――やっぱり、眠れない――
布団に入って目を閉じたのはいいけれど、遠山がいびきをかきだしても、クラウザーが日記を書き終え、布団に潜って眠りについても。裕太さんが、寝言を言い出しても、眠れなかった。
いや、昨日も――――あの言葉を言われた日も――――こんな感じだった。結局は短い睡眠につけたけれど。
あぁ、頭が痛い。
部屋にいるだけで、息がつまる思いだ。
静かに布団から抜け出し、負け組でここに来たとき知ったルートを駆使し建物から出ることに成功した。
草木も眠る丑三つ時、流石にこの時間までテニスをやっている人はいないらしい。
辺りに広がるのは昼間のように喧騒とボールの音ではなくて、ただただ静寂のみだった。
自分の息を吸い込む音すら、大きく聞こえる。
ふと、思っていたより明るいことに気付く。
見上げると、空に浮かぶ満月に近い上弦の月。秋の夜空は澄んでいて、雲は少ない。
やぁあっ!ぃやぁっ!
どこからか聴こえてきたその声にハッとする。眠ってはいなかったが、随分とボンヤリしていたらしい。空の隅が少しばかり白んでいた。
この声は、真田さんだろう。崖の上で何度か聞いたことがある。
影響されたわけではないが、体を動かすことにしよう。あとで、言い訳に出来るように。
「お前なぁ、抜け出すときは書き置きとか方法は色々あんだろ。黙ってぬけだしてんじゃねぇよ。」
「…、ッス」
コツ、と頭を小突かれる。それに小さく頭を下げることで答える。
まだ小さく漏らしている不満の言葉に対し、次からは気を付けるという類いの返事をしていると、視界のすみに目の前にいる裕太さんと同じく同室の金髪と跳ねた赤髪が入る。
背中に、なにか、入り込んだように寒気がする。
思わず体が震えそうになるのを唇を噛むことで必死に押さえる。
―――嫌だ、こわい、こわい、恐い―――
…なにが、おれは、何が恐いのだろう。
知らないし、考えたところでわからなかった。ただただ、思考と体を支配するその恐怖心に従って、そこを逃げ出す。慌てたような声に構っている場合ではなかった。あの場にいたらきっと。
何かが、壊れる。
はっきり、無意識にそう思ったのだ。
後ろから聴こえてくる会話に、更なる恐怖を感じながらも、どこか、と足を進めた。
「…、越前?」
「どうしたんや、不二くん。」
いや、あそこに。そこまで言って、不二はいい淀んだ。彼のコートとは、随分と離れていたはずだ。そんな彼がこんなとこにいるはずがない。しかし、次の瞬間視界に現れた元気一杯な走り方の人物に今度は白石が目を奪われた。
「、金ちゃんや。」
二人顔を見合わせて、どうしたのだろうと考える。向こうには、合宿場があるばかりだと。
「忘れ物かいな。…、まったく。」
「ふふ、彼等らしいじゃないか。…ところで幸村、遅くないかい。」
せやなぁ、そう言いながらわらいあっていた二人は、数分後、顔をひきつらせることになった。
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