ぼうっと、空を見つめる。
仄暗い竜胆色の空には一つ、小さな淋しい星が咲いている。聞き馴染んだチャイムが鳴り、無機質な放送が耳へ届く。
「完全下校まで後十五分です。残っている生徒は速やかに下校しましょう」
キンと古いスピーカーに甲高い音が弾かれる。手元に目線を落とせば、ノートに「僕は」の文字がでかでかと浮かんでいた。続きなんてなく、残りは真っ白だ。本の感想なんて、なんにも思ってない。だから、書けない。みんな、どうやって書いてるんだろう。こんなの。
「はぁ…」
重い溜息を空気に混ぜこむ。ガタ、と鈍い音を鳴らし立ち上がる。真っ白なノートと、対象的な文字まみれの教科書を乱暴に鞄へ詰め込む。重たい鞄を肩に掛け扉を開けようとした途端、勝手に扉が右へと動く。
「おー…まだ残ってたのか」
「…さとみ、部活終わったの?」
「おう、ノート忘れた」
そう言いオレの肩を横に避け自分の席へと急ぎ綺麗に整理された教科書の山からノートを引っ張りだす。付箋まみれのノートは正に優等生だ。オレとは真反対の。さとみとは仲がいいけど、何かとすれ違う事が多すぎて「仲の良い友達」を超えられない。オレは運動出来ないけど、さとみはバスケ部のエースだし。成績もそんな良くないオレ、いつも学年平均一位のさとみ。一番、遠い所にいる。筈なのに、彼はオレと仲良くしてくれる。挨拶をしてくれるし、何かと手伝ってくれるし。彼の汗ばんだ服から白い肌がほんのり透けている。ぽたり、と桃色の髪からひと粒雫が弾けた。準備が終わったみたいで。彼は鞄を手に掛け立ち上がった。
「俺、帰るけど莉犬も一緒に帰る?」
「ん、帰る」
なんで、オレと仲良くしてくれるんだろう。整った顔からは何一つとして情報源がない。いつも、絵本の王子様みたいに微笑む。何時見たって、この顔だ。今日も、晴れない疑問を抱え沈み掛けた太陽が照らす道を二人で歩く。
コメント
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え、まじで暁さんのストーリーぜんぶ好きだわ