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私の言葉に、ほたるが凄く可愛い顔をしてふんわり笑う。
あの時のケーキ、マスターからのプレゼントってことで無料だったっけ。
マスターの、「これからも是非『Misoka』を贔屓にしてね」ってウインクと、大人の魅力バリバリの笑顔にほだされて、私とほたるはまんまとMisokaの常連客になったの。
「あれからもう三年かぁ〜」
ほうっと溜め息混じりにこぼしたら「うん、三年だね」ってほたるがしみじみとつぶやいた。
(そっか、そっか。三年かぁ〜)
ふわりと頭の中でそこまで考えて、私は(ん⁉︎ もしかして)と思って。
「ねぇ、ほたる。違ってたらごめんね」
一応そう断りを入れて、恐る恐る聞いてみた。
「もしかして三年くらい片想いしてるほたるの好きな人って……。えっと、その……Misokaのオーナーさんだったり……する?」
嘘の三八って言葉があるけれど、この三年はそういうのじゃない気がする。
私は手元のカフェラテをゴクッと飲み込むのと一緒に、生唾を飲み込んだ。
「……うん」
存外何でもないことみたいにあっさり認められて、私は瞳を見開いた。
だから、私が宗親さんとのことでバタバタしていて行けなかった間も、ほたるは〝私を探す〟という大義名分でMisokaに顔を出してたんだって今更のように気が付いた。
もちろん、私のことを気にしてくれたって言葉は嘘じゃないと思う。
だけど、そのためだけならもっと別のところ――例えば私の勤め先とか――に顔を出す方が効率がいいはずだもん。
ほたるとは、私がコウちゃんにフラれて傷心だったのを慰めてもらうのと一緒に、お互いの就職祝いも兼ねてMisokaで飲んだんだもの。
私、ほたるの就職先を知っているし、ほたるだってそう。
なのにそこじゃなくてMisokaに出向くことを選んだ理由は、きっと単純にマスターの顔を見たかったからなんだろうな。
(もぉ、ほたるってば可愛い♡)
そう思うのと同時。
私はどうしても聞かずにはいられない。
「でも……な、んで急に、打ち明けてくれる気になったの?」
と。
今まで三年間。
ほたるは私は愚か、他の誰にもその恋心を秘密にしてきたんだもん。
何でいきなり話してくれる気になったのかな?ってソワソワしてしまったの。
ほたるは、すっかり氷の溶けてしまったアイスコーヒーをゆっくりひとくち飲み込むと、「――織田さんと明智さん、お友達なんだよね?」とつぶやいた。
私はほたるのその言葉を聞いて、ほたるもいい加減動きのないその片想いに、何らかの動きを求めているんだ、って思って。
でもそれは、明智さんも一緒だから……ちょっとどちらかの背中を押せば済む話だよね?って心の中でニンマリする。
「もぉ〜。ほたるってば水臭ぁ〜い! 何で話してくれなかったのよぅ。言ってくれたら私、めちゃめちゃ協力しまくったのにぃー!」
チュチューッとカフェラテを一気に吸い込んで喉に流し込むと、私は息巻いた。
「だって春凪、掴まらなかったじゃない」
「うっ」
それを言われると言い訳のしようもございません。
私はぐぬぬ……と言葉に詰まりながらも考える。
どうにかしてほたると明智さんの現状を打開出来ないかしら?って。
帰ったらそれとなく宗親さんにアドバイスを求めようかな?
腹黒策士の宗親さんだもの。
私より良い案を思いついて下さる気がするもの。
明智さんと宗親さんがご縁があることを示唆してきたってことは、ほたるだってきっと、宗親さんに期待してるんだよね?
「あの、ほたる」
「ん?」
「ほたるの恋心って……宗親さんに話しても平気……」
「いいよ? そこ、期待して春凪にも打ち明けたんだもの。――あ。でも! 明智さんご本人にバラすのは無しね? 恥ずかしいから……」
きっとバラしたら万事うまくいくはずなんだけどな?
そんなことを思いつつ。
そういえば明智さんの方は、ほたるへの気持ち、バラすの、どうなんだろう?
うー。
私の馬鹿!
もっと話を詰めておくべきだった!
そんなことを思っていたら、ほたるが小さく吐息を落として、「そういえば話は変わるんだけど……」ってつぶやくの。
(え? いい所なのに話、かえちゃうの?)
残念って気持ちを全面に出しながらほたるを見たら、「さっき、春凪の元カレの話が出たじゃない?」って、ほたるが声を低めてくる。
ん? 何でここで康平の話?
「……正直あんまり聞きたくないな」
ボソリとつぶやいたら「だよね」って苦笑するの。
でも、その上で「一応伝えておくね」ってキリッとした涼やかな目でじっと顔を見つめられた。
ほたるが、私が渋っているのを知っていてわざわざ言おうとしてるってことは、聞かなきゃダメな話なんだって思って。
私は観念してしぶしぶ頷いた。
「春凪と連絡が取れなくなってすぐくらいだったかな。アパートも引き払われてるし、もしかしたら春凪に会えないかな?ってMisokaに行ったんだけど……」
店の付近で、ほたるは偶然康平を見かけたらしい。
「アイツ、何かちょっと痩せててね」
まぁ、それはどうでも良いんだけど――。
そう付け加えながらもほたるは続けた。
「私に気付くなり勢いよく近づいてきて、『春凪は一緒じゃないのか⁉︎』って物凄い剣幕で聞いてきたの。私が首を振ったら舌打ちして……」
「え? 何で今更……」
言ったら「よくは分からないんだけど……春凪の実家のこと調べたって言ってた」とか。
どういうこと?
「何にしても何だか普通じゃない感じがしたから……気をつけて」
「うん、ありがとう」
ほたるの言葉に頷きながらも、私は心の中がザワザワした。
康平はうちの実家のことを調べて〝何を〟思いついたんだろう。