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「ふむ、皆さんもそれでよろしいですね?」
「えぇ、助かる方法がそれだけしかないなら、仕方ないわ」
人々が囚われていた壁の中で、ロンデルは太った人々と話し込んでいた。
少し離れてパフィがアリエッタを抱いて、パフィの父親であるマルクと共にのんびり過ごしている。
「これでパパも生きていけるのよ。でもしばらく帰れないのよ」
「仕方ない。これは俺が悪いからな。頑張って痩せてサンディに会えるようになるさ」
「私が帰ったら、ちゃんと伝えておいてあげるからね」
なんともほのぼのとした会話である。パフィも父親が助かるという事で、すっかり上機嫌になっている。
(なんだかパフィ嬉しそうだな~。このおじさんと仲良さそうだし。もしかしてお父さんだったりして。似てないけど)
2人の間でなんとなく結論づけるアリエッタ。たとえ正解していようと、会話内容が分からないアリエッタには、真実など分からないのだ。
「ところでずっと気になっていたんだが……その子はなんだ?」
「アリエッタなのよ。可愛いのよ」
「あふっ」
パフィが自慢げにアリエッタを撫でながら紹介すると、マルクは突然真剣な目つきになった。
「ま、まさか……いつの間にか子供を……」
「……違うのよ」
プルプル震えた指で、アリエッタを指しながら、ゆっくりと取り乱し始める父マルク。
パフィが呆れながら反論するも、その耳には届いていないようだ。
「おおおおちつきなさいパフィ。まずは相手を紹介しなさい。殴らねば」
「落ち着くのはパパなのよ。何物騒な事言ってるのよ?」
「親に無断で子供を作るなど許せん! この俺が直々に成敗──」
「もう黙るのよっ!」
どふっ
「をうっ!?」
フォークを反対に持ち、柄の部分でマルクの丸い腹を殴った。たまらずマルクは横向きに転がる。
「早とちりしないでほしいのよ。この子は拾っただけなのよ。あえて言うならこの子が私の嫁なのよ」
まるっきりミューゼと同じ事を言っている。出会ったきっかけが何であれ、すっかり魅了されている様子である。
「よ、嫁?」
脂汗を噴き出している父親に、パフィはゆっくりとアリエッタの事を説明していった。もちろん撫でながら。ニーニルに連れて行くまでの話で、すっかり落ち着くどころか落ち込んでいったマルクは、悲しい目でアリエッタを見つめていた。
「すまないな、アリエッタちゃん……と言っても、分からないのか。可哀想に」
(?)
「だから私とミューゼが守って育てるのよ。もう辛い目には合わせないのよ」
「そうだな。しっかり面倒みてやるんだぞ」
(??)
アリエッタ本人は、何故悲しい目で見られているのか、分かっていない。そもそも自分が不幸だとは思っていないのである。
なんとなく2人の会話が落ち着いた、丁度その時だった。
……ドン……ドシン
(……ん? 何の音?)
「何か聞こえるのよ」
低い音が響いてくる。それは徐々に大きくなっていく。確かめようにも、壁が高くてピアーニャの助け無しでは、簡単には昇れない。
「なんだ?」
マルクが音の聞こえる方向を見る。つられて全員が同じ方向を見る。
「何か近づいてくるのよ? アリエッタおいで」
(なんだなんだ? 何がくるんだ?)
何があるのか分からない為、パフィはアリエッタを庇うように、自身の後ろに移動させる。
地鳴りはかなり大きく聞こえるようになっていた。
さらに音が近づいてきた時、壁の上から声が聞こえてきた。
「お~い!!」
「…総長? 一体どうしました?」
音が近づききる前に壁の上から現れたのは、ピアーニャとミューゼ。
その姿が見えた瞬間、アリエッタが元気よく手を振った。
「ぴあーにゃ~!!」(心配したよ~、よかった帰ってきた!)
「うっ……今日も元気だな……」
笑顔で手を振るアリエッタに、頑張って笑顔になって手を振り返すピアーニャだった。たとえ自分が困っても、小さな子供を泣かせるのは大人として気が引けるのである。
アリエッタに近づくと、ミューゼが勢いよく飛び出した。
「あ・り・えっ……」
1文字ずつ、そして一歩ずつ刻み、最後に屈んで……
「たーーーー!!」
ドゴォォォォォン!!
最後の1文字を叫びながら飛び込むと同時に、ミューゼの背後…離れた場所の壁が破壊された。壊された壁はアリエッタ達から見て側面にあたる為、破片が飛んできて怪我をするという事は無かった。
(わ゛ーーー!? なんだなんだ!?)
「ただいまアリエッタ♡ パフィに撫でてもらってたぁ? 山の上だけど風邪とかひいてなぁい?」
「んむぅっ……」
背後の破壊音を完全にスルーし、アリエッタを抱き締めるミューゼ。顔が柔らかい部分に埋まっている。
そんな2人を一瞬見てから、パフィは破壊された壁の方に向き、警戒を強める。
「あー…きをつけるのはいいが、ケイカイするものではないぞ」
「どういう事ですか?」
ロンデルの疑問に応えるように、壁の向こうからミューゼのウッドゴーレムが姿を現す。
「あれって、ミューゼの?」
「うむ。いろいろあってな……」
ウンザリした顔でピアーニャが応える。
ミューゼと共に行動しているパフィは、もちろんゴーレムの事を知っている。そしてそれがミューゼの切り札だという事も。
「ミューゼ、どういう事なのよ?」
「うへへ~……」
「ムダだ。かんぜんにヨってるぞ」
ミューゼは胸の中でアリエッタをこねくり回している。
「いや、ホントに何があったのよ……ほら、そろそろアリエッタを離すのよ」
「やーだー」
「ってつめたっ!? ミューゼずぶ濡れなのよ?」
アリエッタから引きはがそうとしてミューゼの肩に手を置くと、服が濡れている。川に落ちたままの状態で戻ってきたので、当然乾いてなどいない。
「ほら立ち上がるのよ。乾かさないと……」
「ぇう~~~」
突然可愛くも力の抜けた声が、ミューゼの胸元から聞こえた。その声の主は……
「アリエッタ!? ど、どうしたのよ!?」
「みゅぅぜ~。ぇひひ~」
突然ミューゼによじ登り始めるアリエッタ。首にしがみついて頬ずりをし始めた。
「んにょおぉぉぉぉぉ~~~!! アリエッタついに嫁に来てくれたのね!!」
「何言ってるのよこの酔っ払いは……」
「ほらほら~、こっちおいでぇ!」
酔っ払いは止まらない、止められない。
ミューゼもよくないが、アリエッタの様子もおかしいと気づいたパフィは、動こうとするミューゼの前に立ちはだかって様子を見てみる事にした。
「パフィ~なぁに? どいて~」
「へひひ~…ぱひ~」
「うぅ……可愛いけど…アリエッタまで酔ってるのよ……」
「なんでだ!?」
ガックリと項垂れるパフィ。
ミューゼの肩をつかんで動かないように抑えながら、困った顔でピアーニャとロンデルに、山に来る途中の川に近づいただけで、酒の匂いで2人とも酔った事を説明した。
「つまり、ミューゼオラさんの服にしみ込んだアリクルリバーの酒気で、アリエッタさんは酔ってしまったと……そういう事ですか」
「なんなんだ、このふたりはああぁぁぁぁ!!」
ピアーニャはついに頭を抱えて絶叫してしまった。空中でミューゼが酔ってからというもの、事態が凄い勢いで意味の分からない方向に向かっているのだ。
隣にいるロンデルも、平静を装っているが、時々黙りながら変な汗をかいている。
「あぁもう、今はテンション高いから、変な暴れ方しないように見張るしかないのよ。2人は私が見るから、総長達はこの後どうするか決めておいてほしいのよ」
「わ…わかりました……お手数おかけします」
「もういやだ……かえりたい……」
ピアーニャとロンデルが、大急ぎで今後の方針を固めていく。大まかにはロンデルが決めていた為、ピアーニャは問題がないか、手段と人員は大丈夫か確認しながら、許可を出していった。
「ダイエットのためにシーカーあずかりか。おわるころにはシーカーにてんしょくも、できそうだな」
「運動すると言う事は、鍛えるのと同じ事ですからね」
「ほほ~、なら娘と仕事するのもありですな」
「……マルクさん、父親からそれをすると嫌われますよ?」
ちょっぴり落ち込むマルクにちょっとした笑いが起こり、話はまとまった。あとは酔った2人を抑えながら、連れて帰るだけである。
ロンデルがアリエッタ達の方を見ると、ミューゼが無駄にハイテンションで、アリエッタがウッドゴーレムの手に乗って何かをしているのが見える。
「あちらは楽しそうですね」
「まったく……アレさけくさいから、もっとヨうんじゃないか?」
ピアーニャは呆れるが、子供の事だから仕方ないとも思っている。問題は、ウッドゴーレムが酒気を凝縮したような存在だという事である。
話を進めるために仕方なく放置していたが、引き離すなら早めの方が良いと思ったロンデルは、すぐに次の行動に移す事にした。
「そろそろ街に向かいましょうか。お三方をお呼びしますので、総長は準備の方をお願いします」
「ああ、なんかおわったみたいだからな」
離れている為、ピアーニャ達には何をしているのかまでは分からないが、アリエッタが喜んでいる姿、ミューゼが撫でている姿、そしてパフィが下から何かを叫んでいる姿が見える。それを見て、なんとなく何かが終わったと推測していた。
ゴーレムの腕が動き、掌に乗っているアリエッタとミューゼが、胸元から横へと移動する。ピアーニャは降りてくるものだと思って警戒心を強めたが、掌の上でウッドゴーレムが向いている方向に向き直っている。そして、アリエッタが山の高い部分を指差した……その時だった。
ウッドゴーレムの胸元が眩く輝き、一筋の光線が放たれた。
ちゅどおぉぉぉぉん!!
ウッドゴーレムの向いている先…山の一部に当たり爆発。その場所には大きな穴が空く。
突然の出来事に、アリエッタとミューゼ以外の全員が、目を点にし口をあんぐりと開けて、その光景を見ていた。
「…………は?」