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◻︎悪夢
「紹介するよ、来月結婚する坂井麻美ちゃん、こっちは同期で親友の森下茜」
1ヶ月ぶりのデートで彼と待ち合わせたカフェ。
約束の時間に少し遅れてやってきたその男、新田健介が私に女の子を紹介した。健介の一歩後ろに立つその子は、緩く巻いた栗色の髪が可愛くて私よりいくつも若いだろう、ふわふわした女の子だった。
「はじめまして、坂井麻美です。茜さんの話は、健ちゃんからいつも聞いています」
「はぁ、はじめまして…森下茜です…って、えっ!?えっと…結婚って誰が…誰と?」
突然のことに、私は頭がついていかない。
「何、聞いてなかったの?俺と、この麻美ちゃんが来月結婚するの。茜にも紹介しようとしてたんだけど、なかなか時間作ってくれないから、紹介するのが遅くなっちゃったよ。あ、そうそう、麻美ちゃん、あれを…」
“麻美ちゃん”と健介に呼ばれたその子は、ショルダーバッグから薄いピンク色の封筒を取り出した。
【Wedding invitation】
と、金色の文字が書かれたその封筒の裏には
、【新田健介・坂井麻美】と二人の名前があった。
_____え?健介って、私の彼だよね?え?どういうこと?私と付き合ってるんだよね?
封筒の中には、結婚式の招待状と最近できた結婚式場への道案内が入っていた。コスモスの透かし模様のその招待状を、私は念入りに見てしまった。
「ぜひ、来てくださいね。健ちゃんの大切なご友人だと聞いてますので」
「じゃ、俺らは式の打ち合わせがあるから、これで。式には来てくれよな?」
_____な?って、なに?
人は、あまりにも驚くと何も言葉が出なくなってしまうんだと実感した。
何をどう返事をすればいいのか悩んでいた隙に、二人はさっさと行ってしまった。麻美の腰に手を回し歩く健介を見ていたら、くるっと振り返り、片手を2回振っていた。
バイバイ、そう聞こえた気がした。
ちょっと待って。なにがあった?私、何かした?
ねぇ!!健介!ちゃんと説明してよ!
こんなところに一人で置いていかないで!
二人は、見つめあって笑いながら明るい方へと歩いて行くのに、私だけまるで暗闇の冷たい沼にハマったように動けなくなる。そしてだんだん沈んでいく。ズブズブと底無し沼へと…息もできなくなってきた……助けてっ!
私は思い切り手を伸ばす、何かに捕まらないと沼の底に沈んでいく!
「う、う、わぁっ!!」
ふわっと体が浮いてすぐに、落下した。
どすん!
「あいたっ!た、た、た、」
またやった、ソファでうたた寝してしまってそして落ちた。
最悪な月曜日の朝だった。