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第5層の洞窟へと下っていった私たちは、洞窟を歩きながらノドカの索敵を頼りに標的である“カーボンスパイダー”を探し始めた。

というのも、今回の依頼はカーボンスパイダーの捕獲であるからだ。

カーボンスパイダー自体はDランクに相当する魔物だが、捕獲する必要があるということで依頼自体はCランクに格上げされている。

どうやらこの辺りにあるカーボンスパイダーが出る場所というのが足を運びづらいここしかないということに加え、報酬が平均的なCランク依頼並みということがこの依頼が不人気だった理由らしい。


「あ、魔石だよ! ラッキー!」

「へぇ、下の方だから天然の魔石も落ちてるのね」


ダンゴが洞窟内に落ちていた直径5センチほどの透明な結晶を拾い上げて、私に手渡してくれる。

これは魔導具の動力源になる魔石だ。

人工的に作り出せるもので天然物との差はないらしいが生産量は多くなく、天然物も程々の価格で買い取ってもらえる。

見つけたら、ちょっとしたボーナスとして資金の足しになるのだ。


魔石は魔素が集まって結晶化したもので、魔泉の中心に行くほど生成されやすい。

ヒバナの言ったようにダンジョンは下層に行くほど魔泉に近付いていくので、下層の方が魔石も生成されやすい。

魔石があると知るや、シズクが意気揚々と魔石探しを始めていた。本を買うための資金の足しにするつもりらしい。

彼女に乞われたヒバナもその手伝いをすることになったようだ。


「何か~小さいものが~来ます~」

「カーボンスパイダーかな?」

「どうでしょう~?」


流石にそこまでは分からないか。

ノドカ曰く、中々に素早いらしいのでコウカに臨戦態勢に入ってもらおうとしたのだが、それより先にやらなければならないことがある。


「ヒバナ、シズク、気が緩み過ぎです」

「ほら、ダンゴも……」


一応、付いてきてはいるものの魔石探しに没頭していた3人を連れ戻した。

それから全員で近付いてくる小さいものを出迎える。

甲高い鳴き声と共に現れたのは蝙蝠だった。だが、ただの蝙蝠でなくエコーバットという魔物だ。ここに来る前に少し調べていたのでよく知っている。

Eランクに相当する魔物で、最大の特徴は超音波で暗闇の中でも障害物の正確な場所を探れることだ。

そこまでは普通の蝙蝠とあまり変わらないが、その超音波を至近距離で受けると吐き気や頭痛を引き起こすらしい。

はっきり言って非常に弱いらしいので、過剰な警戒は必要ない。

シズクの放った複数の水魔法を受けただけで、それらは呆気なく力尽きてしまった。


それから先は時々エコーバットと遭遇するくらいでカーボンスパイダーはついに1体も見掛けなかった。


「ノドカ、本当にこっちにいるの?」

「う~ん、奥にたくさん~集まっている場所が~ありますね~」


ノドカは「カーボンスパイダーさんか~分かりませんけど~」と暢気に笑う。

今は彼女の魔法を頼りに進むしかないので、彼女の指し示す方向へと進んでいった。

――そうして大きな空洞を見つけ、その光景に愕然とする。


「なにこれ……」

「な、なんだか……不気味……」


コウカの魔法によって照らされた空間には至る所に黒い糸で作られた蜘蛛の巣が張られ、その巣には大小問わず様々な魔物が磔となっていた。

カーボンスパイダーの大きさはせいぜい1メートルほどだ。

それでも大きいが、目の前の巣は彼らが張れるようなサイズとは思えない。


「この巣の大きさ、まさか上位個体……?」

「え……ちょっとやめてよ……」


ヒバナが非常に嫌そうな顔をする。

私も嫌だが、そんな予感がしたのだ。前に戦ったキラーアントのクイーンのような上位個体がカーボンスパイダーにもいるのではないだろうか。

事前に仕入れた情報では上位個体がいるという話はなかったが、時折繁殖期のようなものがあるとは聞いた気がする。

その時期になると上位個体が生まれるらしいが果たして――。


「周りにも~同じような部屋が~あるみたい~」


ノドカが指さす方向をコウカが照らすと、たしかに大きな横穴が幾つもあった。


「そしてこの先を~ずっと進めば~何かが~たくさんいますよ~」


ノドカが指さしたのは私たちがこの空間に入ってきた場所のほぼ正面、奥へと続いていくとても大きな穴だった。


「あ~、大きいのも~ひとつ~」


これは確定してしまったか。カーボンスパイダーが集まってしまって出てこないのは、上位個体を守るためだろう。

なんにせよ、タイミングが悪い。

……とは言っても、今回の依頼はカーボンスパイダーの捕獲だ。上位個体を相手にする必要はない。普通のカーボンスパイダーだけを上手くおびき寄せたいものだ。


「穴の奥に向かって攻撃したら、1体だけ様子を見に来てくれないかな?」

「怒って、大量に押し寄せてきそうだけど?」


そう甘いものでもなさそうだ。

だがもし押し寄せてきたところで上位個体が来る前にカーボンスパイダーを捕まえて逃げてしまえばいい。

カーボンスパイダーを捕まえるためにギルドからレンタルした鉄製の檻は現在、《ストレージ》に収納して持ち運んでいるが、カーボンスパイダーを中に入れたら手で持ち運ばなければならない。

生きている魔物を《ストレージ》に収納することはできないからだ。

重いものだが、力持ちのスライムたちにはそれほど負担とはならないだろう。


結局、私たちは奥の穴に魔法を撃ちこんで誘き出す作戦をとることにした。

今いる空間は地面が水平になっているが、穴の奥は坂道になっているようなので近付かないと奥まで魔法が届かない。

仕方がないので、近付こうと歩いていく。

その途中で私の左斜め前方を歩いていたコウカが首を傾げて立ち止まった。足元を見ているようだが、そこに何かあるようには見えない。


「ん……? あっ、マスター止まってください!」

「えっ? ……あ」


強い語調で制止されたのにもかかわらず、足を踏み出してしまった。

……でも何ともない。コウカに説明を求めようとしたが、彼女は奥の穴をずっと睨みつけていた。


足を踏み出した態勢のままで動けないでいると、ノドカがのんびりとした口調で最悪の情報を口にした。


「気付かれた~? 魔物さんが~たくさん~向かってきます~!」


――気付かれた、どうして?

私の疑問に答えてくれたのは、穴を睨みながら剣を取り出したコウカだった。


「足元に糸が張り巡らされています。おそらく侵入者を検知するためです」


そう言われて、ヒバナをはじめとするスライムたちも足元を見る。

するとみんなが何かに気付いたかのように声を上げていた。

――ごめん、私には何も見えない。

視力は両方2.0だったはずなので、目が悪いせいで見えないのではないと思うが。

みんなが揃って嘘をついているのはまずあり得ない。確実に極細の糸が至る所に張られているのだろう。踏んでも違和感がないような細い糸が。

それは恐らく、人間では気付くことのできないものなのだ。

とりあえず、今は言わなければならない言葉がある。


「み、みんな……ごめん!」


本当に申し訳ない。コウカが気付いてくれたのに、わざわざ踏みに行ってしまった。

だが、みんなは全然怒っていないようだ。


「主様、結局やることは一緒だよね?」


ダンゴの言葉にハッとする。

そのとおりだ。手段はともかく、結果は私のやろうとしていたことと同じではないか。こうやって相手から来てくれるのだから。

――手間が省けてよかった……のか?

まあ、みんな気にしていないみたいだからいいか。


「最優先はカーボンスパイダーの捕獲ね。1体捕まえたらすぐに帰るから!」


全員が口々に返事を返してくれる。

それからすぐに穴の奥から敵の第1陣が現れた。


「せ、先頭の1体を残すよ」

「これだけ広ければ、私も戦って大丈夫でしょ?」


わらわらと近寄ってくるカーボンスパイダーに向かって、シズクとヒバナが魔法を放つ。

洞窟のようなほぼ密閉された空間では普通ヒバナの魔法は使えないがここは相当広い空間だ。余程無理をしなければ問題はない。


「多いわね……っていうか、気持ち悪い!」


予想以上の沸き方にヒバナが愚痴を漏らす。

私も大きな蜘蛛がうじゃうじゃと近付いてくる光景は正直、見たくないので同感である。

でも流石にこの湧き方はまずいな。相手が強くないとはいえ、これ以上増えると数で押しつぶされてしまう恐れもある。

だったら――。


「コウカ、穴の奥を照らして。カーボンスパイダーは強い光に弱かったはずだから、これ以上増えるのを抑えられるかも」

「分かりました!」


カーボンスパイダーは強い光に弱いという情報を思い出し、カーボンスパイダーを捕獲するタイミングを窺っていたコウカに話しかける。

彼女は私の言った通りに穴の奥を照らすように眩い光球を飛ばしてくれた。

これでこの空間にいるカーボンスパイダーはこちらへと押しやられ、穴から出てこようとしてきたカーボンスパイダーは奥へと帰っていくだろう。

――だが、事はそう簡単には運ばなかった。


「あ~横から~来ます~!」


同じような空間へと繋がっている横穴からカーボンスパイダーが湧き出してくる。

私たちは元来た通路を背にしているので囲まれることはないが、あまり多いと捕獲ができなくなる。

全ての穴を照らすのは、コウカでも魔法の術式を維持しきれないだろう。


「横に壁を作るよ!」

「わたくしも~」


ダンゴの岩壁とノドカの風の結界で左右から迫ってくるカーボンスパイダーは抑えてくれるらしい。

これで一時的な時間稼ぎになる。


「コウカねぇ! 1体孤立したわ!」

「い、今なら行けるよっ!」


ヒバナとシズクの尽力により、先頭を歩いていた1体だけが残っている。たしかに今なら捕獲のチャンスだろう。

《ストレージ》から地面の上に出した檻をコウカが持ち上げ、まっすぐ走り出した。

距離が狭まったことでカーボンスパイダーも黒い糸を吐いてコウカを攻撃するが、彼女は速度を殺さずに躱す。

そしてカーボンスパイダーとコウカの距離が10メートルほどまで近付いた時、彼女は孤立していたカーボンスパイダーに電撃を浴びせ、ショック状態にした。

さらにそのまま動けないカーボンスパイダーを持ち上げると檻の中に放り込む。


後は逃げるだけだった。

しかしながらここに来て、照らしていたはずの奥の穴から一際大きな影が現れたことで状況が大きく変わる。


「上位個体……!」


その大きさは、カーボンスパイダーの10倍以上はあるだろう。

これはおちおちしてもいられなくなった。


「逃げるよ――ッ!?」


離れた場所にいるコウカにも聞こえるように声を出した瞬間、洞窟の奥から複数の黒い糸が勢いよく私たちに迫ってきた。

お互い空洞の端と端、対極に位置するはずなのに攻撃できるとでもいうのだろうか。


「シズ!」


咄嗟にヒバナとシズクが黒い糸に向かって魔法を撃ち込むことで相殺したので、私たちは事なきを得る。

その黒い糸はコウカにも届いていたが、彼女の方も檻を抱えたまま飛び退くことで回避したようだ。

そうして改めて、撤退を開始しようとした時だった。

コウカがカーボンスパイダーの入った檻を取り落として、代わりに剣を構えて突撃しはじめたのだ。


「コウカ、どうして!?」


――私、逃げるって言ったはずなんだけど。

どうして、カーボンスパイダーの群れ、そしてその奥にいる上位個体に向かっていっているのだろうか。

あんなの、無理に相手をする必要はない。目標は達成しているのだ。ここから逃げればそれで終わりだった。


「姉様、どうしちゃったの!?」

「何やってるのよ!」


全員、突然のコウカの行動に動揺が隠せない。

カーボンスパイダーの群れへと到達したコウカは迫りくる黒い糸とカーボンスパイダーを切り捨てながら、まっすぐ上位個体へと向かっていた。

敵も黙って見ているようなことはせず、上位個体を守るようにカーボンスパイダーたちが壁を作りはじめる。

それを見たコウカが剣を地面に叩きつけるとそこから放射線上に雷撃が広がり、瞬く間にカーボンスパイダーを殲滅していく。


次の瞬間、上位個体がコウカだけを狙って黒い糸を放った。

コウカは躱そうとしたが全ては躱しきれないので自分に直撃しそうな糸を剣で切りつけようとする。

ところが上位個体の糸は硬かった。切れ残った糸がコウカの剣に絡みついていく。

だが、彼女は剣から雷を放出することで絡みついた糸を焼き切っていた。放出された雷は周囲に奔る。

コウカ自身は自らの魔力を纏ってそれを防いだようだが、周りに殺到していたカーボンスパイダーたちは感電する。


「エンチャント……バランスがめちゃくちゃじゃない……」

「ゆ、ユウヒちゃん! ぼ、ボーっとしていないで呼び戻さないと!」


つい見入ってしまっていた。このまま、上位個体も倒してしまいそうな勢いだったからだ。


「ごめん。ノドカ、私の声をコウカまで届くようにして」


ノドカの風魔法を拡声器として使い、コウカを呼び戻す。


「だったら、今のうちにボクが檻を取ってくる!」


コウカが取り落としたカーボンスパイダーの入った檻はダンゴが回収しに行ってくれるようだ。

そして左右から壁を乗り越えようとしてくるカーボンスパイダーたちの相手はヒバナとシズクが担当してくれる。

後はコウカだけなのだ。

私はノドカに拡張してもらった声で叫んだ。


「コウカ、もういいから戻ってきて!」


私の声がこの空間いっぱいに響き渡る。……思ったよりも大きな声が出た。

ヒバナとシズクが揃って体を跳ね上がらせるほどだ。2人にジトっとした目で見られた。ごめん。

この声には流石のコウカも手を止め、こちらを見た。

そんな彼女に向かって身振り手振りでこっちに来いとアピールする。

すると瞬く間にコウカの姿が消えた――かと思うと同時に轟音が鳴り響き、私たちの周囲には土煙が舞う。

咳き込みながら、音の発生源を見ると壁に人がめり込んでいた。

あれは疑いようもなく、コウカである。


「ぐっ……し、失敗しました……」

「それ、まだできないって言ってたやつだよね!? どうして使ったの!?」


それは今のコウカでは制御できない技術だった。

コウカは魔力を身に纏うことで、音速に迫る速度で動けるらしい――理論上は。

身体が純粋な魔力で出来ているスライムだからできる芸当なのだが、これが相当繊細な制御が必要な技だった。まず制御を間違えれば今のように壁へ衝突するまで止まらない。

次にスライムの動体視力は人間よりも優れているが、音や光の速さに対応できるほどではない。以上だ。

この2つだけでもほぼ無理である。

前者はともかく後者の問題がある以上、今後使えるようになるかもわからないような技だった。


「ちょ、ちょっとコウカ姉様! 大丈夫なの!?」


檻を手に持ったダンゴが帰ってくる。これで全員揃った。後は帰るだけだ。

どうしてあんなことをしたのかをコウカに聞くのは後にして、今は帰ろう。


元来た通路へと入った私たちは空洞の入口にダンゴの魔法で壁を作って足止めをした。

術式を維持できなければ崩れ去ってしまうものだが、ダンゴには集中してもらっていれば十分な時間稼ぎになる。

そうしてダンゴが持っていた檻をコウカに持ってもらい、私たちはダンジョンから引き上げたのだった。


七重のハーモニクス ~異世界で救世主のスライムマスターになりました~

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