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『触れない 恋人 心理』
とても他人様には見せられない言葉が、また検索欄に積もっていく。
表示されたブラウザを見てため息を吐いた。
何度言葉を変えても行き着く先は同じらしい。
『自分の愛情表現が足りない』、『信頼関係が築けていない』。
凹むような文章たちの下に佇む『破局』の2文字を見つけ、思わずタブを閉じた。
僕が自身のスマホに危険なフィルターバブルをかけてまで悩んでいる理由はただひとつ。
カナダさんが、触れてくれないのだ。
そう言うと誤解を招きそうだが、指一本触れたことのないお付き合いをしているわけではない。
手も繋いだし、唇だって重ねた。
しかしそれ以上、『触れ合い』に関する進展がないのだ。
僕だって立派な成人男性だし、彼や僕の体に不具合があるわけでもない。
それに時折、僕を見つめる彼の瞳にただならぬ熱が込められていることにも気付いている。
ただ、その熱は彼の双貌を潤ませるだけにとどまり、お互いを焦がすことはない。
「……はぁ………。」
机に突っ伏し、小さく呻き声を漏らした。
ぎゅっと強く目を瞑る。
やはり、腹を括るしかないようだ。
***
夏の夜は静かに、しかし刻一刻と耽けていく。
気の短い夏の星に急かされるように、喉奥でぐるぐる言葉が回る。
何度も声を出しかけては、布団を固く握りしめる。
「……カナダさん。」
振り向いたカナダさんと視線がぶつかり、まっすぐな瞳に肩がすくんだ。
手のひらに汗が浮かんでいる。よく効いた冷房でさえ、僕の緊張を拭うのは忍びなかったようだ。
意を決して、口を開く。
「今夜……その…一緒に、寝ませんか。」
一瞬、時が止まったかのような静寂が流れた。
カナダさんが何も言わず、こちらを見つめてくる。
しかし僕はその瞳が徐々に驚きから色を変えていくのを見逃さなかった。
いつも通りの穏やかな笑みの下に張り詰めた、伸び切った糸のように鋭利な感情。
「…本気………?」
低く囁くような声が耳朶を打つ。
いつの間にか、彼は僕の顔を覗き込める位置に来ていた。
熱を持つ頭を肯定のために動かし、震える手で布団をぎゅっと掴み直した。
「…触ってください。…不安、なんです……。」
カナダさんの影が僕の膝の上に落ちる。
「…ごめん。……僕、ほんとにずっとずっと、我慢してたんだ。」
おずおずと畳が軋む。
その音すらも、鼓動のように聞こえた。
***
布団の中、僕は身を硬くして彼のことを見上げていた。
ここから先のプランなんてまるでない。いや、いらない。
ただの温もりのはずの彼の体温が体に移り、血管が熱異常を起こす。
「日本………震えてる。」
掠れた声でカナダさんが僕の手をそっと撫でた。
「…怖いんじゃないよね……?僕のこと、嫌なわけじゃないんだよね……?」
不安げに揺れる両目の琥珀を見つめ、ゆっくりと首を振る。
そして、勇気を振り絞って彼の体に腕を回した。
「……カナダさんがいいんです。あなたじゃなきゃ、嫌だ。」
返事のようにキスを落とされた。
ほんのわずかな空白の後、もう一度。
今度は少し長く、熱く、深く。
布団の中だからか、肌と肌のぶつかる音がこもりがちに聞こえる。
星の瞬きのように静かな、それでも確かに感情を示す彼の声。
「……入って、いい?」
「…来て……。」
僕の存在を確かめるように何度も肌を撫でる指先。
それが頬から首筋に、肩に、鎖骨に、ゆっくり降りていく。
「僕、日本のことが好き。…ほんと、どうしようもないくらい。」
下へ下へと這っていく手を受け止めるように、黙ってまぶたを閉じた。
「日本、触ってもいいかな……。」
「…もう触れてるでしょう?」
小さな反論。
しかし声は震えていた。
カナダさんが笑いながら僕を抱き寄せた。
布団の中、今までの時間を急速に埋めるように荒い息で互いの愛を伝え合う。
求めることと愛することは違う、と人は言う。
しかし、今だけはそれらがぴったり重なっていた。
まるで、僕らみたいに。
(終)
コメント
10件
美味しいです…… 映画化していいでしょこれ😭
やばばばばば!!念願の加日すぎます!なんですか?今日が私の命日ってことですか?そうですよね?どっちも可愛すぎます💕🤦♀️🤦♀️🤦♀️🤦♀️🤦♀️🤦♀️🤦♀️🤦♀️🤦♀️🤦♀️🤦♀️
うぐっっ美味しい… …これ続きとかないですかね、??