日曜日の午後のファミレスは、ファミリーというだけ、親子連れで賑わっていた。
まだ正式な家族ではなかったが、美羽と和哉、颯太と紬は、待合室にある番号順に呼ばれる名簿にクスノキ 4人と記入した。
「美羽、少し待ち時間あるみたいだけどここで待つ感じでいいよね」
「私は問題ないけど、どれくらいで呼ばれるの? 長いなら、車で待つ?」
「あと2番目くらいだって」
和哉は仲睦まじい様子を見つめてはニコニコしていた。横にいた紬に話しかける。
「お父さんってさ。美羽といつもあんな感じなの?」
「……は、はい。そうです」
「そっかぁ」
見たこともない笑顔をしていた美羽を見て、和哉はホッとする。実家で過ごしていた時は、無理して周りに合わすことの多い美羽。姉の立場と、血縁関係を配慮しては、いい子を演じて続けてきた。
父の和哉の前では、あまり柔らかい笑いを見えることは少なかった。
幼少期の颯太と比べて、大人になり、スーツ姿が様になっていて、本当にっとしていた颯太なのかと疑わしい。
「颯太くん、今、仕事って何の仕事してるの?」
「あ、えっと、東京でコンピュータープログラマーの仕事をやっています。 主にパソコンでのデスクワークなんですが、本社勤務なので最近は企業同士の接待が多いですかね」
「へぇー、今流行りの仕事だねぇ。都会の人だわぁ」
「そうですかね」
腕組みをして、足を組む和哉はため息をつく。
「颯太くんは、立派な仕事してるし、俺は、農家になるより安心できると思うけどなぁ。最近、母さんは、体調が良くなくて、感情の起伏激しいからさ。気持ちが落ち着かないのよ。昔のこと、気にしてるんだよね」
横から、美羽は顔を出して、間に入る。
「昔って、従兄の翔太郎おじさんのことでしょう」
「そう」
「お待たせいたしました。4名でお待ちのお客様。ご案内いたします」
レストランの店員さんに声をかけられると、4人は、そのまま、静かに着いていった。
奥にあるふわふわのソファが置かれた座席に案内された。
4人用にしてはテーブルは大きめだった。
「広くてちょうどいいね」
「そうだな」
「ご注文が決まりましたら、ベルでお知らせください」
店員は、水が入ったコップ4つと箸とスプーン、フォークが入ったカトラリーケースを置いていく。
紬は楽しそうにお子様セットのメニューをマジマジと見た。
「紬ちゃん、何食べたい?」
「私、このハンバーグセット。ジュースが付いてくるやつかな」
「全部食べられるのか?」
「うん。お腹空いてるから大丈夫」
「今日は、俺が出すから、好きなのを頼みなさい」
「え、父さん、いいよ。生活大変なんでしょう。私が出すから」
「良いから。出させて。たまにしか会えないんだからこの時くらい良いでしょう。」
「んじゃ、お言葉に甘えてごちそうになります」
「素直でよろしい」
和哉はメニューの金額を見て、ドキッとしたが、気にせず注文するように促した。
「すいません。ありがとうございます」
「おう、気にしないでどんどん頼んで」
颯太と美羽は、頼んでいいと言われたが、遠慮しつつ、レストランの定番でお得なメニューを選んで頼んでいた。
和哉はミニまぐろ丼を注文して終わらせていた。
「それだけでいいの?」
「最近、食べすぎだって健康診断で言われたからさ。今日はこれだけにしとくわ」
「今日くらい内緒で食べたらいいのに」
「そ、そうだよな。母さん、結構、厳しいから。お茶碗に乗るご飯も少なくて……。食べても怒られないもんな。見てないし。んじゃ、マグロの刺身定食にしよう」
「マグロは譲らないんだね」
注文を終えて、改めて、話の続きをした。
紬は、その間、颯太にスマホを預けられてイヤホンでアニメ映画を見ていた。
大人な会話はなるべく聞かない方がいいなという配慮だ。
「んで、さっきの話の続きだけど、俺は、別に2人は結婚しても良いと思うの。ただ、母さんが気にしてるのは、昔の話で、颯太くんが引っ越したって言ってただろ」
「そうですね。あの時、母から突然、引っ越しするよって言われました」
「そう。あの時、結構修羅場でねぇ……。仲が良かったママ友だったから困ったもんだよ」
「私も話聞いてたよ。颯太さんのお父さんとウチのお母さんが従兄妹同士だったって」
「うん。そう、俺も、その時初めて知ったよ。あいつ、黙ってたんだよ。知ってたのに。後から、聞いたらさ、学生時代に2人は付き合ってたんだってさ。従兄妹だけど」
「あー、そうだったんですか」
「お母さんと颯太さんのお父さんと付き合ってた?! てか、血繋がってても付き合うんだね。好き合ってたってことか。
ん?ちょっと待って、お父さん。学生時代に付き合ってただけじゃ引っ越しにはならないよね」
和哉は、紬の横に移動し、イヤホンの上にさらに両手で耳を塞いで話す。
「密会……してたらしい」
「マジっすか」
「ドロドロのドラマみたいじゃない」
「どこでバレたの?!」
「母さんが、颯太くんのお母さんと鉢合わせしたって自宅で……」
「うわ、最悪……」
「あちゃー…。父さん、やってしまったのか」
颯太は目を覆う。美羽は、開いた口が塞がらない。
「そういうのがあったから関わりたくないって母さんはいうわけ。でもさ、結局は結婚って1番大事なのは本人同士でしょう。親は関係ないと俺は思うわけ」
「まぁ、確かにね。え、でも、父さん、良くお母さんを許せたね」
「それは、美羽のおかげな部分もあるんだ」
「私?」
「そう。血の繋がっていたら、逆に離婚してたかもしれない。でも、美羽は身寄りは無いし、どこにも預け先ないんだ。
それを考えたら、俺は、別れちゃいけないって思ってさ。母さんの行動も目をつぶることにしたんだよ。そもそも、恭子に
寂しい思いをさせた俺の責任でもあったから」
「え?」
「俺も悪さしてたからさ」
「えーーー?! 悪さってどういうことよ」
「もう、紬ちゃんに話聞こえるだろ。この話するのやめよう」
和哉は耳を塞いだ手をよけた。紬は夢中になって映画を見ていたため、気にしてなかった。
「つまりだ。親同士の関わりが少なければ、結婚はすんなりできるんじゃないかと思われる」
「あ、すいません、重要なこと言い忘れたんですが……」
「え? 何?」
「俺の両親ですが、高校生の時に交通事故で亡くなってます」
「え?! え、えーー?!」
和哉のびっくり度合いは半端なかった。颯太を二度見する。
「でも、亡くなったからと言って、母の償いは終わって無いですし、良くない気がしますよね。お母さんに認められない結婚は幸せになれない気がします」
「亡くなったの? それはそれで良いんだか悪いんだか複雑だね。ご両親がいないのに、しっかりしてるね。颯太くん、シングルファーザーってことだろ」
「全然、そんなことないです。毎日失敗の連続です。仕事は失敗は少なくできるんですが、育児となると、学校の持ち物渡し忘れたり、給食着アイロンしないで持たせたら、担任の先生に怒られまして、まだまだです。わからないことだらけで
恥ずかしい話、紬と先生に怒られてます」
「ちゃんとお父さんしてるじゃない。俺なんて、全部母さんに任せっきりだったから。すごいと思うよ。感心するわ」
「そうだったんだ」
美羽は、そこまでミスが多いとは思わず、母性本能が目覚め、なおさらやってあげたい気持ちが込み上げた。
注文していたメニューが次々と運ばれてきた。4人分のメニューが揃った。
両手を合わせて、いただきますと言うとタイミング悪く、和哉のスマホが鳴った。
「なんだよ。これから刺身定食ありつこうと思ったのに。ごめんね、みんな先に食べててね」
和哉は、レストランの外まで出て、電話に出た。屋根のあるところに雨宿りしながら電話で話していると、弱かった雨がどんどん強くなり、土砂降りになっていく。
「わかった、行くから。落ち着けって。琴音、そこで待ってて」
屋根の淵からぽたんぽたんと雨粒が地面に落ちていく。和哉の表情は険しくなっていた。
美羽と颯太は、満腹セットと言われるハンバーグとエビフライなどお得にプレートに乗っている定食に舌鼓を打っていた。
紬は、可愛い国旗がついたハンバーグセットを食べて笑顔が溢れていた。
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