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長老の報告から間もなく、グラウンドの空にアストラル艦隊の巨大な影が差した。 クリスタルで覆われた船体は、グラウンドの自然とはあまりにも異質で、その威圧的な存在感は、集落の人々に不安と恐怖をもたらした。
「おんりー、あれ……何?」
おら子は、空を見上げたままおんりーの服の裾をぎゅっと掴んだ。その震える声に、おんりーは静かに答えた。
「アストラルからの…追手だ。」
彼は、集落の広場に集まった人々を見た。無防備で、魔法の知識も少ない彼らが、アストラルの圧倒的な武力の前でどうなるか。
おんりーの脳裏に、冷徹な指令がよぎる。
「グラウンドの生物は、アストラルの安全を脅かす可能性のある、調査対象外の存在である。必要であれば排除もやむを得ない。」
旗艦から一筋の光が降り注ぎ、眩い光の中から数人の影が実体化した。先頭に立つのは、見慣れた深紅の制服に身を包んだ藻舞美だった。
彼女の瞳は冷たく、グラウンドの土を踏みしめることさえ嫌悪感を覚えているようだった。彼女の背後には、おんりーに並ぶほどの実力を持つと言われるアストラル精鋭部隊の魔法使い達が控えている。
「オンリー!よくもこんな汚れた地に身を隠していたわね」
藻舞美の声が、澄んだ空気に響き渡る。
彼女の視線は、まるでゴミを見るかのようにおら子を一瞥し、そしておんりーへと向けられた。
「貴方の身の安全は確保されたわ。さあアストラルへ戻るのよ。」
藻舞美はそう言って、おんりーに手を差し伸べた。その手は、かつておんりーがアストラルで見てきた、完璧な貴族令嬢のそれだった。
「ま…待ってください!おんりーは、私たちの命の恩人です!何も悪いことしてない!」
おら子がたまらず藻舞美の前に立ちはだかる。藻舞美は鼻で笑った。
「下賤なグラウンドの娘が、アストラルのエリートに指図する気?貴方のような汚れた存在が、オンリーの隣に立つ資格はないわ。」
藻舞美の言葉は、集落の人々、そしておら子の心を深く傷つけた。おら子は顔を青ざめさせ、震えながら後ずさった。 その時、彼女の足元から無意識のうちに花々が咲き乱れ始める。それは、彼女の動揺を表すかのように、異常な速度で成長していく。
「見なさい、オンリー。これがグラウンドの民よ。制御不能な汚れた力。貴方はこんなものと、よく一緒にいられたわね。」
藻舞美は冷笑し、杖を構えた。「無力化」の呪文が彼女の口から放たれ、集落の中心で暴走し始めたおら子の能力へと向けられる。それは、ただ能力を止めるだけでなく、おら子の生命力すら吸い取るような、強力な魔法だった。
「やめろ!」
おんりーの声が、広場に響き渡った。 彼は一歩踏み出し、藻舞美とおら子の間に割って入った。藻舞美の放った魔法は、おんりーの肉体を直撃する。
「…っ⁉︎」
「おんりー‼︎」
おら子が悲鳴を上げた。おんりーは、魔法の衝撃で膝をつきながらも、おら子の前に立ち続ける。
「藻舞美、何をするつもりだ。これは私の調査対象だ。勝手な真似は許さない。」
おんりーの言葉は、冷たく、そして明確だった。彼はあくまで「調査対象」という名目でおら子を守ろうとしている。それが、アストラル人としての、彼の最大限の優しさであり、葛藤の表れだった。藻舞美は驚きに目を見開いた。おんりーが、自分以外の誰かを庇うなど、これまで考えられなかったからだ。
「オンリー、まさかこの娘に…!」
藻舞美の瞳に、嫉妬の炎が燃え上がる。彼女は再び杖を構え、今度はおんりーとおら子、2人まとめて排除しようとした。
その時、おら子の中で、何かが弾けた。
目の前で傷つくおんりーの姿、そして藻舞美の冷酷な言葉。
「やめてぇぇ‼︎」
おら子の叫びと共に、彼女の身体からこれまでとは比べ物にならないほど膨大な光が放たれた。それは、ただの無意識の能力の暴走ではなかった。
光は藻舞美の魔法をはね返し、アストラル精鋭部隊を後退させるほどの衝撃波を生み出した。
その光の中、おら子の瞳は、今までに見たことのない、深く強い輝きを宿していた。古代文明の末裔として、彼女の中に眠っていた真の力が、おんりーの危機によって覚醒したのだ。