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「俊哉さん」
「あなたは……」
仕事が一段落し、店を出たところに見覚えのある派手な女性が立っていた。
「少しお話できます?」
「あっ、ええ」
「喉が渇いてるの、お茶したいわ」
「わかりました。近くのレストランに行きましょう」
ドアをあけると、躊躇なく僕の車に乗り込んだその女性――桜木 琴音ちゃんのお姉さん。
確か、涼香さんだったか。
突然、いったい僕に何の用なのか。
あれから琴音ちゃんとは深い話はできていない、もしかして涼香さんから彼女について何か聞けるかも知れない……その思いだけでつい誘いを受けてしまった。
「ああ、美味しいわ。やっぱりビールが最高ですね」
レストランに入って、お姉さんはすぐにビールを注文し、一気に飲み干した後、「もう1杯頼んでいいかしら? あと、お腹も少し空いてるの」と、メニューを見始めた。
「どうぞ」
僕はそう言いながら、早く琴音ちゃんの話を聞きたい……と心の中でつぶやいた。
「ねえ、俊哉さん。あなたは琴音のことどう思います?」
注文を済ませた涼香さんからの突然の質問。
「い、いきなり何です?」
「嫌いですか?」
「き、嫌い……とか好きとか……僕は彼女の上司ですから」
もっともらしいことを言って、自分の気持ちをごまかそうとした。
「上司と部下だから清い関係だとでも言いたいんですか? 世間ではその方程式は成り立たないんですよ」
ドキッとさせるような涼しい目。
その眼力に圧倒されてしまう。
「お姉さん。本当に何がいいたいんですか?」
「涼香で結構よ。お姉さんなんて呼ばれたくないの」
「では……涼香さん。琴音ちゃんのことを僕がどう思っていても、今さら関係ないんです。彼女は、鳳条グループの御曹司と結婚したんですから」
そう、もうどうにもならない。
琴音ちゃんは人妻なんだから。
今は、まだ抑えられない自分の気持ちと必死に戦っているところだ。
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