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華がホックを外すと、スカートはストンと屋上の地面に抵抗なく落ちた。
「わ、…っ」
プチプチとワイシャツのボタンを外し、またそれも脱ぐ。
キャミソールは脱ぐか迷ったが、それはかなり濡れており気持ち悪い。それに、どうせここには華と芽那以外に人はいないのだ。
本当に夏の日で良かったと思う。
服の水分をできるだけ絞って、地面に大きく広げた。
直接肌に当たる日が、冷えてしまった体にとって暖かかった。
「貴女も脱いだら?
いつからいるのか知らないけど、風邪引くよ」
「誰か来たらどうするの…。私はいい」
「そ?私たちみたいなのぐらいしか来ないと思うけどね」
華は下着姿にも関わらず、芽那の隣の地面に直接腰を下ろす。綺麗そうに見えたが、少しだけ砂のようなものもあったようでおしりに少しの不快感があった。
「さすがに寒くないの?」
確かに寒い、けれどそれほどでもないかもしれない。1度体を縮こませた芽那は、視線を上げしっかりと華の体を見てギョッとした。
華の体には、腕とお腹、そして太ももを中心に大きく青黒いアザがいくつかがあった。
「…あの、それも…やられたの?」
「あぁ、これ?そう。
ちょっと友達との意見が噛み合わなくてね」
「華ちゃんもなんだ…」
華は少し痛そうに青くなった部分を上からさすった。当たり前のようだが、押すと痛い。
きっと自分の体もそうなっているのだろうと芽那も濡れた服を少しだけまくってみる。
ずっと痛みを訴えかけてくる脇腹には、やはり大きなアザが出来ていた。
「痛そう」
「痛いよ」
「まあ、そりゃそうよね」
実際かなり痛いのだ。
華は、蹴られたとき、友達がどういった表情を自分に向けていたのかを見ていなかった。
でも見なくて良かったのかもしれない。なぜならそのおかげで今も、華は友達と仲直りが出来るという希望を捨てていないのだから。
「あの、…華ちゃんが虐められるようになった、きっかけ、って…
聞いてもいい?」
遠慮がちに芽那は華に伺った。
いじめられていると言われると、華はなんだか否定したい気分になった。
確かに華は虐められているのだろう。でもそれは一種の意見の衝突であり、回避できない、言わば喧嘩のようなものではないのだろうかと思う。
「気になるの?」
「あ、いや…嫌なら全然っ」
この卑屈さがまた、彼女への虐めを加速化させているのだろうなと華はぼんやりと思う。
そして華が、自分の何が悪いのかを理解することが出来ないように、芽那もそれに気がついていないのだ。
「実際私もそこまでわかんないんだけどね。
でも多分これがきっかけってやつは、ある」
そこから2人はお互いに自分たちの置かれている状況を話し合っていた。
チャイムが鳴る。
もう30分ほどが経ったのか。人と話していると時間が早く感じる。
華は屋上に立ち、地面に干している服の表面を触る。
さすがは夏の日で、固く絞った甲斐もあり服はもう乾燥していた。
華は服をサッと身につけた。
「じゃあ、私は教室に戻るから」
「なんで…?
貴女も、虐められてるんでしょ?」
芽那は不思議だった。
教室に戻っても、華にとっては居心地の悪い空間に他ならないだろう。そんな空間に、どうして自分から戻るのかがわからない。
それに、芽那は話し相手が欲しかった。また1人になんて、なりたくなかったのも大きいのかもしれない。
「そうね。
でも、ずっとここにいる訳にはいかないじゃない」
「そうだけど…」
華は芽那に対して毅然と言う。
すっぽりとベストに手を通した。髪の毛もまだ少し湿っているが、もういいだろうとポニーテールに戻す。
芽那は華が出ていったあとも、ただボーッと動かない屋上の扉を見つめていた。