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「初めまして、サオリ・アーレンハイムさん。貴女が入るクラスの担任をしています、デーヴィド・ミッチェルです」
亜麻色の髪に、大人の色香漂う甘いマスクの男性は、デーヴィド・ミッチェル――ヒロインの攻略対象だった。
「ミッチェル先生、サオリ・アーレンハイムと申します」
習った美しい仕草を心掛け、丁寧に挨拶をする。
「生徒たちは、僕のことをデーヴィドと呼んでいます」
デーヴィドは甘く微笑んで言った。
「では、デーヴィド先生。これから、よろしくお願いいたします」
満足そうに頷いたデーヴィドは、ミシェルに向かって話しかけた。
「ミシェル君、今日の手続きは全て終了したので、君はもう教室へ戻っても大丈夫だよ」
「ありがとうございます。ですが……今日はこのまま、義姉が早く慣れるように、学園を案内しようかと思っています」
「なるほど。それなら、担当授業は終わったから、案内は僕が代わりましょう」
そう教師に言われたら、ミシェルは頷くしかない。
「デーヴィド先生、義姉をよろしくお願いします」
ミシェルはチラッと沙織を見た。沙織は、『大丈夫』と小さく頷いてみせる。
(お菓子について、探るチャンスかも……)
ステラには、先に荷物や支給された制服を持って寮へ向かってもらい、ミシェルは自分の教室へと戻った。
沙織は学園内をデーヴィドと二人でまわる。
「サオリさんは、この国では珍しい髪色と瞳をしているね」
「ええ、こちらの国ではその様ですね。私の国では、普通でしたので逆に……驚いておりますわ」
「僕は、とても美しいと思ってますよ。もし、誰かに何か言われたら、僕を頼ってくださいね」
(……良い先生? ただ、言葉がいちいち甘ったるい気がする……)
「ところで、先程サオリさんの入学資料を読ませてもらいました。属性が三つで、貴女も光属性があるのですね」
(貴女も――か)
「光属性は珍しいと聞きました。私の他にどなたかいらっしゃるのでしょうか?」
コテリと首をかしげて、可愛く教えてアピールをしてみる。
「……いや、以前にね。今は貴女の他には、残念ながら居ませんよ」
それが、スフィアを指しているとは分かる。ただ、デーヴィドがスフィアに対してどんな感情を抱いてるのかは、サッパリ分からない。
デーヴィドは、各学年の教室、職員室、魔法実習室、調合室、食堂、訓練場、講堂、図書室、中庭、寮の順で案内してくれている。
各学年の教室は今は授業中のため、廊下を通りながら見るくらいだった。カリーヌと沙織は、最終学年の三年生。そして、ミシェルは二年生だ。
大体の教室の場所を覚えてから、食堂に入った。
食堂と言っても、綺麗なレストランのようだった。カウンターの奥が調理スペースになっている。
王族は、基本的に自室で食べるので、食堂にはほぼ来ない。専属の料理人も居るし、毒見もしなければならないからだ。上位貴族の子は自室で取る場合もあれば、こちらを利用する場合もあるそうだ。
(あれ? カリーヌ様とミシェルはどうしてるのかしら?)
そんな事を考えつつ何気なくデーヴィドを見ると、カウンターの奥の調理スペースをジッと見つめていた。
「あちらに、何かありますか?」
「いや……。サオリさんは、お菓子作りとかお料理は好きですか?」
(何だ、そのお見合いみたいな質問は……?)
「お菓子なら作れますが、お料理は得意ではありませんから……微妙です」
バッ!と、デーヴィドは目を見開きこちらを振り返る。
「……え?」
(しまった。私、何か答えを間違えてしまったかな?そもそも、 貴族令嬢は料理なんてしないよね)
もう一度、デーヴィドは尋ねてきた。
「お菓子を作れるのですか?」
「作ることは出来ますが……それが、どうかしましたか?」
(デーヴィドは調理スペース見ていた……あ、もしかして! スフィアは、ここでお菓子を作っていた?)
「……いえ、何でもありません。では、次に行きましょう。」
デーヴィドはそれ以上深く訊くことはなく、剣技などを習う訓練場を通り、講堂へ向かった。
講堂は大ホールといった感じで、入卒式やダンスパーティー、楽団による演奏会等も行われるそうだ。ステージ上には、ピアノも置かれている。
(また、ピアノ!……ひ、弾きたい!)
「デーヴィド先生。ピアノって、弾かせていただくことはできますか?」
デーヴィドは、またしても目を見開き沙織を見る。
「……あまり、勝手には触ってはいけませんが。……今なら近くに人は居ませんから、弾きますか?」
「えっ!! 良いのですかっ?」
興奮気味の沙織を見て、人差し指を口に当て「内緒ですよ」とクスっと笑った。
ステージに登り、下に居るデーヴィドに向かってお辞儀し、椅子に座った。
(学校で弾くなら、当然ここは卒業式ソングよね)
鍵盤に指を乗せる。
最近では定番の有名な曲だが、卒業式にピアノに合わせて歌うとみんな泣く。とても心に染みる、そんな曲だ。
一曲弾かせてもらい満足したので、ステージを下りてデーヴィドの所へ行く。
「デーヴィド先生、弾かせていただき、ありがとう存じ……? 先生?」
瞑目していたデーヴィドは静かに言った。
「貴女は凄いですね……」
「な、何がでしょうか?」
「とても、素晴らしかった。心が洗われるようです」
「そう仰っていただけ光栄です」
その後、とても立派な図書館……いや、図書室を見学した。本の量にもビックリだが、その施設自体が工夫を凝らしたもので圧倒されてしまった。
今日は、朝から馬車での移動から始まり、色々と一気に見て回ったせいか、さすがの沙織も少し疲れてしまった。
ちょうど、中庭の噴水前にベンチがあったので、休憩させてもらうことにする。
「本当に広い学園ですね」
「そうですね。ここには沢山の生徒が居ますから」
「教師というお仕事は、大変ですか?」
何気なく思ったことを口にした。
デーヴィドは、心臓でも掴まれたかのように、苦しそうな表情をする。
(ええっ!?何か悪いこと聞いちゃったの?)
焦っていると、デーヴィドはゆっくり話し出した。