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盛大な、いや、欲張りすぎる創造神の、誰でも分かるフラグに、思いっきり乗ってやろうと、度胸一発! 宣言したコユキの言葉に反応する事も無く、困ったちゃんの善悪は、リュックの中から簡易レンジを取り出して、小さめのフライパンに油を注して、ジュージューと採ってきた訳の分からないキノコ達をローストし始めてしまった。


うん、え、あれれ、何だ、この良い香りは……


そんな風にコユキが思ってしまい、お腹をグウゥと鳴らしてしまったのも無理は無い!

そう思えるほど芳醇(ほうじゅん)な香りが辺り一面を包み込んだ。


善悪がガスバーナーの周りに積み上げていた、杉の枯れ枝もこのえもいわれぬ香りの一助(いちじょ)となっていたのであろう。

全く五感で味わせる極上の料理人、我等が王国の剣(つるぎ)、善悪の実力が余す事無く発揮された瞬間であった、初めてのみんな揃っての遠征、その意味がこの香りに集約されていたと言っても良い奇跡の時間であった。


善悪から渡された紙皿には、琥珀色(こはくいろ)の液体、当然醤油だな、っと思っていたコユキはその予想を裏切られてしまうのであった、嬉しい意味で……


善悪が渡したそれは、ただの醤油? とんでもない!

遠く離れた広島県福山市の歴史ある、いや有り過ぎの醸造所から取り寄せた生醤油(きじょうゆ)をベースに、大量の味醂(みりん)、季節の果物の搾り汁をセンス(感覚)に従うままに加えた、毎年微妙に違うポン酢、幸福寺オリジナル2019善悪スペシャルであったのである。


つけだれとしてだけでなく、なんなら直接飲んだとしても、優しく、しかしその年に生まれた食材としての命を目一杯に凝縮し、その上で醸(かも)し上げるべき時間を経た、至高の一品、メシドロボウが今、コユキの手の中で、口腔(こうくう)に運び入れられる時を心待ちにしていたのである。


徐(おもむろ)に、良い感じで香ばしい匂いを発っしている、なんだろうか?

たぶんエノキダケであろうと思われる。

可愛いピンクのファンタジックな色目は、我々がスーパーマーケットで目にするエノキとは一線を画する、大きさも同様である!


コユキはその薄桃色に少しだけ焼き色を加えた茶褐色のキノコを、善悪謹製(きんせい)のポン酢にズズズっと燻(くゆ)らせてから、自他共に認めざるを得ない食いしん坊の口へと運び込むのであった。


「んんんんんん――――!! な、なにこれ? お、お、美味しすぎるわよおぉ?」


確かこれ、魔界に攻め込む死兵たろうと、必死の覚悟で魔王に挑む一行だったよね?

ここでグルメっぽい流れになっちゃうんだ。

ま、まあ、良い、観察者として、確り(しっかり)目にし、心の奥にしまい込む事としようではないか、我が最愛の祖父母の歴史を変える戦い、その最初の一戦を……


美味しそうにエノキ(真っぴんく)をポン酢に浸して口に運び続けているコユキ、スプラタ・マンユの皆も美味しそうに頬張っている。

その嬉しそうな姿に、いつもはお留守番が多かった善悪も、皆以上に嬉しそうにしていた。

だったが、次の瞬間、善悪は厳しい声で、大きく叫ぶ事となった。


「そこにいるのは誰でござるっ! 名乗れ! 名乗らずに近付くのならば、容赦はせぬ!」


そう叫んだ善悪は、何時(いつ)もの人の良さそうな中年の親父ではなく、群れを守ろうとする気高きリーダーの風格を纏(まと)っていた。


ビックリしながらその顔を見上げたコユキは、激しい動悸に見舞われながら思った。


くっ、またもや不整脈か、こんな時こそ善悪と共に戦わなければならないのに、自分の不健康が憎く感じる今日この頃、茶糖コユキもうすぐ四十歳! と……

堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

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