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――とある場所で。
「どうしてこんなことをするんですか!? 樽さえ返してくれさえしていれば、この獣たちを痛い目に遭わせなかったんですよ?」
「ふふ、知りたい?」
「知りたいに決まってますよ!! こんなのおかしいです! そうじゃないと――」
「アック様がお怒りになって、懲らしめてくれるから。かな?」
「――な、何故アック様のことを……?」
アックのことでルティは思わず動揺する。
「あの力、動き、強さ……とてもそそられるもの! もうすぐここに来て頂けるから、嬉しくっておかしくなりそう――!」
「……そ、そうはさせませんから!」
ルティの行方を追っていたおれたちだが、広場に集結していた魔物連中から魔法による集中攻撃を受けてしまった。それでも苦戦することなく敵を一掃する。その直後、空を見上げると暗闇に染まっていたことに気付く。
空の真下に広がる町には衛兵を除いて人間らしき者の姿は無い。大した強さでは無い魔物を町に棲みつかせている。といった感じだった。神族を謳《うた》っているが他の神とは一線を画している……ように思えた。
どうやらこのエリアだけは別の世界といったところだろう。
「フィーサ。神族であれば、邪神も住めるのか?」
「そ、そんなはずは無いなの。闇と光は相対的な力。どちらにも干渉しないでやって来たはずなの。でもでも、邪神なんてものは存在しないなの」
「それは妙だな。フィーサがいない間に、シーニャが邪神さまとか言って襲って来たぞ? それに、宮殿があったあの村は魔族の村だったらしい。おれを崇めていたのも獣化の腕が邪神としてのことだったらしいが」
「そっ、そんな存在は聞いたことが無いなの」
邪神が存在しないとなると闇の神というやつが悪ふざけをしただけになる。闇シーニャが口にしていたのも単なる遊びだとすれば、相当に性質《たち》が悪い。
「……ウニャ? アック、何なのだ?」
「いや、何でも無いぞ」
シーニャはおれが放った暴風をまともに受け、闇の気配が消えてしまっている。戦った記憶だけは残っているようだが、それ以外は忘れているようだ。
「闇の神ってのは?」
「え、えっと、神の名はクラティアさまで、水と雷と闇の属性を併せ持ったお方としか……」
「存在は知っていても出会ったことは無い?」
神のことを全て知っているわけではないとは妙な話だ。
「う、うん」
「土属性は光の神が?」
「なの」
だから属性の神が二人しかいなかったわけか。風の神であるラファーガは心の狭い奴だったが、炎の神は友好的だった。
「アック、そろそろ進みたいのだ! ドワーフがいないとつまらないのだ」
「あぁ、すぐに行くよ」
「小娘のことだから、またどこかでへばっているに決まっているなの!」
ルティのことだ。焦りまくってヘマをしてなければいいが。
「へばっているだけならいいけどな……」
「イスティさま。広場を抜けると一本道なの。町の中は魔物しかいないから、突っ切るしか手は無いなの!」
「よし、急ぐぞ」
「ウニャッ!」
魔物を町に居着かせてる闇の神に違和感を感じる――とはいえ、今はそこを目指すしかない。
「くうぅぅっ! これでもまだ歯向かわせるつもりですか?」
クラティアに仕向けられた魔物たちは、ルティの攻撃によってことごとく倒されている。その全ては致命傷を負わせたものではなく、ダメージを与えただけのものだ。
「――そう、それならもう用済みね」
「なっ――!? 何でこんなこと……」
「フフ……」
クラティアはルティを攻撃させていた魔物を、作り出した亜空間内に全て封じる。息が上がるルティに微笑むその表情は、さらに恍惚としたものに変えていく。
「いくら魔物さんでも許せません! 覚悟してください!!」
「もうすぐアック様が来るけれど、あなたも封じられたい? それならお望みどおりに……」
「わたしには水の魔法は効きませんっ!」
「残念! あたしの水はぬるぬるして、体中にまとわりつくもの。それはつまり――」
ルティには水耐性がある。しかしそれが油断を生じさせてしまった。
「――!? もごぉっ!? ス、スライム……?」
「当たり! そんなあなたには、アック様がたどり着くまで生かしてあげる!」
「うぶぶ……ア、アック……様――」