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殺しはしない。
だが、俺の「付与」なしでは指一本動かせない、ただの生きた置物へと変えられたのだ。
最強を自称していた冒険者たちが、今やルナの庭を飾る無機質なオブジェに過ぎない。
黄金の鎧をボロボロに凍らせ、無様に膝をつくバルトスの前に、俺とルナはゆっくりと歩み寄った。
「ゼ、ゼノン……貴様、何ということを……。ギルドは……人類の希望たる『聖域』は、これで本当に……」
「そんなものは最初からなかったんだよ、バルトス。お前たちが『才能』だと思い込んでいたものは、すべて俺が貸し出していただけの、ただのまやかしだ」
俺は冷たく言い放ち、震えるルナの肩をそっと抱き寄せた。
俺たちが守りたかったのは、世界でもギルドでもない。
この静かな森の、小さな屋敷での時間だけだ。
「これでもう、俺たちの邪魔をする馬鹿はいなくなったな。……帰るぞ、ルナ。特訓の続きをしなきゃならないし、お前が楽しみにしてたタルトも冷めてしまう」
ルナは、俺の足元で這いつくばる男を一瞥もせず、ただ幸せそうに、俺の腕に顔を擦り寄せた。
◆◇◆◇
それから、さらに数ヶ月が過ぎた。
森の屋敷には、かつてのようなピリついた緊張感はもう微塵もない。
大陸最強ギルド『聖域』はあの日を境に事実上の解散となり
バルトスたちのその後を知る者はいない。
再起不能となった彼らは、今頃どこかで自分たちの無力さを噛み締めていることだろう。
世界は相変わらず騒がしく
英雄の不在を嘆いているようだが、この深い森の奥までは、そんな些細な喧騒は届かない。
「……ルナ、今日のスープは少し味が濃かったか?」
俺が台所で鍋をかき混ぜながら尋ねると、背後からパタパタと小気味よい足音が聞こえてきた。
俺が買い与えたエプロンを身に着けたルナが、迷うことなく俺の背中にぴたりと抱きついてくる。
《……ん。……おいしい。ゼノン様……の、味……大好き》
俺が苦笑いしながら、空いた手で彼女の頭を撫でると、ルナはくすぐったそうに目を細めた。
彼女の胸元に刻まれていた忌まわしい呪印は、今では俺との繋がりを示す美しい紋章のように輝いている。
かつての俺は、誰かのために
組織のために魔法を使い、効率と成果という数字だけを信じて生きてきた。
だが、今の俺が魔法を振るう理由は、ただ一つ。
俺の背中に顔を押し当てているこの少女が
明日も、十年後も、百年後も、同じように穏やかに笑っていられるように。
「さて、食事が終わったら、明日は庭の向こう側に新しい花畑でも作るか。お前の瞳と同じ色の花を、一面に咲かせよう」
俺がそう言うと、ルナは俺の腕をさらに強く抱きしめ、声にならない歓喜の声を漏らした。
彼女が見せたその笑顔は、かつての暗殺者でも「懐刀」でもない
ただ一人の少女の、眩いばかりの輝きだった。