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コユキも納得して、オールスターズに対して説明をする事にした。
「実はちょっと体を悪くしてしまったみたいで、なんだっけ? えっと、カッペとか言うので足が動かなくなっちゃたんですよね、それで、仕方なく体重移動に頼って動いていたと…… そう言う訳なんです」
折角説明してあげたにも拘(かかわ)らず、どうやら理解するには知性が足りていなかったらしく、『カッペ?』とか言いながら揃って首を傾げている。
仕方なくコユキは徐(おもむろ)に両足の力を抜いて膝立ちになり、その姿勢のままで説明を続ける。
「こうして膝を下ろす事は出来るんだけど、ここからは転がる位しか動けないんで、そこで、こうやって……」
言いながら、コユキは少しだけ腰を屈めてから、勢いよく上に向かって伸ばした。
腹や胸、腕や肩、顎に至るまで、全ての上半身の贅肉が一斉に上方に向かって寄り集まり、コユキの体を浮き上がらせた。
コユキはその浮上のタイミングに合わせて、膝を抵抗無く楽々と伸ばし、再び直立の姿勢に戻っていた。
「「「「おおっ!」」」」
見ていた者達の口が、例外なく感嘆(かんたん)の声を上げ、その中の一人が堪え切れないといった感じで声を続けた。
「じゃ、じゃあ、あの、倒れた状態からこう、なんか不自然に起き上がるヤツは? あれはどうやってんだ?」
みんなが驚くのが面白かったのか、コユキは嫌な顔一つせずに、黙ったまま丸めた布団の上にパタンと倒れ込んで言った。
「これも原理はさっきと一緒なんだけど、方向がね? 上じゃなくて前に移動させれば、っ!」
コユキが上体起こし(一センチ程だが)の動きをすると、上半身が踵(かかと)を支点にしてすぅ~っと持ち上がって行き、九十度の所まで来ると、先程横になっていた姿勢のままで立っていたのだった。
「「「「「すっげ――――っ!」」」」」
大騒ぎであったし、コユキも満更ではなかったのか嬉しそうに笑っているが、オールスターズの語彙(ごい)力は相変わらず残念だった。
「すげーすげー、すげー!」 わかったよ
「これ世界取れるんじゃねー?」 なんのだよ
「やべっ、涙出て来たよ……」 ええぇっ
「逆に! 逆にスゲーよ!」 逆の意味分かってるの
「うぅ、驚きすぎたのかな、吐きそう!」 それさっきの後遺症じゃ……
興奮がピークに達したのか、激辛の刺激物が脳に何か影響を与えたのか、何人かは寝っ転がってコユキの真似まで始める始末であった。
当然そんな貧弱な贅肉では再現する事は叶わず、無念そうに肩を落としていたが……
その内の一人が、体についた砂利や埃を払いながら立ち上がって、
「でも、これさ、こんな事が出来るんだったら、ほら、さっきのタックルとかラリアート、追撃のニードロップやエルボーなんかの攻撃にも応用出来るんじゃないかい?」
と口にし、それを聞いたコユキは、はっとした顔をして、俄(にわ)かに考え込むのだった。
暫く(しばらく)、ブツブツと小声で考えを纏め(まとめ)ていたコユキだったが、徐(おもむろ)にラリアートの構えを取った。
ただし、いつもより少し前方に構え一旦引いてから素早く前に押し出すように……
ボンッ!
周囲に轟(とどろ)いたのは、不自然な破裂音だった。
可燃性のガス溜まりに火をつけた時のような、瞬間的に回りの空気を強制的に押し広げるようなその音は、決して腕を振るった際に聞こえて良い物では無かった。
驚愕した表情で言葉を失うオールスターズの面々。
原因を自らの右腕で生み出したコユキも、信じられないといった表情のまま、自分の右掌をじっと見つめたまま固まっている。
ややあって二度三度と腕を振り出したが、その都度ボンッ! ボンッ! と、周囲に破裂音が響き渡った。
その後、無言のまま丸めた布団を立てたコユキが、僅か(わずか)に体を後ろに反らしてからタックルをしたようだった。
なぜ憶測のように言ったのかといえば、タックルしたであろうコユキの動きは誰の目にも止まらなかったからだ。
一瞬その姿がぶれたと思った直後、布団のあった場所にはコユキが体の前に腕をクロスして直立しており、布団は数メートル先の庭木の幹に激突し、ズドッ! と音を立てて倒れた。
こちらも、布団が立てた音とは思え無いほど、重厚な響きであった。
その音が消えた後の静寂を打ち破るように届けられる声。
「驚いたでござるな……」
「センセイ! ……大丈夫ですか?」
見れば先程まで敲(たた)きに座り込み、虫の息であった善悪がいつの間にやら復活していたようで、境内脇の水道で農薬や刺激物を流し終え、今のコユキの一撃を目にして口を開いたようだった。
オールスターズのメンバーは、揃って善悪の所へ向かいながら、互いに体調を気遣う言葉を口々に掛け合っていく。
そんな善悪の元気そうな様子に安堵したコユキは、彼らとは反対側、飛んで行った布団の方へと、ス――っと音も無く移動して行った。
そこに倒れている布団に向けて、応用したニードロップを落とそうと考えたその時、離れた水場から善悪が声を掛けた。
「コユキ殿! 先程の技を使ってのエルボーやニードロップは止めて置くのでござる!」
眼球がグルグル回り続けているので、距離が開いていると殆ど(ほとんど)対象を視覚に捉(とら)える事は出来ないのだが、一応礼儀として、声がした方へ体の向きを変えてから答えを返すコユキ。
「はい、センセイが仰るのであれば止める事と致しますが、一体何故ですか? 攻撃手段、引き出しは多い方が良いと仰ってましたよね?」
そう言って首を捻っていると、オールスターズのリーダー的だと思った男性が近付いてきて、地面に横たわる布団を拾い上げつつ、善悪に代わって答えてくれた。
「あぁー、和尚さまがああ言っているのは、たぶんお姉さんの方を心配してるんだよ…… さっきの勢いで、布団越しとは言え地面にブチかましたら、お姉さんの肘や膝が持たない、悪くすりゃ粉砕骨折? とかな、やだろ?」