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〜夏休み〜
第29話
そう言って出てきたのは……ニーナ嬢だった。
私は、一礼をしながら
「ニーナ・ハプスブルク嬢。此度は……」と言いかけた所で「はうっ、っ……ぐっ……ひゅっ、っ……」
黒猫の呼吸が乱れてきた。
「ほら、大丈夫。大丈夫だからね」
私は、黒猫の背中を揺すりながら、光魔法をかけた。
ブルブルと小刻みに震え、目の焦点が合わない。
「ナイト。王宮に戻らない?」
「っ! 戻らないっ! あんな所っ……」
即答だった。めっちゃ食い気味。
……黒猫がここまでなるのは珍しい。
「でも……」
「でもじゃない。俺は、もう二度と入らない」
怖い声になった。こんな黒猫は初めてかも……というか、まだ六年目なんだけどね。
そんな事を考えていたら、黒猫に飛ばされた。なぜか宙を舞っている。
……え?
地面から、三メートル……ん?
私は、よく分からないまま着地した。
すると……
「ナイト。もう、あんな事にはならな……」と言いかけている言葉を遮って「あんな事にはならない? ふざけるな。どちらにしろ、おれは使い魔だ。いかねえよ」と視線で刺している。
……こんなに、口喧嘩というか……こんなに口悪かったっけ?
「ほらほら、どこか勝手に行くなんて、私に『殺してください』って言ってるのと同じだし、一緒に森に引きこもろうよ」
「……ちょっと今は黙っててくれないか」
「あ、うん。分かった」
私も、気圧されてしまった。
……黒猫っ。
陽だまりの校庭に、何やらマズイ空気が流れている。
殺るなよ……私の首が無くなっちゃう……
「それより、病みあがりなんだ。また、倒れるぞ」
いつもの調子に戻ったけど……殺意をニーナ嬢に向けている。
……私の心配かい!
もうちょっと、他の事に使えないのかね……はぁ〜……
「大丈夫だよ」
少し頭痛いけど……ん? 熱中症ってやつ?
何だっけ? 日本にそんなのあった気がする……
「駄目だ。ニーナ。俺は、戻る。それと二度とこの話を出すんじゃない」
そう言って、黒猫は私の事を抱き上げて部屋に戻った。
「黒猫。大丈夫?」
私はベッドの上に寝かされながら、いつまでも魔力の動きが安定しない黒猫の事を撫でた。
「まぁ……食欲が湧かない。昼食は抜きで大丈夫だ」
「そう……」
私も、食欲無いかも……ちょっと、熱中症気味だった体だから怠いけど……大丈夫。
このくらいうんともすんとも言わせない。
私は、笛を取り出して、子守唄を吹いた。
この身体が小さな頃に歌ってくれた子守唄。 誰だっけね……
黒猫も、鼻歌で参戦した。
「……思い出した。黒猫だっけ? これ歌ってくれたの」
「あぁ。懐かしいな」
出会いたての、二歳頃。眠れない時に歌ってくれてた子守唄。
あの時は、先生とか、オレグとか、エレンとか……昔の仲間の事で泣いてたりもしたっけ?
……ん? その時から、姿が変わって……知らん。もうそこは、ツッコまない。
不老なの?
「少し、熱くないか?」
「え?」
ここの気温は……大体、二十度くらい。何なら寒いくらいまで……
「お前がだ」
そう言って私の額を触った。
「暑い所にいたから、体温も上がったんじゃない?」
「まぁ、そうだと信じようか。何を食べるんだ? お昼は過ぎている」
「いつも通りの、フルーツで」
「分かった」
流石にこのくらい、いつもはするけど……私が大丈夫じゃないっていう判断なのかもしれない。
「……黒猫こそ、休んだら? 私も鍛錬は、したいけど……少し我慢するし」
「そうだな。正直、大丈夫と言ったら嘘になる」
「夏休み明けて、しばらく授業中は魔力の中にいた方が良いかもね。私もちょっと釘を刺してくるから。私を敵に回したら、国……いや、この大地は軽く吹き飛ばせるからね」
ふふっ、と笑った。笛と、特殊な術式を使えば……チョチョイのチョイよ。
体術が苦手で、凄い穴だらけの偏った術式を山のように持ってるだけだから、強いか弱いかでいったら……めちゃ弱い。
そんな私に、弱いと呼ばれてる黒猫は……体術でも勝てる。かもしれない。負けるかもしれない。
二週間の……合宿? みたいなので、黒猫もかなり強くなった。
「舐められちゃうと、困るんだよね……頭に血が昇ると何をやらかすのか分からないし」
「まぁ、なるべくなら辞めてほしいな。流石にそうなると止められるか分からない」
少し暗い顔のまま猫の姿に戻って、私の横にピョンと飛び乗った。
あまりよく見たこと無かったけど……緑色の瞳。
でも、眠くて、眠くて……寝ちゃった。
色々と、疲れちゃった。
コメント
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**みぅ🤍🥀** こはるさん、第29話読みました…… ニーナ嬢が現れた瞬間の黒猫の拒絶反応、すごく痛かった。あそこまで嫌がる黒猫、初めて見た気がする。“もう二度と入らない”の冷たい声、めっちゃ刺さった。 対照的に、主人公はずっと黒猫をなでて、笛を吹いて、子守唄を口ずさむ……距離が近くて、優しくて、胸がぎゅっとなる。“大地を吹き飛ばせる”ってセリフは笑えたけど、同時に“この子もやっぱり危ういんだな”って思った。 お互いに病人同士で、でもお互いにしかいない関係性。最後の“寝ちゃった”でどっと疲れが伝わってきて、続きがすごく気になります🌙