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虚 無 天 .
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薬 チャン ❕ 💭
80
部屋の明かりを消しても、いるまの腕の力は少しも緩まなかった。背後から回された腕は、なつの肋骨が少し痛むほどに強く、まるで少しでも隙間を作れば、なつが霧のように消えてしまうと怯えているかのようだった。
「……すー、……すー……」
耳元で、ようやく落ち着いたいるまの寝息が聞こえる。
泣き疲れて眠ってしまった彼の顔は、さっきまでの狂気じみた執着が嘘のように幼く、無防備だ。
なつは暗闇の中、自分を縛り付けるいるまの指先に、そっと自分の手を重ねた。
(……本当、バカだよな、こいつ)
なつは心の中で小さく毒づく。
GPSをつけられ、行動を制限され、拒絶すれば壊れたように泣き出す男。普通なら、とっくに愛想を尽かして逃げ出しているはずだ。
でも、なつの胸にあるのは、怒りよりも深い「諦め」に近い納得だった。
(俺がいなきゃ、こいつは本当に死んじまうんだ)
いるまの重すぎる愛は、なつにとって重荷であると同時に、自分がこの世界に存在していいという強烈な肯定でもあった。
必要とされ、執着され、片時も離したくないと思われること。
それは、かつて孤独や病に怯えていたなつにとって、最も残酷で、最も甘い救いだったのかもしれない。
(……逃げられるわけ、ねーだろ。……こんなにボロボロになって俺を呼ぶやつを、放っておけるわけない)
なつはゆっくりと体を翻し、眠っているいるまの胸に自分から顔を埋めた。
いるまが反射的に、眠ったままなつをさらに強く抱きしめ返す。
「……ん、……なつ……、どこにも……いかないで……」
寝言でさえ自分を求める声に、なつは苦笑いして、彼のシャツの胸元をギュッと握りしめた。
「……分かってるよ。……一生、お前の檻の中にいてやるから。……安心しろ、バカ」
自分を縛る鎖は、もう解けない。
けれど、その重みこそが今のなつにとっての「生」の証だった。
二人は互いの体温を逃さないように密着したまま、深い、深い眠りの淵へと落ちていった。
コメント
3件
寝言でもいかないでいってるのねいるまくん、!なつくんへの重い愛が伝わるっ!!
読ませていただきました……。 いるまの執着、なつの諦めにも似た「自分がいなきゃ」っていう感覚、重いのに温かくて、すごく切なかったです。 最後の「一生お前の檻の中にいてやる」っていう台詞、鎖でありながら生きる証でもあるっていう塩梅が、本当にこの作品らしいなって。 また続き、読みにきますね。