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#恋愛
水無月 京
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週の後半にもなると、豆さんや他のメンバーが明らかに疲れ始めていた。プロジェクトのメンバーから漏れ聞こえた話によると、クライアント側もなかなか曲者らしく、当初の契約を超える要求を始めているとか。
「そういうのってズバリ断るわけにはいかないんですか」
「ねー、それができればいいんだけど」
プロジェクトの主要メンバーを捕まえて無邪気に質問してみたが、返って来たのは当たり前に煮え切らない答えだった。
「こちらだって御用聞きじゃないから本来はフィーに見合う業務に限定すべきなんだけど。ただ、ここで少し安請け合いして今後に繋げたいと思う人たちもいるんですなぁ…」
「なるほど」
「考えるのは自由なんですけど、結局その決定によって業務量過多で倒れるのはこっちなんでね、困っちゃうわけです」
ありきたりな慰めにしか終始できず、ろくな知識も語彙力もない自分の無力感を噛み締めていれば、
「あ、大豆生田さんのことじゃないですよ。彼はむしろ現場を守ろうと必死に戦ってくれている側なので」
私の沈黙を勘違いさせてしまったのか、彼は慌ててフォローしてくれる。
「大豆生田さんは、マネージャークラスの業務でも巻き取ってくれてますから。このゴタゴタはできる限り彼1人で抑えて、現場は通常業務を回せるようにしてくれてます」
忙しいのにありがたいっすよね、と。
この彼もやっぱり疲労の色は消せていなくて、現状の過酷さを改めて伺い知る。
「すみません、引き留めて」
「いえいえ。最近限られた人間と限られた話題しか話がないんで気分転換になって助かります!」
最後まで笑顔を絶やさず、「じゃ!」と去っていく彼に幸多かれ。
私が祈ることで、ちょっとぐらい何かが変わればいいのに。
***
今日は、珍しく朝から雨が降り続く日だった。
連日の疲労もあいまって、このフロアにもどんよりとした雲が垂れ込めているような気もする。あと少しで連休を迎えるタイミングだけれども、豆さんを始め多くのメンバーは連休を楽しめる状況でないことは明らかで、それも余計に気が重くなる。
夕方、どうしても申請書類の詳細を確認したくて豆さんの時間をもらっている。最近は彼の時間を求める声がユニット内外から噴出していて、私が時間をもらうのも悪いと遠慮していたけれど。
「弓家さん、最近全然打ち合わせ入れてくれてないよね」
「…連日朝7時から21時までびっしりですが何も見えておられない感じで?」
「違う違う」
約束の昼ごはんを差し入れた時だった。
豆さんの食の好みを知らなくて、仔細にヒアリングをするのも申し訳ないので、と無難に近場の定食屋の弁当を日替わりで調達してお届けに上がっていた。
「弓家さんとの打ち合わせ」
椅子に腰掛ける彼と立っている私。
その高低差から豆さんがどうしても上目遣いになってしまって、不覚にも心臓が跳ねる。
「へ!?」
「だから、弓家さん書類の確認でもなんでも、全然枠とってくれないじゃん」
俺いつでもウェルカムよ。両腕を後頭部に回して「さみしーなー」と言い始めるこの上司は、そろそろ心が限界に来ているのではないか。
「だって、毎日打ち合わせ依頼ものすごい数飛んでくるんですよ?事務方でお時間取るのが申し訳ないぐらい」
これは事実。チャットやメールで逆に手間取らせるリスクもあるけど、ひと枠でも多くコンサル側に提供したいと思えば、軽々しく自分が豆さんの時間を奪うことも忍びない。
「はぁ」
豆さんが、ものすごく嫌そうにため息を吐く。
「俺の楽しみを勝手に奪うの、やめてもらえる?」
「…はい?楽しみ?」
意外な返しに言葉を継げずに突っ立っていれば、「そ」とごくごく軽い返事が返ってくる。
「弓家さんとおしゃべりするの楽しいから、適当な頻度で入れといてよ」
「それは…」
「1日1回とか」
それはさすがに多すぎでは。
「事務系の話だと、あんまり頭使わなくて気休めになるってことでしょうか」
豆さんが私との会議を好むとすれば多分それが理由だ。当然私も彼に意思決定を仰ぐが、その重さは各プロジェクトの比ではないので。
「…相変わらずだね。弓家さんがそう思うならそれでいいよ」
やや困った彼の顔。その理由が見出せなくて、やっぱりうまい言葉をかけられなかった私は、机にカツ丼を置いて退散するしかなかった。