渡辺side
めめの家に着いたら、ちょうど管理人さんと鉢合わせた
めめの家にはよく行っていたから覚えられてて、共用玄関を通してくれた
軽く世間話をして温かい缶コーヒーをいただいた
ありがたくそれで暖をとりながら、めめの家の扉にもたれかかって、自分の心から溢れ出る気持ちと向き合う
せめて、少しでも伝わるようにと、ひんやりとした空気の中で、色々と考えたけど、おれの頭ではそんなこと、できるはずもなかった
それでも物理的な冷たさは、前のめりになるおれに、落ち着きを取り戻させてくれた
うまく言葉にまとまらない代わりに、今までのことがどんどん思い出されていく
あの時もそうだった、あの時もか、とめめの優しさに改めて気づいていく度に心に光が灯っていく
おれが辛くて悲しい時は、いつもめめが隣にいてくれたのに、俺はずっとそれに気づいてなかった
いったい、いつから好きでいてくれたんだろう、俺がちっとも好きになれなかった俺を
いったい、いつから寄り添っていてくれたんだろう、俺が自分でおざなりにした俺の気持ちに
めめの優しさが心に染みる度にぽかぽかと暖かくなって、体が冷えていくのも全然気にならなかった
思えば、めめの前で泣いたあの日からずっと、不思議と体が軽いままだし、心はずっとぽかぽかとしたままなのだ
そっとおでこに触れる
元気になれるようにね、というめめの声と、優しい笑顔を思い出して、また暖かさが体に広がっていく
同時に柔らかな唇の感触も思い出して、少し気恥ずかしい
そういえば抱きしめられてもいたっけ
思い返してみれば、大事な恋人のような扱いをされていたことに気づいて、キュンキュンと嬉しい気持ちが溢れてたまらなくなった
ぶわわわと熱が顔に集まって、自然と口角が上がってしまって、思わず両手で顔を覆う
こんなにも弾んだ気持ちになったのは久しぶりだ
だめだ、せっかく落ち着いたのに
このままじゃ気持ちばっかりが急いて、言葉にできなくなりそう
すぅ、はぁと深呼吸をして熱くなった体に冷たい空気を送る
冷たい空気のおかげで逸る気持ちは落ち着いて、思い出した優しさのおかげで胸は暖かくなった
うまく言えるかわからないけど、伝えれるだけ伝えようと決心したところで、慌てて走ってくる愛しい人の姿が見えた
「翔太くん!」
何時間経ったのかわからないけど、待っている時間はあっという間だった
コメント
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可愛いね。少女漫画みたいだなあ。綴る言葉が美しく、丁寧で、優しくてとっても読みやすいし、感情移入してしまいます。
