テラーノベル
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※#07よりも余裕でグロいです
◇ ◇ ◇
じっとりとした、湿った空気の洞窟を進む4人。時折、ぽたりとどこかから雫が落ちる音が聞こえる。地面を見ると、所々に小さな水たまりも出来ている。静かな洞窟には、4人の足音と呼吸音、そして雫の落ちていく音しか聞こえなかった。
少しの間進むと、暗闇の中、地面に何かがこびりついているのが見えた。胡朱はしゃがみ込み、そのこびりついているものが何なのかを確認する。3人は、突然しゃがみ込んだ胡朱が何をしているのか見ていた。
「これは……」
「何? 何か見つけたの?」
こんな暗闇で何かを見つけたと言われ、少し不安そうな声を上げるデイジー。胡朱は立ち上がると、地面を指さしながら言った。
「血です。引きずった跡もありますし、まだこの血痕がここに出来てからそこまで経っていません。ですが、こんなに大量の出血となるともう……」
そこまで言い、胡朱は口を噤んだ。どうなるのか分かった3人は、これ以上そのことについて触れなかった。
血は胡朱が見つけた箇所で一気に広がっており、そこから洞窟のずっと先へと続いている。生きている可能性は低いが、血痕がまだ新しいものだということからも、この先に行けばその出血している人が見つかるだろう。そして、その人と一緒に何かも見つかるかもしれない。出血した人が出来るだけましな状態で見つかることを祈って、4人は歩みを進めた。
◇ ◇ ◇
大きな個体が居る戦場では、相変わらず攻防が続いていた。幸斗とレグで1体目が引き連れている小さな個体は出来るだけ倒した──はずなのだが、どうにも1体目を倒せそうにはなかった。
ふと手を止め、アルバートは考えを巡らせる。1体目を倒せないということは、まだ小さな個体が居るのだろうか。この村で全ての個体を見つけるのは難しいことなのでは?
──そもそも前提が間違っている? 小さな個体を全て倒すだけでは大きな個体を倒すことは出来ないのではないか?
手を止めてしまったのがいけなかったのか、その隙に大きな個体がアルバートへと攻撃を仕掛けてきた。アルバートはギリギリのところで躱した。しかし、次々と攻撃の手が伸びてくる。その手を翠が攻撃すると、大きな個体は大人しくその手を引っ込めた。
「遠距離担当なら、あまり大きな個体に近付かない方がいいですよ。……というか、ナイフがあるんですからそれを使ってください」
「これのことかな? うーん、いや、落し物だからなぁ。……まぁ、いざとなったらちゃんと使うけど」
「自分の命も危ういんですから、ちゃんとしてください」
ぴしゃりとそう言い、翠は怪物へと向き直る。若いのにちゃんとしてるな、と呟きながらもアルバートは怪物から距離を取って弓を構えた。
一方、幸斗とレグは小さな個体を倒すという行為自体に苦戦してはいなかった。慣れがあるのだろう。しかし、どれほど倒しても先程から様子の変わらない大きな個体を見て、幸斗はそれを怪訝に思っていた。
「……おかしい」
「?」
その時。突然、大きな個体は己の腹を爪で切り裂いた。肉の裂け目から覗くのは、人間の血肉のような赤──ではなく、怪物の皮膚よりも少し暗い灰色の肉だった。傷口からは、人間で言う血と思われる黒い液体が流れ出ていた。一同が意図が分からずに困惑していると──。
裂け目からぬるりと、白く細長い骨と皮膚だけの腕が伸びてきた。その腕は、大きな手で小さな個体を掴んだ。
そして、小さな個体を握りつぶした。
融合怪物の血と思われる黒い液体が、雨のようにその場に降り注ぐ。黒い液体に混じり、時折白い肉片が飛び散っているのも分かる。それが一体何なのかは、言わずとも分かるだろう。
「はぁ……!? おい、何だよあれ!」
「うわぁ……」
幸斗は驚きで声を上げ、アルバートはあまりの光景に口に手をあてがいながら声を漏らす。レグと翠も、口に出さずとも驚いているというのが見て分かった。
小さな個体を握り潰した謎の腕は、いつの間にか大きな個体の腹の中へと戻っており、黒い液体と肉片が辺りに散らばっているという点以外では、先程の腕が出てきたという形跡は残っていない。そもそも、先程の腕は一体誰の何なのか。融合怪物の腕と似ていたが、その正体は……。疑問は募るばかりだった。
それでも戦いをやめるわけにはいかない。握りつぶされた融合怪物の肉片が消えたのを見て、4人は再び武器を構えて攻撃をする。その間も、融合怪物に対する疑問が消えることはない。
すると、先程の腕が再び出てきた。それを見て4人は身構える。腕が標的にしたのは、やはり小さな個体のようで、その腕で捕まえるとまたも握り潰した。
「あれは一体……」
困惑する一同。……その後ろに、球状の謎の物体が近付いていた。物体はふよふよと宙を漂っている。そして、物体はアルバートの背後に近づいた。謎の物体が背後に近付くと、その物体は突然音声を発した。それは、人の声のようだった。
『私だよ。私が操作したんだ』
「!? うわっ、誰だ君……!?」
『え〜、君なら分かると思ったのだけれど……。まぁいいや』
謎の物体は4人の目の前に現れる。謎の力で宙を漂い、顔……と思われるディスプレイはにこにことした笑顔になっている。……これは誰だろう。4人は全員似たような感想を抱いた。何せ、目の前に突然機械のような謎の物体が現れたのだ。そう思うのも無理はないだろう。
4人が謎の物体に意識を向けていると、大きい個体が4人に向けて攻撃を仕掛けてきた。4人がしまった、と思った時。謎の物体からシールドが展開され、4人を守った。いつまで経っても来なかった衝撃に不信感を抱いた4人はそれを見て驚いた。
「……お前は誰だ」
幸斗が、眉をひそめながら謎の物体に向かってそう問いかけた。突如現れた謎の物体を見て、やはり不信感を抱いているのだろう。それに対して謎の物体は、呑気そうに周囲をふよふよと漂いながら幸斗からの問いに答えた。
『私は君達の助っ人だよ。現実に戻る手助けをするための、ね』
『ひとまずこの状況をどうにかしよう。自己紹介はその後でもいいかな?』
謎の物体はそう言う。ディスプレイは変化し、『ガンバレ』と表示されている。……もしかして、ふざけているのだろうか。誰もがそう思いながら謎の物体を見ていた。
しかし、そうこうしていても仕方がないなと思ったアルバートは融合怪物達に向き直る。弓を構えながら、大きい個体に向けて焦点を定める。弓を引き絞りながら、あの謎の物体からかけられたとある言葉を、頭の中で反芻させていた。
(君なら分かると思った、か……)
そう言われ、アルバートの頭に思い浮かんだのは1人の同期の男。アルバートと同じ探偵で、これまで共にいくつもの仕事をこなしてきた相棒でもある人物。……まさか、彼が? そんなことを考えながら、アルバートは矢を放った。
◇ ◇ ◇
ずっと奥を進む。どこまで広がっているか分からない、そんな洞窟を進んでいる。あの血を見つけてからまだ数分しか経っていないようにも思えたし、数時間経っているようにも思えた。しかし、血が広がっていたあの光景が、今でも4人の脳裏に焼き付いている。
そんな時、胡朱はふと目の前が明るくなるような感覚がして前を見た。そう、出口が見えていたのだ。その先がどうなっているのか分からないが、出口が見えたという事実に一同は安堵した。それは胡朱も例外ではなく、力が抜けるような感覚がした。しかし、だからといって安心しきってはいけない。洞窟の出口を前に4人は立ち止まり、顔を見合せた。
「どうしましょうか……」
最初に口を開いたのは志音だった。志音は、振り返って3人の顔を見ながらそう言った。
4人に与えられた選択肢は2つ。洞窟から出るか、危険を考慮して、洞窟を引き返し外に戻るか。危険を考慮して引き返すとは言っても、引き返している最中にどんなことがあるか、はたまたどんな危険が潜んでいるのかは誰にも分からない。だから……と胡朱はそこまで考えたが、胡朱がそれを伝えるよりも先にアリスが発言した。
「せっかくここまで来たので すから、今更引き返すなんて選択肢はありませんわ! 進みましょう!」
「そうですよね!」と振り返りながら言うアリス。胡朱とデイジーの2人も頷いてそれに同意した。洞窟にどんな危険が潜んでいるのか分からないというのは、その場に居る誰もが理解していた。
かくして、4人は目の前にある洞窟の出口に進むことを決めた。年上だから、と言って志音が先陣を切ることになった。その後ろに、胡朱、デイジー、アリスと並んだ。そして、先頭の志音が足を踏み出した。
◇ ◇ ◇
洞窟から1歩踏み出すと、そこは開けた空洞になっていた。実際にはここも洞窟の1部なのだろう。地面には地底湖があり、水は澄んでいて底まで見えそうだった。やはり、ここでも時折雫の滴る音が聞こえてくる。……しかし、ここは先程までの洞窟とは打って変わって、幻想的な光景だった。そんな光景に、4人は釘付けになっていた。
だが、捜査しなくてはならないことがある。そう、先程見つけた血痕のことだ。あの血痕は何が原因で誰が出したものなのか。それを解明するために、4人は長い洞窟を進んできたのだ。
「融合怪物は……近辺には居ないように見えますね。ですが、ここ以外に道はなかったはず……」
胡朱がぽつりと呟く。それに反応するようにデイジーは頷き、口を開いた。その表情からも、今の状況を疑問に思っているということが伝わってきた。
「そうだよね。でもどうする? 道がないならここしか調査できないはず。だとしたら、融合怪物が居るとしてもここだけだと思うんだけど……」
「そうですね、私は──」
アリスが何かを言いかけた時、突然地面が大きく揺らいだ。地震が発生したのだろうか。誰もがそんなことを考えていた。揺れは段々と大きくなり、遂には立っていられなくなるほどになった。揺れが収まり始めた時、胡朱が声を上げた。有り得ないものを見るかのような目をしながら、震える指先で何かを示している。3人が、それにつられるようにして胡朱が示している先を見た。──そこには、おぞましい姿をした融合怪物が居た。
コメント
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最近孤高を書いていて分かったこと 展開はぐだぐだだし戦闘シーンの描写は難しいで大変 書くのは楽しいのですが、キャラクターの良さを最大限に出して書ききれている感がまっっったくしません