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CEOのお名前知らなくてごめんなさい~。
「彰と呼べ」
「あ、彰様?」
「……気に入らないが、まぁいい」
気に入らないって何がですか~?
結局、部屋のことも聞けず、呼び方のことも聞けないまま、冬木の運転する車で出社。
昨日と同じように次から次へと仕事をしているうちに、あっという間に定時の17時半になってしまった。
「今日は9時45分出社でしたので、18時45分まで働いてもらってもいいですか?」
時差出勤ということで、と冬木に微笑まれた沙紀は「はい」と返事をするしかなかった。
荷物が西園寺CEOのマンションにあるからだ。
私一人では行くことができないし、入ることもできない。
それに、なにより自分のマンションに帰りたくない。
「とりあえずコーヒーを淹れましょう」
豆を挽くところから!
沙紀は冬木に教わりながらコーヒーと格闘した。
「……冷めているな」
「……すみません」
下手ですみません、不慣れですみません。
コーヒーミルも初めて、ドリップも初めてです!
普段コーヒーはインスタントですから!
「初めてにしては上出来でしょう?」
「……そうだな、悪くない」
少し薄いとダメ出しされた沙紀は「精進します」と項垂れた。
パリとのオンラインミーティングを西園寺が終えたのは18時30分。
サラッと何かをメモした西園寺はおもむろに立ち上がり、冬木にメモを渡す。
すぐに何件か電話をした冬木は手で丸を作って西園寺に合図した。
「行くぞ」
帰るぞってこと?
時計は18時45分。業務終了の時間だ。
統括室の鍵を閉め、エレベーターで地下の車へ。
会社の外に大輝の姿が見えた沙紀は息が止まるかと思った。
もし今日も普通に帰っていたら……?
「……ストーカーだな」
西園寺の呆れた声に沙紀の肩がビクッと揺れる。
その姿を見た西園寺は「心配するな」と不敵に笑いながら長い足を組んだ。
西園寺CEOのマンションに向かっているのだと思っていた沙紀は、到着した場所に戸惑った。
「車を停めてきますので、先に中へ」
冬木に開けられたドアから車を降りると、真正面は女性向けの高級ブティックだ。
まさかそんなはずはないと思いながらも沙紀は西園寺についていく。
だが、期待を裏切るかのように西園寺は女性向けの店内に足を踏み入れた。
「西園寺様、お待ちしておりました。こちらのお嬢様ですね」
「あぁ」
「ではこちらに」
店員さんとなぜか目があってしまったが、まさか私?
「あ、あの西園寺CEO」
「彰だ」
今はそんなことを気にしている場合ではなくて〜!
「彰様、これはどういう……?」
「さぁさぁ、こちらへ」
説明もないまま奥の部屋へ連行された沙紀はカバンを奪われ、上着を剥ぎ取られた。
テキパキとサイズを測られ、どんどん準備されていく。
「あの、これはどういうことですか?」
「お代は西園寺様よりいただいていますので、気に入ったものを選んでくださいね」
いやいやいやいや、おかしいでしょう?
どうして西園寺CEOが払っているの?
「よくお似合いですよ」
女優ですか? と聞きたくなるような綺麗な薄紫のドレスに沙紀は戸惑った。
デコルテが開いているが、いやらしい印象ではなく、シンプルなネックレスが上品さを引き立てている。
髪もハーフアップにされ、軽くメイクも直される。
まるで魔法にでもかかったかのようだ。
#シングルファザー
友人の結婚式に着るにはステキすぎるドレスなんて、どこに着ていくの?
「お嬢様は肌が白いので、なんでもお似合いです」
「そうか」
西園寺はぐるっと周りを見渡すと、棚に置かれたショールを指差した。
「あれも」
「このドレスになら、お色はこちらですね」
白から紫へのグラデーションが美しいショール。
待って、これ色違いをテレビで見たことある!
有名な女優さんが付けていたブランドのショール!
このショール、私の給料より高かったはず!
「あの、西園寺CEO」
「沙紀、呼び名」
待って、待って、待って!
なんで私の名前が呼び捨てになっているの?
「彰様、あのこんな高級なドレス、私ではお支払いが……」
「必要経費だ」
気にするなと口の端を上げた彰の顔は、まるで黒豹のようだった。
経費って、印刷用紙とかクリップとかじゃないの?
「ひあっ」
スッと腰に添えられた手に沙紀が思わず声を上げる。
「……女性にそんな反応をされたのは初めてだ」
ククッと笑いながら、でも沙紀の腰を離す気がなさそうな彰は、支払いも何もなくそのまま店を出た。
……どういうこと?
お支払いは?
セレブは支払いをしないってこと?
車を停めてくると言っていた冬木は結局降ろしてもらった場所にそのまま車を停めていた。
最初から店内に来るつもりはなかったってこと?
「よくお似合いですよ」
「あの、冬木さん。これは一体……」
車のドアを開けてくれた冬木にどういうことですか? と聞こうと思ったのに、沙紀は彰に引っ張られ車の中に。
ドアはパタンと閉められ、聞きそびれてしまった。
車の外では冬木が店員から沙紀のカバンと紙袋を受け取っている。
あ、着てきた服!
もしかしてあの紙袋に?
受け取った荷物をトランクへ入れた冬木は、普通に運転席に座り、車を動かした。
……えっと、これはどういう状態なのだろうか?
なぜ彰様に肩を抱き寄せられているのだろうか?
こういうことは恋人とするものでは?
いや、恋人でもなかなかしないな、車の後ろに二人で座ることなんてないもんね。
薄いショールのせいか、彰様の手の温かさを感じてしまった沙紀はどうしたらよいのかわからず固まった。