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私は宗親さんとのいわゆる〝大人の営み〟についてサラッと話すと、「そう言えばほたるの方はどうなの?」
半ば照れ隠しに話題を変えた。
でも聞いてみたかったのは事実。
だって私、Misokaのオーナー明智さんの、ほたるへの恋心を知ってしまったから。
大好きなお店のオーナーさんだし、応援したい気持ちは目一杯あるけれど、そこを聞いてからじゃないと無責任にイケイケ〜!って言えないよねって思って。
「うーん。私? 私はねぇ〜、ちょっとだけ気になる人がいる……かなぁ?」
ほたるがフフッとはにかんだように笑うのを見て、これは〝ちょっと〟じゃなくて〝かなり〟好きだなって思って。
「え? 誰、誰っ? 職場の関係の人?」
だとしたら私は知らない人だから、明智さんじゃないことになるなって、ちょっぴり遠回しのズルイ探り。
「まさかぁ〜。うち、スタッフ女性ばっかだよ。お客さんも女性が殆どだし……仕事場で恋心とか無い無いっ」
そこでアイスコーヒーをチューッと吸い上げるほたるを見て、(わ〜、色っぽい!)って思ってしまった。
私もほたるに倣うみたいに氷が溶けて薄まりかけたカフェラテをカラカラかき回してふた口ほど吸い上げてみたけれど、ほたるみたいに色っぽく唇をすぼめられた自信はない。
ほたるがストローについた口紅を指先で軽く拭うのを見て、私も慌てて真似をして。
だけどしっとりした雰囲気でそれをこなしたほたると違って、私のはバタバタした感じになる。
(宗親さんはこんな私のどこがそんなに好きなんだろう)
ふと、そんな不毛なことを考えてしまった。
Misokaで私を見染めたなら……ほたるのことだって目に入ったはずなのに。
どうして私でいいって思ってくださったのかな。
宗親さんに話したらきっと「春凪がいいんです」って溜め息をつかれちゃう。
でもそう言うやりとりも含めて私、何だか未だに慣れないの。
「あ、春凪。いま、彼氏のこと考えたでしょう?」
途端ほたるにクスッと笑われて、私はドキッ!とさせられる。
「えっ、な、何で分かっ……」
恥ずかしくてワタワタする私に、ほたるが「だっていまの春凪、すっごく憂いを帯びてて綺麗だったから」とか。
「嘘……」
「憂い」も「綺麗」も私とは縁遠い対局の言葉に思えてしまう。
「バカだなぁ〜。春凪はハムスターみたいにチョコマカしてて見ていて飽きないじゃない? それなのに時々びっくりするぐらい〝女〟だなぁって表情するのよ? そこがすっごくギャップ萌えなの。――気付いてないの?」
前半はともかく後半は半信半疑です。
色気が服を着て歩いているようなほたるの言葉に、私はソワソワと落ち着かない。
「ちょっとつつくとそんな風に目を白黒させて慌てるところとか……放っておけないって思っちゃうんだけどな? ほら、春凪の婚約者の彼だってきっと、春凪のそう言うところにやられちゃったんじゃない?」
「や、やられ……っ⁉︎」
(わ、私はアサシンか何かですか⁉︎)
照れを誤魔化すため、茶化すみたいに思ったけれど、ちゃんと分かってる。それが「殺られる」じゃないことぐらい。
「わ、私にとってはほたるの方がっ」
オロオロしながら話の矛先を変えようと頑張る私に、「だって私も恋してるから」って、ほたるがこともなげに言うの。
「恋? ……ってさっきの?」
「うん」
さらりと頷かれて、私はドキドキしてしまう。
「ね、その人ってどんな人?」
ほたる、こんなに綺麗なのに在学中から浮いた話が一度もなかったから凄く気になってしまった。
「う〜ん。大人の男性……かな。私達より大分年上だと思うし」
言ってほぅっと溜め息をつくと、ほたるが私をじっと見つめてくる。
「ねぇ春凪。年上の彼氏ってやっぱり同年代と違って大人?」
その〝同年代〟が誰を指しているのか分からない私じゃない。
あの、私をさんざんこき下ろした最悪男のことだ。
「うん。すっごくすっごく大人っ、だと思う……」
私が長年抱えてきた陥没乳首をいとも簡単に絡め取って「そんなところも含めて自分のこと、好きかも」って思わせてくださる程度には大人です。
時々恥ずかしくなるぐらい子供っぽいところもあるけれどっ。
「それに……私がコンプレックスだと思っていたことを好きになってもいいかもって思わせてくれる……すごい人……かも」
「そっか〜。康平とは大違いじゃん! アイツ最低だったもんね。――いいなぁ、やっぱり。私ね、こう見えてもその人にもう三年くらい片想いしてるの」
「三年も……⁉︎」
私たちは今年の誕生日で二三になったところ。
背が低くて童顔だから幼く見られがちだけど、四月二十日生まれの私は、同学年のみんなよりいち早く歳を重ねる。
二十歳になった大学二年生の時は、夏生まれのほたるより先に成人したことが嬉しくて、「私、ほたるより先にお酒が解禁になっちゃったよぉー!」と、やたらはしゃいだっけ。
そのくせ、結局ほたるが自分の年齢に追いついた七月二十八日に、前から行ってみたいと二人で目星を付けていたバー『Misoka』へ行くまで、お酒デビューはお預けにしていた私だ。
「ほたるの二十歳のお祝い、すっごく楽しかったよねー♥」
生まれて初めて飲むお酒にほろ酔い気分になった私が、明智さんに「今日は友人の誕生日なんですぅ〜。二人で初めてバーデビューを果たしましたぁーっ!」と話したら、「何歳になったの?」って聞かれて。
「そうそう。春凪の言葉を聞いたマスターが、サプライズでケーキを用意してくれて……すっごく驚かされたよね」