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第二章 小さな光
第三話 警鐘
カン――――。
遠くで鐘の音が鳴った気がした。
ジントは薄く目を開く。
暗い。
まだ夜だ。
窓の外には月明かりだけが広がっている。
どれほど眠れたのだろう。
ようやく浅い眠りへ落ちたばかりだった気がする。
気のせいだろうか。
そう思い再び目を閉じる。
だが
数秒後。
カン――――!
再び鐘が鳴った。
今度ははっきり聞こえた。
ジントの胸がざわつく。
嫌な予感がした。
ゆっくり身体を起こす。
そして
カン! カン! カン! カン!
激しく打ち鳴らされる警鐘が夜の街へ響き渡った。
「っ!」
ジントは飛び起きた。
警鐘。
それも夜中の警鐘だ。
ただ事ではない。
同時に、階下から扉の開く音が聞こえた。
マーサだ。
ジントは慌てて部屋を飛び出す。
一階へ降りると、すでにマーサが外套を羽織っていた。
その顔は険しい。
「ばあちゃん!」
「起きたかい」
短い返事だった。
外からは慌ただしい足音が聞こえる。
人々の叫び声。
馬のいななき。
何かが起きている。
間違いなく。
「何があったの?」
マーサは窓の外へ目を向ける。
「……魔物だろうねぇ」
ジントの背筋が冷える。
魔物。
ラディス周辺では珍しくない。
けれど街へ侵入されることは滅多にない。
結界石があるからだ。
北門にも。
南門にも。
街の各所にも。
だからこそ、今夜は異常だった。
その時、外から怒鳴り声が響く。
「北門だ!」
「北門へ応援回せ!」
「結界石が弱ってるぞ!」
ジントは息を呑んだ。
北門。
薬屋から近い。
胸の奥がざわつく。
嫌な予感がする。
理由は分からない。
けれど、身体の奥が落ち着かなかった。
ーーー
バァン!
突然、扉が勢いよく開いた。
「ジント!!」
聞き慣れた声だった。
「ダイチ!?」
息を切らしながら飛び込んできたのはダイチだった。
服の上から革の防具を着込んでいる。
腰には青い魔石のついた剣。
戦闘用の装備だった。
どうやら家から直接、馬を飛ばしてきたらしい。
額には汗が滲んでいた。
「無事やったか!」
その第一声に。
ジントは少し目を見開く。
街が襲われている。
なのに、ダイチは真っ先にここへ来たのだ。
「俺は大丈夫」
「良かった……」
ダイチは本気で安堵した顔をした。
その表情を見て
ジントの胸が少しだけ温かくなる。
だが次の瞬間
ダイチの顔は真剣なものへ変わった。
「北門で魔物が出とる」
低い声だった。
「数が多い」
ジントの胸の奥がざわつく。
なぜだろう。
魔物という言葉を聞いた瞬間。
頭の奥が妙に熱くなった。
「俺も行く」
思わず言った。
だが
「アホ」
即座に却下された。
「何言うてんねん」
「でも……」
「ジントはここにおれ」
珍しく強い口調だった。
「俺が行ってくる」
「ダイチ!」
「大丈夫や」
そう言って笑う。
昔から変わらない笑顔。
けれど、どこか無理をしているようにも見えた。
「すぐ戻る」
ジントは言い返せなかった。
ダイチは強い。
街でも有数の実力者だ。
だから大丈夫。
そう思わなければならない。
なのに、胸の奥がひどく苦しかった。
まるで何かが警告しているみたいに。
ーーー
ダイチは外へ飛び出していった。
扉が閉まる。
静寂。
いや。
静寂ではない。
外からは悲鳴が聞こえる。
怒号も。
魔物の咆哮も。
全部聞こえる。
ジントは拳を握った。
胸が苦しい、呼吸が浅い。
何かがおかしい。
瘴気が濃い、濃すぎる。
「……っ」
頭が痛い。
黒い霧のようなものが街中へ広がっていく感覚。
見えているわけではない。
けれど分かる。
そこにある。
怒り。
恐怖。
悲しみ。
負の感情が胸へ流れ込んでくる。
まるで、自分へ集まってくるみたいに。
「ジント」
マーサが静かに呼ぶ。
振り返る。
マーサは何かを決意したような顔をしていた。
そして、ジントの胸元にある御守りへ視線を落とす。
「……絶対に外へ出るんじゃないよ」
その声は
今まで聞いたことがないほど真剣だった。
ジントは頷けなかった。
なぜなら、もう気付いてしまったからだ。
胸の奥のざわめきが
ただの恐怖ではないことに。
それは、もっと別の感情だった。
嫌な予感。
焦り。
そして、ダイチが危ない。
理由は分からない。
けれど、その考えだけが頭から離れなかった。
コメント
1件
comiさんの「警鐘」第11話、読んだよ…🌙 夜中に鳴り響く警鐘、街の騒乱、そしてダイチが真っ先にジントの無事を確かめに来たところがすごく心に残った。あの「無事やったか」の一言に、二人の関係性が凝縮されてる気がして胸がギュッてなったよ。 でもジントが感じる瘴気と、ダイチに向かう嫌な予感…。なんであそこまで焦るんだろう。ジントの中に何かが目覚めようとしてるのかな。続きが気になって仕方ない…🥀