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この男性、煜峰の侍従だったのね。それなら話は早い。姜弘の事情を知っている。
「姜弘様に揚げたての胡麻団子を買って帰ろうとしていたところです。翠景鎮のものが大変お気に入りですから」
「なんだ。それなら目的は一緒だな。宜辰、買ってきてくれ」
「はい」
お代を払ってきた宜辰から胡麻団子を受け取ると、さらにそれを麗霞に渡してきた。
「姜弘殿が突然、この店の胡麻団子が食べたいと言い出してな」
よくある姜弘の我儘だ。あそこの麻花が食べたいとか、お茶が飲みたいだとか言いだすので、麗霞もよく振り回されている。
「殿下ご自身が買いに来たのですか?」
適当な宮女を使いを出せばいいのに。
煜峰もそうしたかったと言いたげに、やれやれと息をついた。
「私が麗霞を使うから、自分が不自由している。筆が進まないのは誰のせいか、などとブツブツ言い出したから、仕方なく買いに来たのだ」
要は「お前が買いに行け」ってことね。
普通、皇族にこんな態度をとったら首が飛んでいくが、さすがは姜弘。多少のふてぶてしい態度や我儘は許されてしまう。
大陸一と称される腕の良さで、皇帝のお気に入りでもある彼は怖いもの無しではあるが、その反面、絵を描くこと以外の欲はない人。
富と名声を手にして云々だとか、朝廷を牛耳り意のままにしようだとか、そんなことは微塵も考えていないことが明らかなので、大概のことは笑って済まされるのだ。
「それではこれは、煜峰殿下に買っていただいたと一言添えておきます」
「頼む」
「煜峰様、お帰りになられますか?」
宜辰に尋ねられた煜峰が、チラリとこちらを見てきた。
「お前ももう帰るのだろう? 馬車に一緒に乗って行くと良い」
「いえ、そんな。恐れ多いことでございます」
麗霞は皇子と一緒の馬車に乗れるほどの身分ではない。
滅相もないと断る麗霞に、煜峰は「早く乗れ」と促してくる。
「せっかく買った胡麻団子が冷めてしまうではないか。もたもたするな」
確かに。早足で帰るよりも馬車の方が圧倒的に早い。皇宮すぐ側の街とはいえ、ここから画院に一番近い門までは随分と距離がある。
これは麗霞に対する気遣いではなく、姜弘へのものだ。そう考えれば乗ってしまってもいいのかも。
「それでは失礼致します」
馬車には何度か乗ったことがあるが、そのどの車よりも豪華だ。窓掛けひとつとっても見事な刺繍で、椅子など座っていいのか戸惑うほど。栗家など大したことないのだと改めて思い知る。
「煜峰殿下にお会いできて幸いでした。まだ熱い胡麻団子を召しあがれば、姜弘様の機嫌も直るに違いありません」
「だと良いのだがな」
「今日は宮の外なのに偶然二人の知り合いと出会したので、くじ引きでもすればきっと、当たりが出ましたよ」
皇宮近くの街は賑わっているので、知り合いに偶然会うことはそんなに多くない。それも、その内の一人は路地裏で出会ったので、かなりの確率じゃないだろうか。
「二人? 私の他にも誰かと会ったのか」
「はい、中書省の官女に。それにしても彼女、何故あんな路地裏にいたのか不思議なんですよね。フェイスベールまで付けていたし。火鼠に一体なんの用があったのかしら」
あの道から表通りの方へ出るには、火鼠から出てくるしかない。右があそこに居たということは、必然的に火鼠で用を済ませて出てきたということになる。
煜峰に話し掛けると言うよりは、ひとりで考えるようにぶつぶつと喋る。
「火鼠?」
「表では堂々と売れない、変わったものを取り扱うお店なんです。お代さえ用意出来れば、どんな物でも用意してくれるんですよ」
「そのような店に中書省の官女が?」
煜峰は眉間にしわを寄せて難しい顔をしている。そんなに気になるような出来事なのだろうか?
「何を売り買いしていたか、なんでも良い。心当たりはないのか?」
心当たりと言われても。
右には秘密と言われたし、霊符の話しをしちゃダメってことよね。
しかし麗霞に思い当たる節があることを、煜峰は見逃さなかった。低く鋭い口調で問い詰められた。
「なんでも良いと言ったであろう? 話せ」
男前に凄まれると迫力がある。
はぐらかして逃げようにも、ここは馬車の中。逃げられない。
霊符を持っていて悪いことなんてないもの。と、麗霞は開き直って話すことにした。
コメント
1件
うわあ第10話読みました!! 煜峰殿下が麗霞に胡麻団子を買ってあげる流れ、優しすぎて泣く🥺 でもそのあとの「なんでも良いと言ったであろう?話せ」の圧、男前すぎて逆にドキドキしたんだけど…!! 麗霞が開き直るところも好き、この二人のやり取りもっと見たいです😭💕 次話も楽しみにしてますね〜!
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