この作品はいかがでしたか?
20
この作品はいかがでしたか?
20
結婚から1年と少しが過ぎた頃。
私は毎日体調を崩し、病院に通った。
「今まで飲んでいた薬の情報なんでもいいので教えてください」
痩せ細った体には薬が強く効きすぎる場合もあって、あらかじめ服用していたことのある薬を知る必要があった。
前の家に全部あるんだ…
もう彼が住んでいないかもしれない。彼とは連絡をとっていないし、あれから1年くらいが経っている。
それなのに不思議といる気がして、とにかく向かった。
ひさびさの家は少し綺麗に見えた。
「橋本」
彼の名前の表札が今も残っていて、彼がここにいること、彼がまだ住んでいることがわかった。
なんか、安心した。
自己中でクソで、薬なんかのために家に来て…
でも私の症状はかなり深刻だった。
悩む暇もなく、チャイムを押した。
「愛衣奈…?」
久々に見た彼は、私みたいに痩せ細っていた。
仕事もできず家に引きこもって過ごしていた1年を物語るように、家の中はあの頃と違って汚く、ひどく散らかっていた。
綺麗に見えたのは、今のアパートが少し汚いからだろうか。
少し驚いた彼は、出会う前のようなクールさで私を座らせ、落ち着いた雰囲気でお薬手帳を探してくれた。
私はもう忘れてしまったのに、大切なものはここにあるはずだと…彼は全てを覚えていた。
本当に大切だったものはなんだったんだろう。
痩せ細った私になにも言わず、そして私も彼に何も言わず、無言で家を出た。
また帰れる気がして。
自己中で、クズで、ゴミで、散々な私だけど…
今の生活は昔より豊かな気がしていた。
自分の仕事の量も減らしたし、玲央も残業がない会社だから早く帰ってくる。
好きなことはたらふくさせてくれて、サプライズもしてくれて。
文句なしの玲央だった。
けど、そんな生活はもう終わりだった。
「治療が必要になります。このまま悪化すれば、もう治らないでしょう。」
ざっくりとした余命宣告に、治療が成功したらまた元気に生きることができる、というものだった。
私にも玲央にもそんな財産は残っていない。
玲央に相談、するしかなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!