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※
「凪、茶を入れてくれ」
「はい、すぐに」
「あっ……前に入れてもらったお茶がいい」
「……はい」
帰宅して早々、いつもと違う重い雰囲気を纏う将臣を、凪はじっと見つめていた。
「どうぞ」
コトリと卓に置かれた湯呑みから、なつめの甘い香りが漂う。
将臣は両手で湯呑みを持ち、深く香りを吸い込んだ。
「……落ち着く匂いだ」
「将臣様……何か、ありましたか?」
「……凪にも、伝えなければな」
そう言うと、将臣は部屋から例の命令書を持ってきて、卓の上に静かに置いた。
凪はその文字を目にした瞬間、息を詰めた。
(ついに……この時が来たんだ……)
凪は言葉を失い、将臣を見つめた。
だが、将臣もまた視線を落としたまま、ただ黙ってお茶を口に運んでいる。
お互いの視線が泳ぎ、部屋に重く息苦しい静寂が流れる。
「これをお持ちになったということは……お受けになる、ということですよね」
「……」
将臣からの返事はない。彼は湯呑みを持ったり置いたり、手元が落ち着かない。ふらりと寄ってきた猫の結丸を膝に乗せると、将臣は一言も発さず、ただ静かにその背を撫で続けた。
(やはり、お迷いになられている……)
凪もまた、それ以上何も言えなくなってしまう。
異能で傷を読んだわけではない。なのに、将臣の苦しみが痛いほど伝わってきた。
凪はただ、将臣の手になすがまま撫でられている結丸を見つめることしかできなかった。
「……そろそろ、お夕飯の準備をしてまいりますね」
「ああ。頼む」
将臣のどこか心ここにあらずな空返事を聞きながら、凪は炊事場へと向かった。
冷たい水で青菜を洗いながら、ふと自分の胸に手を当てる。ドクドクと、心臓が悲鳴を上げるように打っていた。先ほどの、縋るように結丸を撫でていた将臣の顔が離れない。
凪はぎゅっと、胸元の着物を握り締めた。
(一日でも早く……私がここを去って、将臣様を解放して差し上げなければ……!)
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