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若井 side
何度も体を重ね、何度も絶頂を涼ちゃんに与えた数時間。
既に数回達していた彼の身体に無体を働くのは酷かとも思ったが、むしろ彼の方が「ソレ」を強く望んだため、結局長い時間愛し合うことになった。
さすがに疲れが出たのか、涼ちゃんは最後の絶頂で意識を手放し深い眠りへと落ちていった。
そんな彼を優しく抱きしめ、寝やすいように寝衣を整え布団を掛けてやる。
規則的に上下する布団を眺め、思わず微笑んでしまった。
すうすうと寝息を立てる彼の透き通る肌に思わず手を伸ばす。
つう、と頬を撫でると、むにゃむにゃと彼は唇を動かした。
「ん…、……ん」
「……(起きちゃったかな?)」
「………も、とき……」
「……(!)」
彼は小さく微笑んで、そう呟いた。
夢を見ながら口にする名前は「もとき」。
つい先刻まで愛し合っていた「ひろと」ではない。
そんな些細なことに、寂しさを感じる。
……所詮、俺と涼ちゃんはセックスフレンド。
元貴とは圧倒的価値の差だ。
涼ちゃんが心から愛するのは元貴であり、俺ではない。
俺にも「すき」と言ってくれるが、元貴に対する「すき」とは本質が違うのだ。
それはわかってはいるが、いざ面と向かうとやはり、寂しさと、恋しさと、一抹の嫉妬心を覚える。
……まあ、今更彼を手に入れようなんては思わない。
彼に好意があるのは変わらないが、身体の関係だけなのは意外と気楽だし、何より今の俺には他にも「楽しみ」があるのだ。
「……じゃあ、また。りょうちゃん。」
彼の頬にちゅ、と小さくキスを落とし、姿見の前で自分の身なりを整える。
そのままバッグを背負い、静かに彼の家を後にしたのだった。
夜もだいぶ更けた街中、車を走らせ我が家へと辿り着く。
「……ただいま」
重い扉を開け、暗い玄関に小さな声で帰宅を告げた。
手元の明かりを付けると、玄関のタイルの上に俺のものではない靴が置いてあった。
「ーーーおかえり、若井。遅かったね。」
俺の帰宅の気配に気づいたのか、リビングからわざわざ出迎える先客。
「先客」と言ってもここ、俺の家だけど。
「ん、ただいま。来てるなら連絡してよ」
「いや、めんどいからさ。」
「そう」
「バッグ持とうか?」
「いいよ、リビングで待ってて」
元貴の気遣いを断り、靴を脱ぐ。
リビングで待てと言ったのに、彼はどうやら俺が部屋に上がるのを待っているらしく、壁に持たれたまま動かない。
「何してるの、ほら行くよ」
「はぁい」
にこにこと楽しげに笑う彼の手を引き、リビングのドアを開ける。
テーブルの上には、料理が湯気を立てて並んでいた。
「え、ご飯作ったの?」
「いや、これ出前したやつ。何も食べてないだろうと思って。温めといた。」
「へえ、やさし。……あれだけシといて疲れてないの?」
「ええ?……ふふ、ま、若いですから。」
「いや同い年だろ。」
クス、と笑い、いつもの席につく。
自然と向かいに元貴も座り、俺がご飯を食べるのを見守っていた。
「で、どうだった?今日は。」
「え?んーまあ、いつも通り。」
「ふふ、そっかぁ。……あ、そうだ。『どっち』が好きって言ってた?」
「選べないってさ。」
「え〜また?!酷い!」
「もっと腕磨いた方がいいんじゃない?」
「これでも毎日精進してますよ!も〜ほんと貪欲だな、あの人は。」
「あ、このスープ美味しい」
「話逸らした!」
彼の持ちかけた話題を逸らすように、目の前の野菜スープを啜る。
うん、適度な塩加減が良いな。
「でもさ、今日は僕に譲って欲しかったなぁ…」
「え〜?何で?」
「だって、今日調子良かったし、レコ早く終わったし……、すっごい気分よかったから。」
「ああ……、なんかちょっとルンルンしてたもんねぇ。」
「そう!だからりょうちゃんとご飯でも食べよっかな〜って思って迎えにいったら!若井がりょうちゃんのこと襲ってるし!さすがに今日は怒ったから!」
「知〜らない。俺だってりょうちゃんのこと好きだし〜」
「ったく、若井、いつからそんな性格悪くなった?」
「それも知らない。……元貴、お前のせいかもよ。」
ガタン、と椅子を鳴らして立ち上がり、向かいに座る彼、……そう、元貴に俺はキスをした。
口付けられた彼はフフ、と妖艶に微笑み、俺の頬を撫でる。
「…今日は、どっちにする?」
「えー、じゃあ、若井のこと抱きたい」
「ダメ、俺が抱く」
「はぁ?なら聞くなよ!」
互いに縺れるようにソファになだれ込む。
彼の首筋を強めに吸うと、小さく呻く。
「ん…若井、つけたでしょ。」
「ン」
「りょうちゃんにも付けたよね。」
「うん、付けた。あ、……それで酷い目にあったって言ってたな。」
「キスマークは怒るわ!恋人がキスマ付けられてるんだよ、マジ最悪!」
「仕方ないでしょ、俺たちの関係上。」
「りょうちゃんにはダメ!付けたいなら僕にどうぞ!」
「はは、なにそれ……。じゃあ…まあ、遠慮なく。」
じゃれ合いながら、元貴の服を脱がしていく。
もちろん、耳や首筋、胸元を愛撫しながら。
「ン、ッ……んん、若井、元気すぎ……」
「元貴だって、そうでしょ?」
「そ、だけど……若井さっきまでりょうちゃんとしてたじゃん…っ、よく連続で……、ッア、あん」
「そういう俺が好きなんでしょ、元貴は。……ほら、もう濡れてる。」
「ンん、…もぉ、いつもこうやってりょうちゃんに、してるんだっ」
「…どうかな。」
「アア、ッ、ん、ぅ、若井、わか、ん、んんッ……!」
ーー俺と元貴は、りょうちゃんを「共有」している。
もちろん、りょうちゃんと正式に恋人として付き合っているのは元貴で変わりない。
俺はその仲に割り入る愛人的なものだ。
なぜ、俺達三人がこんな関係に至ったのか?
始まりは、元貴のあの一言だった。
『若井って、りょうちゃんのこと好きでしょ、そういう意味で』