきを作り出している。
その一角のテーブルで、メイは顔を真っ赤にして、目の前の二人に抗議していた。
「ちょっとタケル! 笑わないでよ!」
タケルは箸を持ったまま、腹を抱えて「ぶはははは!」とけたたましい笑い声をあげている。
テーブルの上には、湯気の立つ枝豆、きつね色に揚がった唐揚げ、
そして色鮮やかな刺身の盛り合わせが並んでいる。三人の手元には、それぞれジョッキが置かれている。
「だってさぁ!」タケルは笑いの合間に喘ぐように言う。
「なんで副官に人工呼吸するんだよ! 普通しねぇだろ!」
メイは口をへの字に曲げる。先ほど話したのは、副司令官との訓練中の出来事だ。
想定外のハプニングで副司令官が意識を失いかけた際、メイが咄嗟にとった行動が
タケルにとってはよほど面白かったらしい。
「だって…訓練だと思ったんだもん……! 意識不明になった時の対応の訓練かと……」
メイの必死な言い訳に、翔太も肩を震わせている。普段は穏やかな翔太も、この時ばかりは笑いをこらえきれないようだ。
翔太は顔を上げずに呟く。「メイが首絞めたんだろ…?」
「そう…かもしれない……」メイはますます困惑した表情になる。
タケルは涙を拭いながら
「まあ、でも、気を失ってたら、確かに溺れた、とか、呼吸止まったって思うかもな」と少し
落ち着きを取り戻した様子で言った。そして、目の前のジョッキに残ったビールを一気に呷る。
「それにしてもさぁ…」タケルは刺身に箸を伸ばしながら、ニヤニヤとメイを見る。
「俺はあの副官にキスはできねぇな」
「……っ!」メイの顔から、さらに火が出そうなほど赤くなる。
翔太も同意するように、小さく頷きながら「た、確かに…ちょっと恐ろしいかも…」と呟いた。
「翔太までやめてよ!」メイはプンプンと頬を膨らませる。「キスじゃないもん! 人命救助だもん!」
タケルはアジの刺身をつまみながら、話題を変えた。
「しかし、あの副官が個人授業なんて、珍しいよな」
「そうなの?」
タケルは頷く。「ああ。普段はそんなことしねぇよ。
一隊員にマンツーマンなんて、俺たちだって受けたことないね」
「へぇ…」
「まあ、副官なりに、メイのこと心配してたのかもな」
タケルの言葉に、メイの心臓が小さく跳ねた。「心配」という言葉が、ある記憶の扉を僅かに開く。
「そうかな…」
メイの脳裏に、暗い一室の光景がフラッシュバックした。
彩の地部隊の隊員たちに囲まれ、為す術もなく、ただ震えていたあの時。
力ずくで押さえつけられ、心無い言葉を浴びせられた記憶が、鈍い痛みとなって蘇る。
あの時、体だけでなく、心まで怯えていた自分。
彼らはきっと、自分の中の弱さを見透かしていたのだろう。
「それに副官だし、その辺は気にしなくてもいいんじゃない?」
メイは、タケルと翔太の、自分をからかいながらも優しく見守ってくれる雰囲気に
心が温かくなるのを感じた。そして、少しだけ、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「それ、どういう意味?」
メイの含みのある問いかけに、タケルと翔太は顔を見合わせ、再び笑い出した。
三人の笑い声が、紅葉庵の温かい雰囲気に溶け込んでいった。
メイ「そういえばタケルはエリナちゃんとその...」
タケルが自信満々に答えた。
「え!当たり前だろ、もうエリナは俺のものさ。」その瞬間、タケルの頭にお盆がゴンと乗せられ
「いてー!!」とタケルが叫ぶと、エリナが怒りを込めて言った。
「誰が俺のものよ!誤解するようなこと言わないで!ふん。」そして、ぷいっと行ってしまった。
タケルはしょんぼりした顔で言った。「そんなぁ」メイと翔太はその様子を見て笑った
周りの人たちはそのやり取りを明るい雰囲気の中で見守っていた。
そんな中、3人の話題は最近の魔獣の動向に移った。信国では魔獣が増え、
制御できないほど暴れているという。そのため、信国は各地に援軍を要請していた。
その要請が武蔵帝都にも届き、彼らは信国への援軍を決めた。
「他の部隊も合流するってことだよな」とタケルが話すと、
翔太が答えた。「そうだ。特に美智(みち)の国の司令官は相当な切れ者だと聞いているぞ。」
タケルはにやけながら、メイに向かって言った。「メイ、知ってるか?
美智(みち)の国の司令官はすごい美人なんだぞ。その上、ドがつくS嬢だ。
あ~、あの足で踏まれたい~」
翔太「...」
メイ「...た、タケル」
タケル「?」
タケルの後ろには、殺気立ったエリナが立っていた。
彼女は手に持っていたお盆でタケルの頭を叩いた。
「ゴン!」という音が響き渡る。「変態!知らない」と言ってエリナは去っていった。
束の間の友との楽しい時間が終わる、再び魔獣を討伐する日々が戻ってくる。
メイにはまだ呪いを解除する術が分からないものの、自分にできる事を精一杯やろうと心に誓っていた。