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こないで、
やめて、
いいたいのに、いえないおれは
ぶあいそ
コシマエ、その独特の呼び方の声とともに背中を押される感覚。
目の前には、階段があった。
どうして、こんなところに居るのだろう。
そうだ、怖くて、恐くて、逃げてきたのだ。
踏み出した足に力が入らない。
スローモーションのように体が落ちていく。
コシマエ、と
坊や、と
呼ぶ声が遠いところで聞こえてきた。
あぁ、イタイ。
なにが、?
どうして、
ココロが
ズキズキと疼くように。
抉られたように。
痛い。
イタイ、怖い、恐い、恐い――――
おれは、何が恐いのだろう。
なにもわからないのに
この恐怖心だけは
オレハ、――――――――コワイ―――――
コシマエ、そんな声が聴こえてふと、顔を上げた。
降ってくる、という表現が近いのだろうか、小さな体が浮かんでいた。
「坊やっ!!」
不二と白石、二人とならんでコートに向かい歩いていると、コーチの一人に呼ばれた。取り敢えず二人には先にコートにいってもらい、俺はそのコーチと話をする。特に大切な、話ではなかったが、ここでは大人しく聞いておくに限る。
話がやっと終わり、二人の後を追いコートへ向かい歩いていると、上から聞こえた声。
咄嗟に出した手に、衝撃がくる。
あまりにも急なことに対処しきれなかったのか、受け止めきれずに勢い余ってそのまま尻餅をついてしまう。
だが、何とか彼の頭が地面に打ち付けられるのは阻止できた。そう思って、覗いた坊やの顔。
その蒼白さに、こちらも血の気が引く。
名前を呼んだところで、いつものあのアーモンドアイと目は合わない。
「コシマエ。」
ハッ、と顔を上げると驚きに顔を引き攣らせた遠山くんの姿。そこにいつもの笑顔はなく、唇を震わせ、両目を見開いている。
「…、大丈夫だ。意識を失っているだけ。俺は、一応医務室に連れていくから、君はこの事をコーチや坊やの学校の人達に知らせてほしい。」
坊やから呼吸音が聴こえたことに自分自身も大分安心しながら目の前にいる子に落ち着けるように促す。
わかったわ、そう言って立ち去っていく彼を見送って、できる限り衝撃を与えないように立ち上がった。
自分に力があるからだとそのせいだと思いたいほどそのからだは軽く、頼りげのないものだった。
ワイが押したねん、…わざとやないで!
追いかけとってやっと追い付いたのがあそこで。名前を呼びながら肩を叩いたら、そしたら。
コシマエの体が落ちていったんや。
今にも泣きそうな声音で、遠山が少しずつ文を作っていく。
「…、幸村本当に助かった。ありがとう。」
「気にしなくていいよ。…俺も受け止め切れなかったんだ。」
「…いや、右足の捻挫だけで済んだんだ。本当にありがとう。」
遠山の話を聞いて、白石が怒っているあいだに不二は幸村に頭を下げる。
幸村は少し寂しそうな顔をしながら顔をあげて、と不二にいうのだった。
さて練習を始めようか、そんな雰囲気をぶち壊す声がコートに響く。
不二と白石が振り返ると、随分と慌てた遠山の姿。
遠山が呼んでいるのは、白石ではなくどちらかというと不二の方。二人は顔を見合わせてから、白石が声をかける。どうしたんや、と。
だが、返ってきた言葉に二人は、コートは静まり返ったのだった。
「ほんま、堪忍な。」
そう謝る白石の隣で遠山はとうとうポロッと涙を溢した。
理由を聴いてみれば、元気がなかったからなどと今回の行動が空回りゆえだということがわかる。
「…、越前が起きたらもう一度それをいってあげて。判断できるのは僕じゃないから。」
笑顔のにーちゃんほんまにごめんなさい、遠山が頭を下げると不二はいつも通りの笑顔で静かに言葉を吐き出したのだった。
「…ここは、不二に任せて俺たちはコートに戻ろうか」
しばらく、越前のようすを見ていた幸村だったがおもむろに立ち上がり白石と遠山に立つように促す。
「…、お昼休みにまたこよ、な?」
渋々ながらも立ち上がった遠山を白石が誘導しながら医務室の出入り口までいくと、再び不二に対して謝罪と頼むわ、と言って、出てくいく。
「幸村?」
そろそろ一度おいとましようか、そう言い出した張本人の幸村が出ていかないことを訝しげに思い扉の方を向いていた体を戻すと幸村は越前の頭を撫でていた。
「…、」
名前を呼んだところで返ってきたのは小さな反応だけで言葉が返ってくる様子はない。
座っている椅子が音を鳴らさないようにそっと立ち上がり、幸村の横にたったことで越前の異変に不二はやっと気付いた。
閉じられている瞳を更に力強く――皺が出来るほど――閉じ、その小さな口から漏れる息は随分と粗いものだった。そして、時々呻き声まで届く。
魘されてる、その小さな呟きに不二は動揺を隠せない。
今まで、越前の色んな姿、表情を見てきたけれどこんな苦しげな顔はまだ、見たことは無かった。
――ぶ、ちょう――
――ふじ、センパ、イ――
パクパクと口を数回動かした後に漏れた声に不二と幸村は顔を見合わせて小さく笑った。
「…俺も行くね。ついでに手塚に知らせることにするよ。」
――それが、ボウヤと手塚のためになる。
その言葉を否定はせずに不二は頼むよと言うだけにとどめた。
その間も越前は、色々な人の名前を呼ぶ。
青学の先輩を呼び終えると、立海の最近親しくなった人達。立海のつぎは氷帝、四天宝寺、と。
その姿は、まるで
まるで、なにかをもとめるかのように。
その姿を見て
不二は無性に、悲しくなった。