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-scene8- Ren Meguro



🩷「翔太、お前どういうことだよ!連絡がないってあの子怒ってたぞ」


💙「あー悪い。合わんわ、あの子」


佐久間くんと翔太くんが揉めていた。どんな女の子を紹介されても、ちっとも長続きしないたのだという。

佐久間くんはとうとう怒り出して、その日以来翔太くんに自分の女友達を紹介するのをやめた。






季節が変わり、またあの思い出したくもない季節が巡って来る。

翔太くんが事件に遭ってからちょうど一年。

俺たちは友達として、少しだけ距離を戻していた。

今は以前のように、俺の家に遊びに来ることもある。

大体はそこにラウールもいて、三人で仲良くご飯を食べたり、お酒を飲んだりしてきっちり夜中には解散する、男同士の気楽な集まりがたびたび開催されていた。

その日も、三人で遊ぶつもりで、俺は食事の準備をしていた。

携帯が鳴った。


🖤「もしもし」


🤍「あ、めめ?ごめんごめん、今日行けなくなっちゃった」


🖤「え、そうなの?もう人数分の支度始めてるけど」


🤍「急に実家に呼ばれたから行かなくちゃ」


🖤「了解。じゃ、また今度」


電話を切った後、翔太くんと二人きりになるのは随分久しぶりだなと思った。

いや、俺たちが距離を取ってからずっと二人でなんていなかったことにその時初めて思い当たる。

楽屋や仕事場でも、ラウールや康二がいつも俺たちと一緒にいたのだった。

そのことに気がついたら俺は急にソワソワして、冷蔵庫から冷えたビールを取り出して飲み始めた。

いわゆるキッチンドランカーだ。

料理の下拵えをしながら、ほろ酔い気分で翔太くんが来るのを待つ。

約束の時間からさほど遅れることなく、翔太くんがやって来た。


💙「あれぇ?ラウールは?」


翔太くんは赤い顔をしていた。

来る前に少し外で飲んできたという。

以前はそれほどお酒も飲まなかったのに、最近は酒量が増えたんだと舘さんが心配していたのを思い出した。


🖤「今日は来られないみたい」


💙「ふーん」


翔太くんは、どかっとソファに腰を下ろした。


🖤「飯入る?何か食べて来ちゃった?」


💙「いや。ここ来たら美味いもん食えると思って何も食べずに飲んでた」


🖤「そういう飲み方、あまり良くないよ」


💙「ほっとけ」


何か嫌なことでもあったのかと気になるが、本人が話さないならわざわざ聞くのもなと思い、俺はまず、刺身を出した。


💙「美味そう。食っていい?」


🖤「どうぞ。唐揚げ揚げたら俺も食べる。先始めてて。飲み物は?」


💙「日本酒があれば日本酒飲みたい」


🖤「だよね。あるある」


俺はこの日のために蔵元からわざわざ取り寄せた酒を瓶ごとテーブルに置いた。


🖤「お猪口で飲む?」


💙「グラスで」


🖤「そんなに飲んで大丈夫?」


まあ、でも明日予定ないって言ってたし大丈夫かと俺は小さめのグラスを出した。

翔太くんはすぐにそれを煽り、まるで駅前で見るサラリーマンみたいな飲み方を始めた。


🖤「なんか、あった?」


カウンター越しに、俺はついに我慢できず訊いてしまった。


💙「何もない」


🖤「それにしては飲み方が…あっ!しょっぴー!!」


ガチャン!


💙「っつう……っ」


🖤「大丈夫???」


翔太くんは、お代わりをしようとして手を滑らせ、グラスをテーブルから落とした。

そして割れたグラスを拾おうとして、手を切った。

布巾を持って駆け寄り、翔太くんをどかせる。

翔太くんが床に尻もちをついて、後ろによろけた。


💙「お前さ、なんで俺のことしょっぴーって呼んでんの」


酒臭い息が、俺の髪にかかった。

俺は割れたグラスを拾い集めながら聞こえなかったふりをした。


💙「なあ!!めめ!!」


🖤「ごめん、特に意識してなかった」


俺は嘘をついた。

岩本くんに注意を受けても無視していたのに、とうとう翔太くんにまで未練がましいと思われるのか。


💙「俺の気持ちに気づいてるんだろ」


🖤「気持ち?」


翔太くんが熱っぽい目で俺を見ている。

俺は何も言えずに黙ってそのまま翔太くんを見つめた。


💙「何に、遠慮してんの」


🖤「…………」


💙「俺の傷が癒えるまでとか思ってんの」


🖤「………翔太くん」


💙「絶対癒えねえよ、あんなことあって…」


翔太くんの手の中に大きめなガラスの破片があって、それを力いっぱい握っていることに、俺はその時初めて気づいた。


🖤「離して、それ」


💙「嫌だ」


ぎりぎりぎり。

手の中が紅に染まっていく。

ぽたぽたと、血が床を汚した。


💙「もう、なんで生きてるのかわかんない…っ」


🖤「翔太くん…」


💙「あのライブの後、俺は本当はお前んちに行くつもりだったんだ」


🖤「え……」


💙「でも、誰も車に来なくて、携帯もなくって…っ」


翔太くんはしゃくり上げながら、話している。

俺には初めて聞くことばかりで、しかもその内容が衝撃的すぎて、言葉が継げない。


💙「めめと、過ごしたかったんだ、あの日」


🖤「そうだったんだ……」


💙「でもお前は、俺のこと、遠ざけた」


🖤「違う」


💙「俺があれか?他の男にやられたから、愛想尽かしたのか?」


🖤「違うよ」


💙「俺が誰にも抱かれるから、嫌いになったのか」


🖤「違うってば!!!!!」


俺は翔太くんの手首を掴み、手を開かせ、破片を取り出した。


🖤「俺の話、聞いてよ」


💙「めめ?」


🖤「俺が好きなのは、いつだって、翔太くんだけだ」


そう呟いて、俺は翔太くんの赤い手のひらを舐めた。


💙「汚い」


🖤「汚くなんかない。俺の好きな手だ」


💙「俺は汚れてる」


🖤「汚れてなんかいるもんか」


💙「俺とまた、始められるのか?」


🖤「翔太くんとしか始められない」



そう言うと、翔太くんは少し笑って


💙「いてえ」


と言った。




翔太くんの手の傷は、結局5針縫った。

翔太くんはこれでめめといられるなら安いもんだと微笑んだ。

俺は翔太くんが痛い目に遭うのはもう嫌だから勘弁してほしいと言った。

翔太くんは少し嬉しそうにした。


💙「すぐには進めないけど、これからも俺のそばにいてくれるか?」


🖤「うん、翔太くんも、俺のそばにいて」


病院から戻った俺の家のベランダで、夜空を見上げながら二人でいつまでも星を見ていた。





おわり。

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