テラーノベル
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放課後、いつものように由奈のガードをすり抜けるという「奇跡」に近い力業で、茜は怜也の腕を強引に引き寄せていました。「ねぇねぇ怜也きゅん! 今日はあーしのお家(ち)で、マジでエモい激辛お菓子パーティーしよーよ! やばくなーい?」
「え、えぇっ!? 茜さんの家!? いや、それは流石にハードルが高すぎるっていうか……心の準備が……」
怜也は中学時代のトラウマを呼び起こし、全身から変な汗を噴き出していました。女子の家。それは彼にとって「絶対に生きて帰れない魔王の城」のような場所です。しかし、茜の「ちょーお願い!」というキラキラした瞳の攻撃に勝てるはずもなく、気づけば彼は見たこともないお洒落なマンションの一室の前に立っていました。
「お邪魔しまーす……」
震える声で玄関をくぐる怜也。家の中は茜らしいポップな雑貨で溢れていましたが、どこか大人の品も感じられます。
「おーい、ママ! 帰ったよー!」
茜がリビングに向かって叫ぶと、キッチンの方から「あーくん、おかえり」という軽やかな声が返ってきました。そこに姿を現した女性を見て、怜也は自分の目が壊れたのかと思いました。
「あら? その子、誰?」
そこに立っていたのは、緩く巻いた茶髪にエプロン姿の、信じられないほど綺麗な女性でした。
肌はツヤツヤで、スタイルも抜群。40代とは到底思えない、下手をすれば茜の姉……いや、同級生と言われても信じてしまいそうな若々しさです。
「ママ、紹介するね! この人が、あーしの彼ピッピだよ!」
茜は怜也の肩を抱き寄せ、満面の笑みでピースサインを作りました。
「…………えっ!? ち、ちが……っ!!」
怜也の心臓が爆発しました。
否定しようにも、口がパクパクと金魚のように動くだけで言葉になりません。
「あら、彼ピッピ? 茜が言ってた『最高に優しくて、ちょっとだけ臆病な王子様』って、この子のことだったの?」
絵美と呼ばれた茜の母は、悪戯っぽく目を細めると、怜也の顔をじっくりと覗き込んできました。
「はじめまして。茜の母の絵美です。……ふふ、本当に茜が言ってた通り、守ってあげたくなるような可愛いお顔ね」
「あ、あ、あの! 僕は長島怜也と言いまして……その、彼氏だなんてそんな……ただのクラスメイトで……!」
必死に否定する怜也でしたが、茜は「もー、怜也きゅん照れすぎー! ちょーウケるんだけどー!」とさらに密着してきます。
「絵美ママ、見てよ! 怜也きゅん、あーしが家に誘っただけで心臓バクバク言わせてるんだよ? やばくなーい?」
「やばいよ! 色んな意味でやばいよ!」
「ふふふ。いいじゃない、若くて。ねぇ、怜也くん。茜はこう見えて結構一途なのよ? 私も昔は茜みたいにグイグイ行って、今のパパを落としたんだから」
絵美はそう言って、ウインクをして見せました。その親子そっくりの「無自覚な攻撃力」に、怜也のHPはすでにゼロに近い状態です。
「さあ、立ち話も何だし、座って。今日は茜が好きな『デス・デス・激辛チップス』用意してあるから。……怜也くんも、一緒に地獄を見ていく?」
「地獄!? い、いや、あの、お気持ちだけ……」
「ダメだよ怜也きゅん! あーしのママが用意してくれたんだから、一緒にエモい汗かこうよー!」
茜にソファへ押し倒され、絵美ににこやかに見守られ……。
怜也は思いました。この親子の遺伝子は、間違いなく「男を翻弄する」ために特化しているのだと。
「(助けて由奈……! ここ、女子が二人もいる! しかもどっちも最強クラスだよおおお!)」
心の中で幼なじみの名前を叫ぶ怜也。しかしその時、怜也のスマホには由奈から**「今、どこにいるのよ。まさか鶴森の家とか言わないわよね? 殺すわよ」**という、さらに恐ろしい通知が届くのでした。