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[ガラスの靴の真実]
涼架side
文化祭当日、クラスのシンデレラの劇で大成功を収めていた。
若井君との一件以来、いじめグループは私に関わってこなかった
私は、若井君の励ましのおかげで一度も泣くことなく練習を乗り越え、本番の舞台に立っていた
シンデレラの衣装を身につけた涼架は、これまでの彼女とはまるで違う堂々とした姿で演技を続けた。
物語は順調に進み、ついに最後のシーンになった。
王子様がシンデレラに一目惚れする舞踏会の場面だ。
時計の鐘が鳴り響き、涼架は舞台を去る
その後、王子様の家来がシンデレラが落としたガラスの靴を持って彼女を探しにやってくる。
家来役の生徒が、義理の姉役のいじめグループの女子の元へと向かう。
いじめっ子たちは、わざとらしくガラスの靴が自分たちの足に合わないことを演じていた。
その時、義理の姉役の一人がこっそりと別のガラスの靴とすり替えていたのだ
それは、練習で使っていたものよりも明らかに小さいサイズのものだった
そして、ついに涼架の番になった。
家来役がガラスの靴を差し出すと、義理の姉役の女子が涼架にだけ聞こえる声で囁いた。
「ほら、シンデレラ。ちゃんと履いてよ。お客さん、見てるよ」
その声には、冷たい命令が込められていた。
涼架は、一瞬動揺したがすぐに我に返った。
これが最後の、そして最大の罠だった
私は、意を決して自分の足をガラスの靴に入れようとした
しかし、靴が小さすぎて、私の足には到底入らなかった
私は、無理に足をガラスの靴に入れようとした
その瞬間、足から激痛が走り血が滲んだ
舞台の上で涼架は血に滲んだ足でガラスの靴に必死に足を押し込もうとしていた。
いじめっ子たちの囁き声と、観客席からの温かい拍手。その二つの音が、私の心をかき乱した
涼架は、このままではいけないと分かっていながら、恐怖に体が動かなかった。
その異変に最初に気づいたのは若井だった。
若井は、舞台袖で涼架の演技を見守っていた
遠目からでも、涼架の顔が青ざめていること、そして足元が何かがおかしいことに気がついたのだ。
「…おい、どうしたんだ?」
若井は、すぐ隣にいた王子様役の男子に話しかけた。
王子様役の男子も、涼架の異変に気づき戸惑いを隠さないでいた。
「分からないけど、涼架さんの様子が変だ…」
若井は、一瞬の躊躇もなく決断した。
若井は、王子様役の男子の肩を掴み、真剣な眼差しで言った。
「悪い、役変わってくれ」
王子様役の男子は驚いたが、若井のただならぬ雰囲気に気圧され、こくりと頷いた。
若井は、王子様役の衣装を手に取ると、一瞬のうちに着替え舞台に飛び出していった
舞台の上では、義理の姉役の女子が涼架を嘲笑うように囁き続けている
若井は、その女子たちを睨みつけるとまっすぐ涼架の元にへと向かった。
「シンデレラ、大丈夫かい?」
若井君の声が観客席に響き渡る。
その声に、私ははっと顔を上げた
そこに立っていたのは、王子様役の衣装を身につけた若井君だった
彼のまっすぐな眼差しと、優しく力強い声に、私の心に光が灯る
「シンデレラは、靴で幸せになるんじゃない。自分の力で幸せになるんだ」
彼の言葉に、女子たちは戸惑い、観客席からもどよめきが起こった。
若井は、王子様役の男子に『悪い、勝手に』と目配せすると、涼架の手を優しく掴み、彼女を舞台の中央へと促した。
「ほら、おいで。君の居場所は、ここだよ」
若井君の言葉に、私はもう迷いはなかった。
私は、血が滲んだ足を引きずりながらも、若井君の隣でまっすぐ前を向いて立った
義理の姉役の女子たちは、自分たちの思惑が外れたことに、ただただ呆然としていた。
若井君は、私の足元を心配そうに見つめると私の体をそっと引き寄せた
そして、私の足を庇うように、自分の体で観客から隠す。
彼は、私の耳元でそっと囁いた
「もう、大丈夫。泣かないで」
若井君は、そう言うと私を優しく抱きしめた。
私の顔が、彼の胸にうずめられる。
私は、彼の温かい抱擁の中で、これまでの恐怖や、一人で戦ってきた孤独がすべて溶けていくのを感じた。
若井は、涼架を強く抱きしめながら観客席に向かって強く語り始めた。
「この物語のシンデレラは、ガラスの靴を履いて幸せになるんじゃない。
自分の力で困難を乗り越え、自分を信じてくれる人と新しい物語を始めるんだ」
彼の言葉は、涼架へのそして、いじめっ子たちへのそして、何よりも自分自身への決意表明だった。
若井は、ギターという大切なものを失いながらも涼架というかけがえのない存在を守り抜いた。
会場からは、大きな拍手が沸き起こった。
それは、劇の演技に対する拍手ではなく、若井の勇気と涼架の強さに対する、心からの賛辞だった。
次回予告
[ガラスの靴はいらない]
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コメント
4件
若井くん最高!!私が客席に居たら涙ショックだったと思う( ;∀;)
いや、若井くん天才か? そりゃあ好きになりますわかな、
その劇の観客に混ざり込んで盛大な拍手を送ってあげたい(泣)