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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第35話 〚見ていた者〛(海翔視点)
——見えてしまった。
橘海翔は、昼休みの終わり際、教室に戻ろうとして廊下を歩いていた。
少し遠くからでも、教室の空気がいつもと違うのが分かった。
ざわざわしていない。
笑い声もない。
……嫌な予感がした。
扉の近くまで来た、その時。
「三軍のくせに」
その言葉が、はっきり耳に入った。
海翔の足が、止まる。
教室の中を見ると、
姫野りあが、腕を組んだまま立っていた。
その前で——
澪が、扉のそばに立ち尽くしている。
澪の目が、揺れていた。
涙を必死にこらえているのが、すぐに分かった。
(……何してんだよ)
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
澪は、何も言わない。
言い返さない。
ただ、俯いて、席に戻ろうとしていた。
——その姿が、あまりにも苦しかった。
(違うだろ)
三軍じゃない。
弱くもない。
ただ、優しいだけだ。
海翔は、気づいていた。
澪は、静かな人だ。
でも、逃げているわけじゃない。
考えて。
選んで。
黙ることを選んでいる。
それを——
勝手に見下すな。
海翔の拳が、無意識に握られる。
(俺は……何してる)
見ているだけで、いいのか?
さっきまで、
「守る」なんて大げさだと思っていた。
でも今は違う。
目の前で、
大切な人が傷つけられている。
海翔は、一歩、教室に踏み出しかけて——
その瞬間、澪が小さく息を吸った。
そして、涙目のまま、顔を上げた。
その目が、
「大丈夫」と言っているようで。
——それが、一番つらかった。
(大丈夫なわけないだろ)
海翔は、はっきり決めた。
もう、黙らない。
見過ごさない。
人気者じゃなくなってもいい。
空気が悪くなってもいい。
澪が一人で耐えるくらいなら、
俺が全部引き受ける。
海翔は、教室の中へ入る。
椅子が、音を立てる。
その音で、何人かが振り向いた。
海翔の視線は、真っ直ぐ、りあに向いていた。
——逃げ場は、もうない。
(次は、俺の番だ)