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「康二くーん。」
「らうる?何ー?」
楽屋のソファに座り、カメラの挙動や設定を見返す康二くん。僕は膝をついてソファを挟んで彼に背後から抱きつき、その肩越しに真っ直ぐに視線を合わせて切り出した。
「あのね、今年の誕生日の記念に、僕の写真撮ってほしいんだけど…。」
その瞬間、振り向いた康二くんの顔がパッと目に見えて華やかに輝いた。
「えっ、ほんまに!?めっちゃ嬉しいねんけど!」
大喜びして、《今も撮ったろ。》と手にしていたカメラをこちらへ向ける康二くん。そのくしゃっとした笑顔を見て、僕は咄嗟に愛嬌ポーズを取った。
いつもメンバーの写真を嬉しそうに撮っている彼だからこそ、僕の今を記念として残してほしかったんだ。快諾してくれたことが嬉しくて、僕は康二くんが指定してくれた撮影の日が待ち遠しくて堪らなくなった。
撮影当日。撮影スタッフを招集して事前に俺が選んだのは、自然光がたっぷりと差し込む、シンプルながらも味のあるスタジオ。
「お願いしまーす。」
衣装に着替えてスタッフさんに軽く会釈しながら現れたラウールを見て、俺は思わず息を呑んだ。白いシンプルなシャツに黒のパンツ。素材の良さをこれ以上ないくらい引き出すコーディネートが、彼の抜群のスタイルを際立たせている。
「…うっし、ほな始めよか!ラウ、まずはリラックスして、いつもの可愛い感じでいこ。お願いしまーす!」
「「「お願いしまーす!」」」
ファインダーを覗き、いつものようにシャッターを切り始める。
軽快な音がスタジオに響く。最初はカメラに向かって、いつもの無邪気な笑顔を見せてくれていた。《ええやん!》《めっちゃ可愛い!》と声をかける度に、ラウは少しずつ、プロのモデルとしてのスイッチを入れていく。
「オッケー!次は、ちょっとカッコいい感じでいってみよか。」
自ら照明を整え、BGMを変える俺のその言葉を合図に、スタジオの空気がガラリと変わった。
彼がふっと息を吐き、カメラのレンズに視線を合わせたその瞬間。俺の指がピタリと止まる。
(…え、?)
ファインダー越しに突き刺さってきたのは、これまでに見たことのないような、深く、熱を帯びた眼差しやった。
前髪の隙間から覗く瞳。ほんの少しだけ開かれた唇。そこから溢れ出ているのは、かつての可愛いコドモの面影を完全に消し去った、圧倒的な大人の色気。
すぅ、と挑発するように彼は自身の唇を親指でなぞれば、俺の心臓が大きく跳ねた。
あまりの美しさと、そこに込められた強い引力に、刹那だけ息の仕方を忘れてしまう。
(なんや、これ…。めちゃくちゃドキドキする…。)
いつもなら騒がしく褒めちぎるはずの俺の口から言葉が消えた。ただひたすらに目の前のラウに圧倒され、引き込まれていく。動揺を隠すように、俺は夢中でシャッターを押し続けた。
僕は、胸の奥で静かに炎を燃やしていた。
普段の康二くんは賑やかで、甘えん坊で、皆のムードメーカーだ。だけど、カメラを構えた瞬間の彼は全く違う顔を見せる。
ファインダーを覗き込む康二くんの瞳は驚くほど真剣で、まさにプロフェッショナルなそれだ。被写体である僕を一瞬たりとも見逃さないという強い意志。そして、たまに肉眼で確認してくる、その眼差しの強さ。
(康二くんのその目、ヤバい…。)
康二くんが自分に向ける真剣な視線に、どうしようもなく惹かれていた。
普段の優しいお兄ちゃんじゃない。自分を男として、一人のモデルとして真っ向から捉えようとするその熱い視線が、僕の表現欲求とプライドを激しく刺激する。
もっと見てほしい。もっと、僕だけを切り取ってほしい。
独占欲にも似た熱い感情が、僕の表情に更なる深みを与えていくのが自分でも分かった。僕はカメラの向こうにいる康二くんの『目』を、決して逸らすことなく見つめ返した。
カメラを介している筈なのに、まるでお互いの魂を直接覗き込んでいるかのような、濃密で、息苦しい程の空間がそこにあった。
「…ラウ、ちょっとそのままで止まれる?」
康二くんの声がいつもより低く、静かだ。いつの間にか、彼の額にはうっすらと汗が滲んでいた。
ファインダーから目を離して僕を見た時、その距離が思ったよりも近いことに気付き、康二くんが更にドギマギしたのが分かった。
僕は少し首を傾げ、妖艶な笑みを浮かべたまま、少し高い位置から彼を見下ろした。距離は、わずか数十センチ。
「康二くん、今…凄くいい顔してる。」
「え?お、俺がっ?」
「うん。…僕その顔、凄く好きだな。」
スタッフさんが見ている中で、すっと指の背を康二くんの頬に滑らせながら思ったままをこっそりと伝えると、彼は耳が瞬時に真っ赤に染め、カメラで顔を隠すようにして慌てて視線を逸らす。
「な、何言うてんねん…主役はラウやろ!ほら、ラストは自由に行くで!」
照れ隠しで大きな声を出す康二くんが愛おしくて、僕は満足そうに、いたずらっぽく微笑んだ。その瞬間、先程までの張り詰めたような色気は消え去り、いつもの僕に戻っていく。
「あははっ、そうだね。」
そう言って僕が魅せた最後の表情は、自分でも驚く程、感情の全てが乗ったものだった。ラスト数回のシャッター音が響き、密室のような熱い時間は幕を閉じた。
「お疲れ様でした!ラウお疲れさん!」
「お疲れ様でした。康二くんありがとう!」
スタジオのスタッフさんに挨拶を終え、パソコンで撮れたての写真をチェックする。
「これ、1番ええんちゃう?」
「うわぁ…凄い、綺麗…。」
隣でラウが感嘆の声を上げる。そこに写っていたのは、彼の繊細かつ情熱的な姿だった。
「せやろ?俺が撮ったんやから間違いないわ。…ホンマに綺麗やん。」
俺は液晶から目を離し、少しだけ真面目な顔で彼を見上げた。画面に映る彼の鋭い視線を見る度に、撮影中に感じた胸の鼓動がリアルに蘇ってくる。
「ラウ、ほんまに大人になったなぁ。…ちょっとドキッとしたわ。」
ぽつりと本音が溢れてしまう。すると、今度はラウがふいっと顔を背けた。彼の耳がみるみる赤くなっていく。だけど嬉しさを隠しきれない様子で、顔を逸らしながら小さな声で呟いた。
「…僕だって、康二くんのあの目…ドキドキしたんだからね。」
「え?なんて?」
「、なんでもない!…この写真、宝物にする。マジでありがと、康二くん。」
「おん。」
ラウは満面の笑みに戻ると、感謝のハグと同時に俺の頭に顎を置いた。いつもの距離感、いつもの甘えん坊のラウールだ。
でも、お互いの胸の奥に残ったあの熱い視線の記憶は、もう消えないと思う。
俺達は知ってしまった。カメラの前後で見せる──メンバーの誰も知らない──お互いの特別な表情を。
「よっしゃ!誕生日のお祝いに美味いもん食いに行こか!」
「やったー!康二くんの奢り?」
「当たり前やん!」
賑やかにスタジオを後にする。並んで歩く俺達の背中には、以前とは少しだけ違う新しく特別な絆の熱が、確かに灯っていた。
コメント
3件
コメント失礼します🙇♀️ 素敵な🤍🧡のお話ありがとうございます😭 お互いの普段と違う表情や姿を見るってすごくドキッとしたり、グッとくるものがあって、それをこんなに素敵に表現できるのがすごいです✨ 本当にありがとうございます😊

(*ノェノ)キャー🤍 🤍攻めは…ときめくってぇ〜✨ ありまと✨