るぅとくんの誕生日記念でかいたSSです。
子守歌
「おはよーございまーす」
今日は作戦会議という名の打ち合わせに参加するために俺は事務所に来ていた。部屋に入ると顔見知りのスタッフが俺に気づいて挨拶してきた。
「おはようございます、莉犬さん。今日はやけに早いですね」
「えーっ、早いってなんスかーwちょっとこっちで作業しようかなって思っただけですよ」
「ああ、そうだったんですね。お疲れさまです」
「お疲れさまー」
作業ブースのある部屋に向かう途中でカフェテーブルに誰かいるのが見えた。
るぅとくんだ。
「おつかれー」
声をかけようとして近づくと机につっぷしてうたたねをしている。めずらしいこともあるなぁ。
テーブルの上には飲みかけのマグカップとノートPCが開いたまま。音楽編集ソフトらしき画面も見える。
あまりそういうことはしない子なのに(少なくとも自分よりはマメだ)よっぽど疲れてたのかな。なんとなくブースに行くのをやめて、隣の席に荷物を置いた。
「風邪ひいちゃうよ」
着ていた上着を脱いでるぅとくんの背中にかけてから空いてる椅子に座る。ホントはちょっと台本でも書こうかなとか思っていたんだけど。
「頑張ってるんだなぁ…」
ぼそっと誰にも聞こえない声で呟いた。
自分たちにはそれぞれに得意分野があって、るぅとくんはその中でも作曲などの音楽関係をほとんど担当している。彼の作る曲はいつも俺たちに新しい世界を見せてくれるんだ。最年少だけど、もしかしたらメンバー内でいちばんのしっかり者かもしれない。
俺の方が(同い年だけど)『お兄ちゃん』なのについつい頼っちゃうことも多いし。
打ち合わせまでにはまだ30分以上あるし、せっかくだから歌の練習でもちょっとやろうかな。
スマホを開いて音楽フォルダから次にレコーディング予定の曲を出して、隣で眠ってるるぅとくんを起こさないように小さな声で歌う。
るぅとくんみたいに曲を作ったりはできないけど、歌うのは好きだ。今の思いを遠くにいる誰かにまっすぐに届けることができるから。
気持ちのいいメロディーに自分の声が乗って流れていくのを想像するとなんだかわくわくする。自分じゃなかなか行けない場所にも歌なら簡単に行けるから。ひとりでも楽しいけど、仲間といるともっと楽しい
───
「…ぬ、莉犬!」
名前を呼ばれてはっと顔を上げた。その拍子に背中にかかってた上着がばさっと床に落ちた。
「あ、起きた。おはよう」
「あれ、るぅとくん?え、もしかして俺寝てた?」
「うん、よく寝てた」
いつの間にかつられてこっちも眠ってしまったらしい。
「そろそろ時間だから、行かないと」
「あ、うん。ありがと」
結局こうなっちゃうんだよなー。
ちょっとくやしい(笑)落ちた上着を拾いながら荷物を持って立ち上がる。
「──さっき僕が寝てる時、歌ってた?」
聞かれてたんだ。
「うん」
「すこく気持ちよかった。なんだか子守歌みたいで」
「えっ?」
「ほら、行こ」
そう言うるぅとくんの顔はちょっといつもより幼く見えて、ああやっぱり最年少なんだなーなんておかしくなる。
優しいけどたまに毒舌キツくて、でも面白くてちょっと可愛かったりもして、そして音楽を誰よりも愛してる。大好きで大切な相方にして親友。これからも、一緒に、果てない夢をみんなで、君の隣で、追いかけたいんだ。そしてまだ見えないいつかの未来で、いっぱい過去の話をしよう。
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