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目立ってはいけないので、平民が乗るような小さめの馬車を使う。早速みんなで乗り込むが、さすがに狭かった……。
シュヴァリエにはリュカ姿になってもらい、沙織の膝の上に乗せることにした。馬車が出発すると、シュヴァリエは居た堪れなくなったのか口を開く。
『サオリ様……。私は姿を消して、馬車の外におりますので。この状態は……』
影であるシュヴァリエが、王族に囲まれて沙織に抱っこされているこの状況。何とも気まずい……そう言いたいのだろう。
「え? ダメよ、シュヴァリエ。みんなで、作戦会議をしておかないとですもの! アレクサンドル様、ステファン様、何も問題無いですよね?」
当たり前だと言わんばかりの問いかけに、アレクサンドルもステファンも苦笑いするしかない。ちなみに、この先誰に聞かれるか分からないので、『殿下』呼びは無しだ。
「大丈夫です。シュヴァリエの意見も聞きたいので」
「兄上が宜しければ、僕に異存はありません」
「ほらねっ!」と、シュヴァリエリュカを抱き上げると、沙織は正面からリュカの可愛いらしい顔を見て、にっこりと笑いかけた。
『……………』
ステファンとアレクサンドルは、シュヴァリエに同情の目を向けた。
「それで、どうすれば一番効率が良いかしら?」
沙織が尋ねると、ステファンが答えた。
「先ずは、その男とスフィアが一緒にいる所を狙いましょう。出来れば、幼い獣人達がやって来る前に」
「そうですね。子供達が人質に取られたら厄介です。ただ、スフィアの能力は分かっていますが……男の力が分かりません。魔力持ちかもしれませんし、武器や変な薬をやっている可能性もあります。スフィアが、利用できない男と一緒にいる筈がありませんから……」
と、アレクサンドルは顔を顰めた。
スフィアを思い出すだけで、嫌悪感に襲われているようだ。
「んー。じゃあ、私とシュヴァリエで二人を倒して捕まえましょう! ステファン様、二人を拘束できる魔法はあるかしら?」
「ありますね。結界と似ていますが、魔力で作る檻です。一度中へ入れてしまえば抜け出せません。相当、魔力が強くない限り。シュヴァリエも檻は作れます」
スフィア達を捕まえたら、そのままステファンが、転移陣で城の牢に送る。牢の方の転移陣は、もう敷いてあるそうだ。
「なるほど! そうしたら、アレクサンドル様は村で獣人の子供達を集めておいてください。私達が戦っている間は、ステファン様に結界で守っていただきましょう!」
「ちょっ、ちょっと待って下さい! いくら光の乙女と言えども、女性のサオリ様では危ないです。シュヴァリエと……僕にやらせてください!」
慌ててアレクサンドルは、反論する。
「え? でも……多分ですが、アレクサンドル様より私の方が強いかと。シュヴァリエに訓練してもらってますし……」
チラッと、ステファンに視線を送る。
「確かに。(更に呆れる程)サオリ様は強くなられました。ですが――。アレクサンドル自身が、スフィア達を捕らえる必要があるかもしれませんね」
(あ、そうか! アレクサンドルが、ケジメをつけなきゃいけないのね)
「そうね! では、私が超頑丈な結界を張ります」
『……あれ以上ですか? 普通でよろしいかと』
「そうかしら? 子供を守るのですもの、頑張ります!」
はあぁぁ……と、ステファンとシュヴァリエは、揃って大きな溜息を吐く。
アレクサンドルは全く意味が分からずに、きょとんとしていた。
◇◇◇
――目的地に近づいてきた。
国境門の手前で止まると、その場で馬車を降りた。ここからは、目立たないよう徒歩にする。
アレクサンドルは、獣人の子供達を怖がらせない為に、見知ったアレク姿になった。反対にステファンは、本来の姿に戻る。
髪色は違うが、まるでアレクサンドルが、アレクという人物を連れているよう見える。
シュヴァリエは、リュカの姿から人に戻ると気配を消した。
国王に用意してもらった通行許可証を見せ、国境門をくぐると先ずは獣人の村へ向かう。
沙織は、その村の状態に息を呑んだ。
ボロボロの家ばかりで、臭いも酷い。彼方此方が壊されてる。どす黒くなった古い血痕も沢山あり、見るに堪えないものだった。
「酷い……」
込み上げるものがあり、思わず口を覆う。
「……ああ。以前、大人の獣人達が一斉に奴隷として連れて行かれたらしい。その時の跡だ」
アレクサンドルではなく、アレクとして答える。
何軒かの家を通り過ぎると、アレクサンドルは足を止めた。やはり、ボロボロの無惨な家だ。ノックをすると、アレクサンドルは家の扉を開ける。
「ここが、アリスとレオの家だ……」
家の中はシ――ン……としている。
アレクサンドルの顔が強張った。
「アリス! レオ! 俺だ、アレクだ!」
大声で呼びかけるが、返事は無い。
「おかしい……。この時間なら二人はいる筈なんだ」
アレクサンドルは、嫌な予感がした。
顔を見合わせると互いに頷く。部屋の中に入り、手分けして二人を探した。
――すると。
カタッと、どこかで物音がした。その音のした方へ急いで向かう。
そこは、アレクが泊まっていたという部屋。息を顰めながら、慎重に中に入ると――部屋の隅で膝を抱えて震えている、小さな獣人が居た。
「レオ! 俺だ、アレクだ! 大丈夫かっ」
真っ青で耳を伏せ、アレクが渡した袋を抱え泣いているレオだった。
「……う、うわぁぁん!! アレク……アレク……」
レオは、アレクサンドルに抱きついて泣きじゃくる。
「レオ、しっかりしろ! アリスはどうした?」
「ヒ……ッ、ヒック……お、お姉ちゃんは。今日、あの葉っぱの収穫だったんだ。ぼく……とちゅうで虫見つけたから、サボっちゃったんだ……。気がついたら、みんなつかまってた……」
「っ!! クソッ……収穫前に間に合わなかったか」
泣きながら話すレオが言いたい事は、だいたい理解できた。
要は、今日が最悪の収穫日だったのだ。
途中から虫を追いかけてサボったレオは、仲間が捕まったのを見た。
そして、怖くなって逃げ帰ったのだ。
アレクサンドルが渡したと言う袋を持って、逃げなくてはと思いつつ、アリスが心配で動けなかったのだろう。
沙織は、前に出て膝をつく。
「レオ、はじめまして。私はサオリよ。それは、どのくらい前のこと?」
できる限り優しく、レオを怖がらせないように話しかけた。
「いつもより、時間かかっちゃってたから……。ちょっと前……?」
「教えてくれて、ありがとう」
レオの頭を撫でて、立ち上がる。
「きっと間に合うわ! 急ぎましょう!!」
――作戦変更で、全員で畑へ向った。