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ここまでのあらすじ ~駝肉(だにく)のパテ~


茨城遠征から帰ってきたコユキは善悪から指示された肉をしっかりと確保していた。

モモ肉、ムネ肉、に加えて別に態々(わざわざ)指定された部位、レバー、肝臓を購入して帰りついたのであった。

肉の元々の個体名は、いわゆるオーストリッチ、ブツブツした皮の名前と同じである、つまり駝鳥(だちょう)だ。

こんな肝臓をどうするのだろう? というコユキの疑問を裏付けるように、帰宅した当日はモモ肉のロースト。

その翌日にはムネ肉をじっくりと煮込んで風味付けに使用した、シチューで、一緒に煮込まれた根菜、茎菜(けいさい)が舌を楽しませたのであった。


そして迎えた三日目の夕食、善悪が満を持して食卓に送り出したメインディッシュは駝鳥の肝臓、そのパテのローストであった。

丁寧な下拵え(したごしらえ)を経て、これまた、細心の注意と調理技術を駆使して、裏漉し(うらごし)、整形の手順を数度繰り返した、クリーム状のパテを、シンプルで臭みの無い紅花オイルで低温の火にゆっくりと晒し(さらし)て炙っていく、こう言う料理は時間の掛け方が最終的な味の可否を決めるのだと、確り(しっかり)分かっている善悪ならではの手際といえるだろう。


付け合わせは、あえて野菜を避けて、国産のホタテ、その貝柱を一旦冷凍して、自然解凍した、ドレインを取り除いた物を、こちらは濃厚な無塩バターで焼き上げた物を選んだのである。

ソースは、それぞれの焼き残りの旨みを、敢(あ)えて一旦捨て去った上で、赤ワイン、塩コショウとシンプルにレモンの搾り汁(×2個)を、ほんの少し煮詰めて終了とした。


出来栄えの彩りに、ドライのパセリと、何時も(いつも)ながらの黒胡椒(摺り(すり)立て)をまぶしかけて、出来上がりとしたのであった。


「ささ~召し上がれ~」


笑顔で微笑む善悪の表情を見つめた後、コユキ(本編の主人公)は、恐る恐る生まれて初めてのオーストリッチの肝を味わうのであった。


「ん、んん――――!」


善悪の意図が料理に疎い(うとい)コユキにも一瞬で伝わった瞬間であった。


敢えて旨みも、新たな甘みも加えなかった、酸味と僅か(わずか)なえぐ味を残したソースの存在意義がそこには一目瞭然存在していたのである。

その、ソースに引き立てられたレバーパテ、その芳醇(ほうじゅん)な甘みが、酸味の効いたソースに引き立てられて、コユキ口中に果てしない広がりと喜びを齎(もたら)していたのである。


「……うんんんんんん~! うんまいっ!」


コユキは初めて食べた駝鳥の肉のパテ、そのローストに最高の賛辞たる叫びを上げるのであった。


駝鳥肉(だちょうにく)の果て ~完食~

※十二杯お代わりしちゃいました(テヘペロ:Byコユキ)




富士山麓…… 富士宮口五号目の駐車場に軽バンを停めた幸福寺一行は山の中を真直ぐに目的地に向けて歩き続けていた。


素直に富士宮から向かえば良かった物を、善悪の拘り(こだわり)によって、一旦御殿場によってから、態々(わざわざ)富士宮口まで移動して来たのであった。

善悪はいつもの作務衣(さむえ)、コユキもお馴染みのツナギに身を包み、そろってごっついリュックサックを背負っている。


オルクスは善悪の襟(えり)の合わせの定位置に、ラマシュトゥとシヴァは同じく善悪の両肩に乗っかっていた。

一方コユキの肩の上には、パズスとアヴァドンが、胸の両ポッケにはアジ・ダハーカとモラクスがちょこんと顔を出している。


一行はオルクスの案内に従って、道も無い自然林の中を、口笛を吹いたりしながら、見るからにリラックスした風情で進んでいった。


ヘルメスベルガー二世の『悪魔の踊り』をご機嫌で奏でる善悪とコユキに合わせるように、特徴的な打楽器パートをそれぞれの鐘の音で迫力満点に再現する七人。

たった二人で、何重奏にも重ねるはずのクラリネットパートを受け持ちながらも、楽しそうにしている所は流石(さすが)は聖女と聖戦士と言えるだろう。

ヨーゼフも草葉の影で喜んでいてくれると良いのだが……


丁度キリの良い所で、コユキが善悪に声を掛ける。


「この辺りで一旦休憩にしない? お茶飲んで○屋でも摘(つま)んで一息入れようよ」


善悪が周りを見回してから指を指しつつ答える。


「んじゃ、あそこの倒木を椅子代わりにするでござる」


そう言って、鬱蒼(うっそう)とした森の中をてくてく歩いていったのであった。

倒木に腰掛けて、自分のリュックの中から『おーいしぃ茶糖茶(無糖)』を二本取り出して片方をコユキに渡した。

スプラタ・マンユの七人もそれぞれが背負ったペットボトルの蓋を押さえていた、輪ゴムを外して、善悪にお茶を分けてもらっている。


皆に飲み物を配り終えた善悪は、紙皿の上に、御殿場で購入した羊羹(ようかん)を切り分け並べていく。

室町時代から続く、日本全国の有名百貨店に出店している、かの名店・○屋の羊羹をこのピックニック(実際は魔界への旅)の為に、横に長い静岡県をぐるっと回り込んでまで、入手した一品であった。


「ネネ、○ヤ、ジャ、ワカンナイ、ヨ」


オルクスが困惑したように言った。

そりゃそうだ、と納得したコユキがヒントを与える。


「んとね、ネコ科の大きい猛獣の名前よ、ほらガオォって♪ んで、ライオンじゃ無い方ね、わかる?」


ナイスヒント! 日本人だったら大体分かる感じである。

しかし、悪魔達にとっては少々事情が違ったようだ、小声で、


「兄様、オセ、かしら? 軍団長の一人の、違います?」


「そうだな、オセであろうな? え、いやいや、えっ! これ、あいつの肉なの? か?」


「くふふふ、彼奴(きゃつ)ともあろう者がこの様な姿になり下がるとは、ご自慢の軍団もカタナシだな」


「馬鹿な事を言うのでは無い、恐らくこの甘味を作っている店舗の屋号ではないだろうか」


「お、美味いな、な、パズス兄、これなら誰の肉でも構わんぞ!」


「そこは構うだろ…… まあ、確かに美味い事は、いや、なんだこれ! 絶品じゃないか!」


「トラ、ウマ、トラ、ウマ!」


別にオルクスが心的外傷を負った訳ではなく、コユキのヒントを一人だけ正しく理解しただけだろう。


「どうでござる? コユキ殿?」


「うん、やっぱり美味しいわね虎○は、小豆は勿論、水に対する拘り(こだわり)がパないわね! でも何かちょっと食べたら却(かえ)ってお腹空いて来ちゃったわ……」


善悪の問い掛けにコユキが答え、空腹を訴えてきたが、善悪は満面の笑顔で答える。


「そう来ると思っていたでござるよ! ついさっき歩きながら良い物見つけたのでござる! ふっふっふ、ちと、お待ちを~」


そう言い残すと、足元激悪(げきわる)の自然林の中を、シュババババッと走り去って行ったのであった。


ほどなく、大体五、六分の時間経過の後、森の中から姿を現した善悪は、両手に抱えきれ無いほどの、キノコを抱えてニカッッと笑っていた。


「おまたせぇ、ぬふふ、でござる! じゃぁ、行っちゃおうか! ローストマッシュゥフェスティボォー!!」


何やら祭りの始まりを宣言する善悪に、慌てたようにコユキが確認を入れる。


「ちょ、ちょとぉ、善悪、大丈夫なの? それ、毒キノコとか、そんなオチじゃ無いでしょうね?」


いつもの様に、いや、いつも以上に無駄な爽やかさをその顔に浮かべて、善悪は胸を張って答えた。


「あー、やっぱそう思っちゃうでござろ? ところがどっこい! 残念でしたぁ、ここに集めてきたのは、絶対大丈夫な保証付きのキノコン達だけでござるよん! 檀家の爺(ジジイ)に聞いておいて良かったのでござる!!」


なにやら、自身満々のご様子だ……

そこまで言うなら、いや、言ってしまったのなら仕方が無い、そう思ったコユキは勇気凛々で宣言した。


「分かったよ、善悪! じゃぁ、いただこうじゃないの! 調理ヨロ!!」

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