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#独占欲
#ワンナイトラブ
翌朝、8時25分に鳴らされたチャイムの音に、沙紀は心臓が口から飛び出しそうなくらい驚いた。
玄関を出ようとちょうど靴を履いたところだ。
扉の覗き穴から見えた秘書の冬木の姿にホッとする。
「おはようございます。冬木さん。すみません、お待たせしてしまいましたか?」
すぐ出ますと鍵を取り出した沙紀は、冬木に手で止められた。
「今すぐ荷物をまとめてください」
「……え? それはどういう……」
「昨晩、ずっといたようです」
誰がなんて聞かなくてもわかる。
大輝が、だ。
「営業部の部長に頼んで彼を呼び出してもらったので、今はいません」
今はということは、ずっといたってこと?
もしかして一晩中?
もし、私が仕事で本当に遅かったら、マンションの入口で捕まり、おそらく強引に部屋まで上がり込んできたはずだ。
どうしてそこまで……?
そんなに西園寺CEOと知り合いになりたいの?
「できるだけ急いでください。最低限でいいので」
「すぐに準備します」
悩むのはあと!
沙紀は必要な物をスーツケースに詰めた。
貴重品、服、下着、靴、化粧品、スマホの充電器も忘れずに。
読みかけだった本はやめた。
でもお気に入りのぬいぐるみはつい入れてしまった。
「お待たせしました」
冬木に荷物を車のトランクへ入れてもらい、今日は助手席へ。
「今からCEOのマンションへ向かいます」
「えっ?」
「言い方が悪かったですね。本日10時から会議なので、迎えに行きます」
あぁ、そうだよね。
ビックリした。
西園寺CEOのマンションに泊まるのかと盛大な勘違いをしてしまった自分が恥ずかしい。
御曹司だからきっと高層で、夜景も綺麗で、日当たりも良くて、間取りもおしゃれで素敵なマンションなんだろうなと勝手に想像していた沙紀は、呆気に取られた。
ここは沙紀でも知っている有名な億ション。
最近再開発されたばかりの駅直結の一等地だ。
「ここの最上階です」
なぜか沙紀のスーツケースをガラガラしながら冬木がエレベーターにカードを翳す。
もしかしてそのカードがないと最上階って行くことができないんですか?
エレベータの途中の数字がないですけど、住人だけの専用エレベータですか?
庶民には未知の世界すぎて、何からツッコんだらいいのかわからない。
最上階には扉が1つしかないですけど?
まさかフロア全部なんて言わないですよね?
エレベーターと同じカードで開く扉は自動ドア。
もちろん監視カメラも上で見張っている。
玄関と思われる場所だけで、私のマンションの部屋よりも広くないですか?
何人でここに住んでいるんですか?
その壁のテレビは何インチですか?
ソファーの上のモダンな絵はどなたが描いた絵ですか?
「とりあえず、荷物はここに置かせてもらいますね」
冬木は玄関の片隅に沙紀のスーツケースを置く。
気怠そうに歩いてきた西園寺と目が合った沙紀は「おはようございます」と頭を下げた。
「……荷物はそれだけか?」
「はい、もともとあまり荷物は多くないので」
大輝と別れた時に、だいぶ服や小物を処分したからだ。
デートで着ていたワンピース、おそろいのマグカップ、お皿やクッションまで全部捨てた。
ツラくて見ているのが耐えられなかったからだ。
それなのに、ヨリを戻そうなんて。
あんな気軽に。
「荷物を持ってついてこい」
「はい?」
よくわからないまま靴を脱ぎ、部屋の中へ。
外をガラガラしたスーツケースのまま入って良いのかわからなかったが、少し重いので持ち上げるのは無理だった。
広すぎるリビングからさらに奥へ進むと、西園寺は最初の扉の前で立ち止まる。
「この部屋を使え」
「……はい?」
「ゲストルームだ」
「は? い、いえ、あの、」
扉の中はホテルですか? と聞きたくなるほどの部屋。
ダブルベッドを含む家具家電付き、シャワーもトイレも完備だ。
「部屋はたくさんある」
「そうではなくて」
「ここなら冬木の送迎が楽だ」
そういうことじゃなくて~。
いくら広い部屋でも男性の家に泊めてもらうのは……!
「とりあえず出社時間だ。行くぞ」
「えっ? あの、西園寺CEO」
「……彰だ。俺の名前」
知っているかと聞かれた沙紀は顔面蒼白になった。