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#怪異
阿炎快空
123
リユ
232
#ダークファンタジー
阿炎快空
82
阿炎快空
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気が付くと、僕は木々が生い茂る樹海に居た。 きっとここが、堺の世界に棲む猫達の口内に広がる異次元——『森』と呼ばれる場所なのだろう。
周囲には紫色の妖しげな霧が立ち込めており、空には満点の星空と、虹色のオーロラが輝いている。
まるで別の惑星だ。
僕は地面にお尻をつけた状態で、木の幹に縛り付けられていた。
僕を縛っているのは、木から伸びた何本もの蔓だ。
すぐ近くの地面には、手放してしまったらしい拳銃が転がっている。
僕は周囲を見回した。
鎖が何重にも巻かれた棺桶、座面に鋲の取りつけられた椅子、黒く焼け焦げた柱時計——様々な物が、不法投棄でもされたかのように放置されている。
だが何よりも目を引いたのは、僕と同じくあちこちの木に縛り付けられている先客達だった。
可愛らしいワンピースや、騎士の甲冑など、身に着けているものは様々だったが、その全員が白骨化し、物言わぬ骸となっていまっている。
あんな風になるのはごめんだ。
僕は拘束から逃れようと、必死にもがいた。
しかし、蒼梧にも引きちぎれなかった蔓を、非力な僕がどうこうできるわけがない。
焦燥感と無力感に苛まれていたその時——霧の向こうから、何かが近づいてくるのが見えた。
それは二足歩行の鼠のような形状をした、ゆらゆらと揺れる影だった。
鼠と言っても、僕と同じくらいの大きさはある。
二つの瞳だけが爛々と赤く輝いており、それらは真っすぐに僕を見つめていた。
非常にまずい状況だ。
鼠の影は僕のすぐ近くまでやってくると、くんくんと臭いを嗅ぐように顔を近づけた。
そして恐怖で呼吸することもできずにいる僕をじっと見つめた後、唐突に口を大きく開けた。
口の中は、瞳と同じく燃えるような赤だ。
僕は顔を背けて目を瞑り、人生の最後かつ最悪の瞬間を待った。
——カジカジカジカジ……
おそるおそる目を開ける。
鼠の影は僕に巻き付いた蔓を小さな両手で器用に掴み、小刻みに口を動かしてちょっとずつ齧っていた。
まさか、助けてくれているのか?
そういえばこの鼠の影からは、一切の邪な気配を感じない。
呆気に取られていると、突然、僕が縛れている木の枝が、風もないのにガサガサッと激しく揺れた。
ひょっとしたら、それにはSOSのような意味合いがあったのかもしれない。
次の瞬間、周囲の木々が、一斉に自らの蔓を伸ばした。
大量の蔓が、あっという間に鼠の影を取り囲み、鎌首をもたげる。
まるで、蛇の巣に鼠が一匹紛れ込んでしまったかのような光景だった。
しかし——侵入者は、哀れな小動物ではなかった。
鼠の影が、辺りをぐるりと見渡す。
その体が見る見る内に、三メートル程に肥大化していき——
グルゥアアアアアアアアッ!
——ライオンの様な咆哮で、蔓の群れを威嚇した。
蔓達はビクリ、と体を震わせたかと思うと、一本残らずすごすごと退散していった。
驚くべきことに、僕を縛り付けていた蔓までもが、ゆっくりと拘束を解いていく。
鼠の影は僕が自由の身になったのを確認すると、今度は逆再生のようにして、元のサイズへと体を縮小させた。
それから、僕に背を向け歩き出したかと思えば、少し歩いてから立ち止まり、チラリとこちらを振り返る。
——ついて来い、ということだろうか。
僕は拳銃を拾ってホルスターに収めると、鼠の影を追って歩き出した。
鼠の影の背中を追いながら、僕は妙な懐かしさを憶えていた。
僕は何だか、こいつを知っている気がする。
とは言え、これまでこんな化物に遭遇した記憶はないのだが——
そんなことを考えていると、鼠の影が立ち止まった。
立ち込める霧のせいでよくは見えないが、誰かが木に縛られているらしい。
どうやら白骨ではなさそうだ。
そしてその傍らには、僕の膝くらいまでの身長しかない、小柄な人影が立っていた。
いや——人ではない。
霧の中からトコトコと歩みでたそいつは、真っ赤なマントを羽織り、腰に剣を携えた白猫だった。
「待っていたよ、修君」
まだ幼い、少年のような声で白猫が言う。
その瞬間——僕の頭の中で、遠い昔の記憶が呼び起こされた。
「もしかして——にゃははうぺー!?」
にゃははうぺー。
それは幼稚園で僕と由宇が、先生から借りて一緒に読んだ絵本——『ねこねこランドの大冒険』の主人公だ。
そして鼠の影は、その絵本に出てくる悪役だ。
確か、かつて王国で猫達にいじめられていた鼠達の恨みが集まった存在——みたいな設定だった気がする。
可愛らしい絵本の中において、こいつだけはあえて異質な、禍々しい画風で描かれており、当時は本当に恐ろしく感じたものだ。
呆然と立ち尽くす僕の表情を見て、にゃははうぺーは満足げに頷いた。
「どうやら思い出してくれたようだけど——まあ、一応自己紹介しておこうか。僕はにゃははうぺー。そして、こっちの鼠はヂューダ。昔、君が読んだ絵本に登場するキャラクターであり——」
にゃははうぺーはそこで振り返り、木に縛られている人物に目をやった。
「——彼女の力で具現化した、想像上の友人——所謂、イマジナリーフレンドでもある」
「彼女?」
もしかして、と思いながら、人影へと歩み寄る。
案の定というべきか。
僕が目にしたのは、虚ろな表情で宙を見つめる由宇の姿だった。
コメント
1件
うわぁ…第62話、めっちゃ面白かった!!😭💕 鼠の影・ヂューダが蔓を齧って助けてくれたシーン、めっちゃグッときた…!最初は恐怖だったのに、まさか助ける側だったなんてね…🫣✨ そしてにゃははうぺーの登場で「ねこねこランドの大冒険」の絵本の伏線回収!!イマジナリーフレンドって言葉が由宇ちゃんに繋がるの、エモすぎるよ…😢💖 次が気になりすぎて夜しか眠れない!!