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《2人編》
綺麗にトイレ掃除を終えた華は、できる限り制服の吸った水分を絞り、痛む体を引きずりながら屋上への階段を上った。
体を動かす度に、まるで筋肉痛のような痛みが体に走るのだが、少しずつ休みながら進んで行った。
そして途中で床にまばらに散らばる水滴に気がつく。
どうやら屋上には先に先客がいるらしい。
ようやく屋上までたどり着くと、濡れた制服を着たままの少女がビクリと肩を揺らし華を振り返った。
芽那だ。
学年もクラスも違う2人はお互いのことを当然のように知らない。
それでも、直感的に同じ境遇に置かれている相手なのだと気がついた。
どちらからともなくお互いに見つめ合う。
「…大丈夫?」
「そっちこそね」
屋上は太陽の光が当たっていて暖かかった。
「私、一華っていうの。漢字のイチって書いて、はじめ。ハナは難しいほうのハナね。
貴女は?」
「…木戸芽那」
「へー、メナっていうの。漢字は?」
「芽、…植物の、芽が出るとかの芽。あと那は…あ、沖縄の那覇のナがこの字だった」
華は何度か芽那の名前を口に出して呟く。
なんだか両親以外からは久しぶりに自分の名前が呼ばれたような気がする。
芽那は冷えきった体の内側が、少し暖かくなるのを感じた。
「…華ちゃんって、呼んでもいい?」
芽那が恐る恐る華を伺うと、彼女はどうして許可を求めるのかとばかりに不思議そうに首を傾げていた。
「?いいよ。
私は芽那って呼ぶつもりだったけど、構わないよね?」
「…うん!」
頭から水をかけられたため、2人ともまるで風呂上がりのように髪の毛から濡れている。
華は頭の後ろ側でポニーテールにしていた髪の毛を解いた。
水を含んだ重い髪の毛は、どさりと束になって背中に垂れる。その束をギュッと絞れば、また水分がボタボタの垂れた。
せっかく綺麗に巻いてきたのに、台無しである。
見る影もない前髪は、せめて乾いた時に変な形が残らないように真っ直ぐに下ろした。
「…華ちゃん髪の毛長いね。…乾かすの大変だったりする?」
「そんなこともないよ。
ヘアキャップとか被ってたら邪魔にならないし」
「へ、へー…そんなのあるんだ…」
華の言うことはいまいち芽那に伝わっていないようだ。
あまりこういった会話をしていないのだろうかと、髪を細かく手ぐしで梳かしながら華は考える。
そして華はビシャビシャに濡れた制服に手を掛けた。身につけていたベストを脱ぐ。
肌に張り付いていたワイシャツからは、キャミソールによっていくらか緩和されていたものの普通にブラシャーが透けていた。
少し暑いがベストを身につけていて、本当に良かった。
「は、華ちゃん…?!」
「なに?」
芽那は目を見開きアワアワと口を開閉している。
要件を尋ねても、言い出すことは無かったため、もういいだろうと今度はスカートに手を掛けた。